Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。体重計や体組成計、活動量計など「健康をはかる計測機器メーカー」として国内外に知られる株式会社タニタ代表取締役社長・谷田千里(たにだ・せんり)氏からは、いまや誰もが知っている「タニタ食堂」をはじめとした健康総合企業を目指すタニタの最新事例をご紹介いただきました。

谷田 千里 氏
1972年大阪府吹田市生まれ。1997年佐賀大学理工学部卒業。株式会社船井総合研究所を経て、2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカINC取締役、2007年タニタ取締役を歴任し、2008年より現職。46歳。

偶然の連続から生まれた「タニタ食堂」

弊社が「健康総合産業」を目指す中で、「『はかる』と『食べる』で日本を健康に」ということを掲げて事業を展開しておりますので、ここからは「食べる」にも触れていきます。私が社長就任時に医療費の削減と健康寿命の延伸をめざして、若い頃からの生活習慣病予防に向けた取り組みを行うことにしたのは先に述べました。そのために現在、「タニタ食堂を中心とした食のソリューション」「コラボレーションによるタニタメソッドの波及」「集団健康づくりパッケージ『タニタ健康プログラム』」の3つを「タニタの健康ソリューション」として取り組んでいます。

まずは「食のソリューション」です。食といえば「タニタ食堂」ですが、タニタの社員食堂の献立には四つのルールがあります。「メニューは日替わりののみで、主菜、副菜2品、汁物、ご飯で構成する定食スタイル。」「1食あたり500kcal前後」「野菜は1食あたり150〜200g使用」「塩分は1食あたり3.0g以下」というものです。

元々、弊社に「タニタ食堂」という事業はありませんでした。この事業のきっかけは、NHKの「サラリーマンNEO*1」という番組内の「世界の社食から」というコーナーで、タニタの社員食堂が取り上げられ、その番組を観ていた出版社からレシピ本出版のオファーを受けたことです。社長就任から間もない時期で、会社の宣伝になればと思い、二つ返事でお受けしました。社員食堂のレシピ本がさほど売れるとは想像していなかったのですが、「体脂肪計タニタの社員食堂」のレシピ本はシリーズ4冊の累計で、現在、542万部を売り上げるベストセラーになっています。

普通であれば、この話はここで終わりですが、続きがあります。レシピ本の販売数が100万部を超えた頃、お客様から「ぜひタニタの社員食堂のメニューを食べてみたい!」という声をいただくようになりました。最初は「私たちはメーカーなので、そうした事業はやっておりません」とお答えしていましたが、電話やメールで問い合わせが殺到し、とても対処しきれなくなってきました。「それなら、レストラン事業をやってみるか」ということで、2012年に東京・丸の内に「タニタ食堂」をオープンすることになったのです。

*1 サラリーマンNEO | NHK総合で放送されていたコントやショートドラマ中心のバラエティ番組。これまでのバラエティ番組では焦点があたらなかった「サラリーマン社会」を舞台にしたコントを中心に構成。企業名の積極的な表示、シュールなコント、アドリブの多用など、それまでのNHKではタブーとされていた要素を組み込んでいるのも大きな特徴。2006年から2011年までの間に、計6シーズンが放送された。

全国に広がる「タニタ食堂」のレシピ

このように「タニタ食堂」の事業は偶発的なものです。テレビの取材を受け、レシピ本を発売することになったことから生まれたもので、社長就任時の計画には全く含まれていませんでした。「タニタ食堂」をオープンした理由の1つは非常に多くのお客様からご要望をいただいたためです。また、当時は社長就任からまだ数年で、社内外に対して私が「会社を変革します!」と言っても信じてもらえない時期でもあり、「メーカーであるタニタがサービス業に参入したら、このメッセージが届くのではないか」と考えたのも、「タニタ食堂」を始めた二つ目の理由です。また、父から社長業を引き継いだばかりで、自分の実力をはかりたいという思いもありました。この三つの理由から「タニタ食堂」が誕生しました。

