Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。体重計や体組成計、活動量計など「健康をはかる計測機器メーカー」として国内外に知られる株式会社タニタ代表取締役社長・谷田千里(たにだ・せんり)氏にお話いただいたのは、動画メディアやtwitter(ツイッター)などを活用したファンづくり。その秘訣は、社長就任から現在にいたるまでの試行錯誤の連続から生まれました。

谷田 千里 氏
1972年大阪府吹田市生まれ。1997年佐賀大学理工学部卒業。株式会社船井総合研究所を経て、2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカINC取締役、2007年タニタ取締役を歴任し、2008年より現職。46歳。

動画メディアに見出した活路

弊社は「日本を健康にすること」をミッションにしましたが、この課題に対して「多くの人と一緒に取り組むには、どうしたら良いか?」と考えました。自社だけでは、できることは限られます。世の中を変えていこうというときに、お客様一人ひとりにタニタへの共感を持っていただくには、何をすれば良いか? そこで考えたのが「SNSの活用」でした。SNSを通じて新規ファンを獲得し、健康に対する無関心層や若年層を取り込もうということです。これも「カッコイイ部分」を先にお話していますので、実情は後ほどご紹介します。

私が社長に就任した2008年にニコニコ動画*1で「Come Sta Channel(コメスタチャンネル)」(http://ch.nicovideo.jp/ch151)という企業チャネルを開設しました。当時、私はまだ海外にいたのですが、友人から「ニコニコ動画という面白いメディアがある」ということは聞いていましたので、お話をいただいた際には二つ返事でOKをしました。この新しいメディアにチャレンジした理由は「社内外に対して会社が変わることをアピールできる格好の機会だったから」です。タニタは大企業ではありませんので、テレビCMをバンバン打てるようなことはありません。中小企業がどんな媒体を使うかというと、やはりインターネットということになります。インターネットを利用するのであれば動画が魅力だと考えていたので、ここに投資することを決めました。

こちらをご覧ください。「タニタハカル君」というタニタオリジナルのキャラクターが登場し、弊社の電子塩分計をつかって「関東風うどんと関西風うどん、どちらがしょっぱいのか?」を検証するという動画です。この動画では弊社の商品を使っていますが、ニコニコ動画のユーザーは面白くないと見向きもしてくれないため、普通に商品を紹介するケースは稀(まれ)です。現在は誰でも動画を撮影できますし、動画は商品を広告するのに有効なツールだと思います。2008年当時は社内で動画を撮影したことがなかったため、撮影と編集はプロの方にお願いしていました。やってみると自分たちでも何とかなるものなので、皆様もぜひチャレンジしてはいかがでしょうか?

その後、自分たちで動画を制作するようになってから、「取り扱い説明動画」というコンテンツを始めました。こちらは社員が制作しています。これらの動画を作って一番良かった点は、「もう一度、お客様目線に立つことができた」ということです。弊社の場合、乾電池が同梱されている商品が多いのですが、社員であれば当たり前のように電池が入っている方から箱を開けます。しかし、お客様の場合、どちらに乾電池が入っているかはわかりません。取り扱い説明動画では「箱をどちらから開けるか」というところから、お客様の目線から考えて作っています。マンツーマンで対応できる場合は丁寧にご説明できますが、そうでない場合に「こうした動画がありますよ」とお伝えすれば、ITリテラシーの高い方であれば、ご自身で動画を見てご対応いただけるケースもあります。マーケティングにもお客様対応にも、動画を活用できるという事例ですね。現在は、YouTube(ユーチューブ)に動画を上げているので、ご興味がある方はぜひご覧ください(https://www.youtube.com/TANITAofficial)。

*1 ニコニコ動画 | 2006年に設立された株式会社ドワンゴが提供する動画共有サービス。事業拡大に伴い、「ニコニコ生放送」「ニコニコ静画」などニコニコの名を冠した様々な派生サービスを展開している。

タニタの公式ツイッターは、ある社員の熱意から生まれた

Facebook(フェイスブック)やtwitter(ツイッター)もゆるゆると運営しています。twitter(ツイッター)を始めたのは2011年で、ニコニコ動画の「Come Sta Channel(コメスタチャンネル)」を始めてから3年が経っていました。移り変わりが激しい領域なので、その間にかなり勉強しました。下積み期間と呼んでもいいかもしれません。どのような下積みだったかというと、ニコニコ動画にチャンネルを開設した当時は、社内には SNSの効用を信じている社員は誰もいなかったので、担当者を付けてもらえませんでした。そのため、翌年入社予定の内定者と一緒に細々と立ち上げたのが「Come Sta Channel(コメスタチャンネル)」でした。

