Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。AIやITがさらに発達する近未来でも活躍できる人を育てるために、いま企業がやるべきことは何か。未来への提言を与えてくれたのは、カルビーの代表取締役会長兼CEOとして8期連続増収増益を牽引した松本晃(まつもと・あきら)氏。日本型企業を変革した注目の経営者が考える「リーダーに求められる力」とは、一体どんなものなのでしょうか。

松本 晃 氏
2011年3月に東証一部上場を果たし、8期連続で増収増益を続けるカルビー株式会社。
その躍進の立役者となったのが代表取締役会長兼CEOとして、全社員を力強く牽引し続けた松本氏。
社員の士気を高め、自発的に考えて動く組織を作るための絶え間ない改革が、国内・海外でも大ヒットとなった「フルグラ」などの成功を次々と生み出してきました。
AIやITがさらに発達するであろう近未来でも、必ず活躍できる「自ら考える人」を育てるために、企業はいま何を変えるべきなのか? 9年間の改革の歴史から、そのヒントを紐解いていきます。

カルビーを8期連続増収増益に導いた松本氏の講演タイトルは「Change, or Die !」。すなわち、「変革しないのならば、死ね」ということです。お話しいただいたのは、「日本の古い企業を、いかにして変えてきたか」「それほど売れない商品を、いかにして売るか」そして「リーダーシップとは、どんなものか」という3点。まず最初に「現代のビジネス環境」について、その見解をご披露頂きました。

松本:実は、1990年頃を境にして「ゲーム」が変わりました。それまでは、いわば「相撲」のようなゲームでした。すなわち、厳密なルールで縛られたゲームです。ところが、1990年以降は、ある程度のルールの中であれば少しくらいの反則は許容範囲という「プロレス」のようなゲームになったのです。したがって、産業界はその様相を全く変えました。

こうした環境変化の中、日本型企業を変革してきた松本氏。その経営論は実にシンプルでした。

松本:経営者である皆さんの前で、長々と私の経営論を披露する気はありません。「私の経営論」なので、同意するもしないも、皆さんの自由です。

まず、「経営とは、全てのステークホルダーを喜ばせることである」ということです。そして、「会社の経営を易しく考えろ」ということ。会社の経営というのは実に簡単です。複雑なことはできないのです。とはいえ、簡単なことだからといって、簡単にできるかといえば、それは甚だ疑問です。では、どうやって簡単に考えればいいのでしょうか。会社の経営には「必要条件」と「十分条件」があります。必要条件は、当たり前のことですが、「世のため、人のため」ということです。私たちはそのために働いていますが、それだけではNPOです。十分条件は「儲けろ」ということです。儲けなければ、設備投資も、研究開発も、給与やボーナスの支払いも、雇用の拡大も、税金の支払いも、社会貢献も、何もできません。そして配当も支払えないのです。だから、儲けるというのは大変良いことです。

「うまくいく経営の3要素」があります。ひとつは「VISION(ビジョン)」。何のために会社をやっているか、それを明確にする必要があります。今は一人で事業をやっている方も、将来的には規模を大きくしたいと思っているはずです。その時は一人ではできません。会社というのは組織、すなわち人が必要です。その人たちを集めようと思ったら「VISION(ビジョン)」が欠かせません。「私と同じ考え方の人に集まって欲しい」「私と同調する人だけに来て欲しい」という時に必要です。

「VISION(ビジョン)」というのは観念的なので、割と抽象的なものです。従って、それを具体化する必要があります。それが「PLAN(プラン)」です。どんな商品を、どんなサービスを、いつまでに、どのくらいやるのか。これが「PLAN(プラン)」です。良い「VISION(ビジョン)」と良い「PLAN(プラン)」があれば、残るはあと一つ。それが「LEADERSHIP(リーダーシップ)」です。私の経営論は以上となります。