2012年に「丸の内タニタ食堂」がオープンした時は、多くのメディアから注目されたため、その勢いで「全国展開します!」と宣言してしまいました。「タニタ食堂」のレシピ自体は本に掲載されていますが、実はその味を再現するのはとても難しいことです。クオリティコントロールが難しいと考えていた時に服部幸應先生が理事長・校長をつとめる服部栄養専門学校と連携し「タニタシェフ育成講座」を開くことを思いつきました。この講座をフランチャイズ店舗を開きたい方や、タニタレシピを店舗で提供されたい方に受講していただくことで、料理のクオリティを保てるようになりました。現在では社員食堂や学食などを含め、全国約30店舗でタニタ食堂メニューが提供されています。このように偶然から始まり、お客様の要望に応えながら成長してきたのが「タニタの食の事業」です。

私たちが手がけるもう一つの飲食事業に「タニタカフェ」があります。2018年3月にRagri*2さんと提携し、Ragriに参画する生産者がつくる有機野菜を使ったメニューをカフェで提供させていただくことになりました。2018年6月に東京・有楽町駅のルミネストリート内に「タニタカフェ」の旗艦店をオープンしています。健康的な食を考える際に低カロリーは大切な要素の一つではありますが、こころの健康に着目して、この店舗は楽しさを訴求する方向に舵を切っています。「タニタ食堂」が健康意識が高い方をメーンターゲットにしているのに対して、「タニタカフェ」は健康への関心が高くない方を想定しているので、カフェ業態にしています。

*2 Ragri(ラグリ) | 楽天が提供するCSA(Community-Supported Agriculture;コミュニティ支援型農業)とITを組み合わせた新しい農業サービス。スマートフォンと実際の畑をつなぎ、好きな作物を遠隔栽培することができる。Ragriの作物は有機や無農薬の野菜、農薬を極力抑えたフルーツなど、こだわりの農法で栽培されているものも多く、一般流通では見かけない作物も多い。https://agriculture.rakuten.co.jp/

さまざまな企業コラボで「日本を健康にする」

次に「コラボレーションによるタニタメソッドの波及」です。メソッド自体は「はかってつくる」「よく噛んで食べる」「野菜をたくさん摂る」など健康によい食事の作り方や摂り方として他でもよく言われていることです。これらを広めていきましょう、ということです。

波及させるうえでは「食品メーカーとのコラボレーション」が大きな力となりました。耐久性の高く、購入頻度が低い商品を販売する弊社だけでできることは限られるということがわかっていますので、日ごろ消費者との接点が多いさまざまなメーカーと一緒に商品を開発し、販売することでタニタメソッドの周知をしています。これまでに「タニタ食堂の100kcalデザート(森永乳業さん)」「丸の内タニタ食堂の減塩みそ(マルコメさん)」「間食健美シリーズ(栗山米菓さん)」「丸の内タニタ食堂の金芽米(東洋ライスさん)」「タニタ食堂監修 ヌードルはるさめ(エースコックさん)」「タニタ食堂監修 減塩スープ(理研ビタミンさん)」などを発売しています。多くの方を巻き込むことが成功につながるので、皆様もコラボレーションできるところはコラボレーションに挑戦してはいかがでしょうか。その方が長期的には上手くいきます。

また、ローソンさんともコラボレーションし、「タニタ社員食堂監修のお弁当」を発売しました。このお弁当を開発した際、先方の担当部長さんからは「500円以上では、弁当は絶対に売れない!」と言われました。POSデータに基づいて、そう仰っていたのですね。私は「いや、価値があれば500円以上でも売れるはずだ!」と反論し、かなり激しい議論になりましたが、最終的にはこちらの意見を反映していただきました。先方は「データに基づいた判断」、こちらは「勘」ですよね。結果、どうなったと思いますか?