なぜこの話をするかというと、2011年にtwitter(ツイッター)を担当することになったのが、この時に一緒にニコニコ動画のチャンネルを立ち上げた新入社員だったからです。この女性社員は「営業職をやりたい」と言って弊社に入社したのですが、ニコニコ動画にも登場したことで、一時期はアイドルのようにコアなファンが付くほどの人気になりました。ある時、キャンペーンで大手ホームセンターや大手家電店でこの女性社員が店頭販売するということを事前に動画で告知をしたら、ファンの方が来てくださって商品がよく売れるということがありました。店舗の方が「タニタの社員の方が来てくれると売れますね」というので、「そうなんです。説明しないと売れないのですよ」返答しましたが、実は彼女のファンの方が買ってくれていたというカラクリがあったのです。

ところが、1年ほど経ったころ、この女性社員が「やっぱり営業職をやりたいので、この動画の担当を外して欲しい」と言ってきました。そこで、後任として彼女と同期の男性社員を起用することになりました。この頃には、社長に就任して1年ほど経っていたので、彼に関する噂も聞いていました。「Wordもほとんど触ったことがない」という話だったので、動画を撮影して編集するという仕事は無理だろうと思っていたのですが、前任者がキチッと教え込んでくれたお陰で、驚くほどこの業務に対する適性を発揮してくれました。人気YouTuber(ユーチューバー)とのパイプを作ってきたのも彼でした。

ただ、最初の女性社員も、次の男性社員も、「動画メディア」という部分で驚くほど成功してしまったために、かえって私の方が「彼らにとって、この業務を一生の仕事とするのが正しいのか?」という疑問を持ち、この男性社員も営業職に戻しました。戻しはしましたが、まだ新卒としての入社間もない時期から私と一緒に仕事をし、彼らには「仕事は自分で作るもの」という私の考えを伝えていたため、いい意味でタニタの社風に染まることなく、仕事のスタイルを確立していきました。彼は、こうしたSNSの仕事の醍醐味を忘れられず、2010年頃からタニタの社員ということを明かしながら「体重コンシェルジュ」を名乗ってtwitter(ツイッター)のアカウントを運営していました。当時、タニタの公式アカウントはなく、社内にtwitter(ツイッター)をやる社員もいないため、彼が自由に運営をしていました。

ある時、競合他社商品の使い方について尋ねられた際、彼は「体重コンシェルジュ」を名乗っているので、懇切丁寧にその使い方をレクチャーしてあげました。その対応を見て、別の方から「どうしてタニタの社員に競合商品のことを聞いてるんだ?」というツッコミが入り、一連の流れがインターネットでまとめ記事になったのです。それを見て、「タニタが非常にいい対応をした!」と評判になりました。私はそのことを知らなかったのですが、彼がその記事をプリントアウトして私に持ってきて、「社長、知っていますか? 私がやっているtwitter(ツイッター)がこんなに話題になっています。私が担当するので、これを機にやらせてください!」と言ってきたのが、現在の公式アカウントの始まりです。

「狙っていないネタ」が話題になる面白さ

彼とはニコニコ動画の仕事で1年強、一緒に働いていたので、SNSの表現において「ゆるすぎてもダメ、真面目すぎてもダメ」という感覚を共有できていました。危なそうな橋も一緒に渡ってきました。こうやって「実際に一緒にやってみた」という経験があるから、レギュレーションについても暗黙のうちに理解できるわけです。実際のところ、何事も「やってみなければ理解できない」というのが、本当のところではないでしょうか。

私は「ポケモンGO*2」をやっているのですが、タニタ公式アカウントで「社長がアメリカ出張中にゲットしたポケモンを自慢してくる」というような「ゆるいツイート」をしても大丈夫という共通認識があるわけです。こうしたネタは、割と計画的にあげているのですが、「ポケモンGO」に関するふとした言動が公式アカウントからツイートされ、それが夕方のテレビニュースで取り上げられたこともありました。その時は、「商品を手に持った写真にしておけば良かった」などと後で後悔しました。「ポケモンGO」の話では、SNSを通して株式会社ポケモンとつながりができたので、現在はコラボ歩数計を販売させていただいております。SNSは「何が当たるかわからない世界」なので、やはりコツコツと続けていくことが必要だと思っています。狙ったネタが当たらず、狙っていないネタが話題になる、ということもよくありますから。