そして、松本氏によるカルビー復活の象徴ともなった「フルグラ」の成功へと話は及びました。松本氏は、まず「フルーツグラノーラ」という商品名を「フルグラ」に変えました。そしてマーケティングには古典的手法から脱却し、いわば「マーケティング2.0」を実行しました。「顧客の特定」「顧客の問題の特定」「顧客の問題の解決」という3ステップを確実にクリアすることにより、「フルグラ」の売り上げを25億円から300億円にまで伸ばすことに成功したのです。松本氏は「値引き」や「プロモーション」にばかり注力しがちな古いマーケティング手法に対して諫言を与えます。

松本:大切なのは、「お金」ばかりではなく、「頭」を使うことです。もちろん、ビジネスにおいては、時には「お金」も必要です。しかしながら、まず最初に使うべきは「頭」です。次に「汗」です。そして最後に「お金」です。一般的には、お金ばかり使って、頭も使わず汗もかかない人が多すぎます。「フルグラ」はこうして約12倍にまで成長しました。おそらく、このまま500億円程度まで成長すると思います。

組織を牽引するリーダーに求められる力についても、その持論を展開してくれました。どんな人に、人はついていくのか。リーダーに求められるのは「実績」「理論」「人徳」の3つだというのが松本氏の考え。全てを備えていなくても、1つでも2つでも持っていれば、良いリーダーになれると言います。さらに、「強いリーダーになるための3要素」についても言及されました。

松本:強いリーダーになるためは3つの要素があります。一つ目は「伝える」ということです。自分の考えていることを、自分の言葉で、聞く人に伝わるように伝える、という能力を備える必要があります。長々と話しているけれど、何を言っているのか分からない、ということでは困るわけです。二つ目は「決める」ということです。意思決定できないリーダーはダメです。意思決定は間違うこともあります。間違うということは問題ではなく、意思決定できないことが問題です。意思決定できない人はリーダーとして不適格です。そして三つ目が一番重要です。「逃げない」ということです。上手くいかなくなると逃げる経営者がいます。リーマンショックの際に、多くの企業で経営者が逃げ出しました。怯えました。それではダメなんです。窮地に陥った時にこそ、本当の実力が分かるわけです。

さらに、時代の変化に伴い、従業員に成果を出してもらうために会社側が取るべき対応にも、変化が見られると言います。まずは「Appreciation(アプリシエーション)」、すなわち「感謝を言葉で伝える」ということ。そして「Recognition(リコグニション)」。これは、「公の場で成果を賞賛すること」を指し、松本氏も社内制度を整え、社員を表彰しているとのこと。そして最も重要なこととして「Compensation(コンペンセーション)」を挙げました。

松本:「Appreciation(アプリシエーション)」と「Recognition(リコグニション)」だけで人は動くか。動きません。やはり、これが必要です。「Compensation(コンペンセーション)」。すなわち「報酬」です。よくやってくれたら、それだけ多くの報酬を払わなくてはいけません。私はこの3つをバランスよく与えることが必要だと考えています。「報酬」だけで人が動くと考えていると、2,000万円の年俸をもらっている人は、3,000万円の年俸を出す会社があれば、明日にでも移ります。そして、いずれ4,000万円の年俸を出す会社に移っていきます。こんな人の奪い合いばかりしているから、会社が強くならないわけです。「Appreciation(アプリシエーション)」と「Recognition(リコグニション)」と「Compensation(コンペンセーション)」のバランスを取ることが、企業経営には必要です。

1時間の講演の最後は、聴講者に向けた松本氏らしいエールで締めくくっていただきました。

松本:いま、日本は総体的に元気がありません。日本は産業革命に出遅れ、明治維新でその遅れを取り戻そうと追いかけ始め、1991年頃にやっと追いつきました。ところが、IT革命やインターネットの登場でゲームのルールが変わり、その部分で遅れているから、日本は相対的に遅れているわけです。私は、今日の講演をこのメッセージで締め括りたいと思います。

“Japan’s future is in your hands.”

日本の将来は、皆さんの手の中にあります。長時間、ご静聴ありがとうございました。