この「タニタ社員食堂監修のお弁当」は、大変よく売れました。一般的なコンビニエンスストアのお弁当の販売比率は男性6割、女性3割であるのに対し、このお弁当は女性が6割近くを占め、客層を変えることができました。そして、高めのプライスレンジでも売れることを証明できました。現在、コンビニエンスストアでやや高めのプライスのお弁当が売られていますが、この価格帯のお弁当は私が作ったと思っています。新しいことをやろうとするときに、もちろんデータも重要ですが、センス・感覚・勘も大切だということです。倒産しない範囲であれば、勘やセンスから新しいことを始めてもいいのではないかと思っています。新しいことに挑戦するときに、データだけではわからないこともあります。今後を切り拓くうえで、データに頼らずに新しいことにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

さまざまな企業とコラボレーションさせていただいていますが、ロイヤリティビジネスで儲けることが目的ではありません。根底にあるのは「日本を健康にしよう」という思いです。人々の健康意識が高まれば、タニタの主力商品である体重計・体組成計は自然と売れるようになります。儲けようとしてロイヤリティを重視していたとしたら、タニタブランドはここまで認知を拡大できなかったと思います。

社員の健康管理プログラムから生まれた新しい事業

最後に日本を健康にするための集団健康づくりパッケージ「タニタ健康プログラム」についてご紹介します。私が社長就任前から、弊社では、さまざまな機器から集めたデータを使ってインターネットで健康管理を行うサービスを提供していました。体組成計や血圧計、歩数計、尿糖計などの機器から、赤外線通信で「リレーキー」という機器にデータを集積し、USBでPCに接続すると、データがサーバーにアップされて、お客様の健康状態を管理するというものです。ただ、このサービスは手間が掛かるため、商品の売れ行きは芳しくなく、健康データを管理する子会社の業績も上がっていませんでした。

そこで、この事業を黒字化するべく始めたのが「タニタ健康プログラム」です。自社サービスの改善のために、まずは実際に従業員にサービスを利用させて、その改善点を洗い出させるようにしました。結果、「リレーキー」を介すことなく、歩数計や体重計、血圧計のデータを専用サーバーにアップできるようになりました。これは「健康指導プログラム」なので、このデータは従業員はもちろん、管理栄養士や健康運動指導士などの専門スタッフが確認でき、データに基づいて集団指導・個別指導を行っています。その他にも「毎朝のラジオ体操実施」「健康診断時の体組成計測」「社員食堂での食事・食育サポート」「外部機関によるメンタルサポート」なども、弊社従業員向けのプログラムに入っています。

元々は商品のブラッシュアップのために行っていた社内の取り組みでしたが、プログラム導入前と導入後で、会社全体の医療費を約9%(所属健康保険組合比で18%)削減できました。それまではBtoCをメインに販売していましたが、法人向けとしてこのプログラムを外部に提供すれば、先ほどから申し上げている「日本を健康にする」ことができるのではないかと気づき、現在ではこのプログラムを社外へ販売しています。この取り組みは厚生労働白書に2回取り上げていただいたり、公益社団法人日本栄養士会の会長特別表彰を受けたりするなど、多方面から高く評価いただいています。これが「タニタの健康ソリューション」の三つ目です。

こうした取り組みにより、タニタのブランドイメージは確実に向上してきました。日経BPコンサルティングによる企業ブランド調査「ブランド・ジャパン2018」では、ビジネス市場(B to B)では500社中33位、コンシューマー市場(B to C)では1,000社中78位ランクインさせていただきました。
弊社では、本日ご紹介させていただいたさまざまな商品や「タニタの健康ソリューション」を通じて国民の健康増進と健康寿命の延伸を図り、結果として国民医療費の適正化、そして税金の低減へとつなげたいと考えております。
タニタは世界中の人々の「健康づくり」のために、様々な挑戦を続けて参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。本日はご静聴ありがとうございました。