twitter(ツイッター)を運営するなかで、お客様から最も共感を得られたことは「一緒につくる」という部分です。ツイッターでは、弊社が出す商品に関して何気なくアイデアをつぶやいてくれるお客様がいます。しかし、放置しておいたら何の価値も生み出しません。「お客様に真摯に対応している」という姿勢が話題になりますし、お客様にファンになっていただける一番の肝となります。その一例が映画「劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-(タイガー・アンド・バニー ザ・ライジング)*3」とのコラボレーション商品です。「アニメのキャラクターの声で励ましてくれる体重計があったらいいのに」という声をいただいたので商品化したところ、即完売となりました。このように「お客様と一緒に商品をつくる」ことができるが、よい取り組みになりました。

また、シャープ株式会社さんとはtwitter(ツイッター)上で仲良くさせていただいてますが、そのやりとりを擬人化した漫画「シャープさんとタニタさん」(仁茂田あい, リブレ)*4が2016年3月に書籍化されました。SNSでゆるいやりとりをしていたところ、たくさんの方に注目していただけたことから生まれました。他に「名探偵コナン*5」「弱虫ペダル*6」「おそ松さん*7」などでコラボレーションした商品を発売し、サブカルチャーマーケットの攻略を狙っています。体組成計は、一部では安売りをされてしまう商品カテゴリーではありますが、このようなアニメーションとのコラボ商品は比較的高い利益率を確保できます。「版権料を支払ってもライセンシービジネスは成功する」という経験に基づいて商品展開しているわけです。

*2 ポケモンGO | 米・Niantic(ナイアンティック)社と株式会社ポケモンが共同開発したスマートフォン向け位置情報ゲームアプリケーション。Niantic Labsによるアプローチにより、任天堂・岩田聡と株式会社ポケモンCEO・石原恒和が協力し、ポケモンキャラクターと「Ingress(イングレス)」を基礎とする拡張現実 (AR) を組み合わせたもの。GPS機能を使用しながら移動することで、ポケットモンスターキャラクターの捕獲・育成・交換・バトルを画面上でプレイする。

*3 劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-(タイガー・アンド・バニー ザ・ライジング) | 2014年に公開された劇場版アニメーション作品。製作スタッフは漫画家の桂正和氏をキャラクター原案に迎え、監督はさとうけいいち氏、シリーズ構成は西田征史氏、アニメーション制作は「ガンダムシリーズ」で知られるサンライズが手掛けた。テレビアニメーションは2011年、文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門審査委員会推薦作品に選出。2015年にはハリウッドでの実写映画化が発表された。

*4 「シャープさんとタニタくん」 | 公式アカウントでありながら、フリーダムすぎるゆるいツイートを投稿し、他社アカウントと愉快に絡んで大人気となっているシャープ(@SHARP_JP)とタニタ(@TANITAofficial)のtwitterアカウントの「中の人」を描いた仁茂田あいの漫画作品。素直すぎる愛されお調子者キャラのシャープさん、「弱虫ペダル」や「進撃の巨人」とのコラボ商品を発売し、若いアニメ好き女子からの支持を誇るタニタくんのゆるい日常が、これまでのツイートを元にフィクションを交えて展開される。

*5 名探偵コナン | 青山剛昌による推理漫画作品と、本作を原作とした一連のメディアミックス作品の総称。謎の組織によって幼児化させられた高校生探偵・工藤新一が江戸川コナンと名乗り、組織の行方を追いながら数々の事件を解決していく。1994年の連載開始以来、単行本94巻が刊行。劇場版映画は22作品が公開されている。

*6 弱虫ペダル | 渡辺航による自転車競技を題材とした漫画作品。ロードレース強豪校に入学したオタク気質の小野田坂道が、ふとしたきっかけで自転車競技の面白さに触れ、その才能を開花させていく物語。2008年の連載開始以来、単行本56巻が刊行されている。

*7 おそ松さん | 赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」を原作としたテレビアニメーション作品。20歳を過ぎても定職につかないニートの六つ子、おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松が、ひとつ屋根の下で暮らしながら、それぞれの趣味に生きる中で、イヤミやハタ坊などの個性的な面々が加わって騒動が巻き起こる。放送時には、中高生から社会人まで幅広い年代に支持され、社会現象にもなった。