Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。体重計や体組成計、活動量計など「健康をはかる計測機器メーカー」として国内外に知られる株式会社タニタ代表取締役社長・谷田千里(たにだ・せんり)氏からは、現在のタニタの企業姿勢が生まれたきっかけについてお話いただきました。

谷田 千里 氏
1972年大阪府吹田市生まれ。1997年佐賀大学理工学部卒業。株式会社船井総合研究所を経て、2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカINC取締役、2007年タニタ取締役を歴任し、2008年より現職。46歳。

『はかる』を通して健康をつくる

たくさんの方がいらっしゃってますね。株式会社タニタの谷田千里と申します。いつも弊社の商品をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。本日は、皆様の事業のお役に立てるようお話させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

私は1972年 大阪に生まれまして、2008年より株式会社タニタの社長を務めております。タニタは東京・板橋に本社を置き、体重計・体組成計などを製造販売している会社です。「タニタ」と聞いて、皆様が思い浮かべるイメージはどんなものでしょうか? おそらく多くの方が「タニタ食堂」を想起されるかと思います。また、「タニタ食堂」を展開してきた流れで弊社が監修する食品も増えてきましたので、そのイメージを持たれている方もいるかもしれません。

タニタでは1959年からヘルスメーター(体重計)の製造を開始いたしました。実は、この「ヘルスメーター」という言葉は和製英語です。英語では「Weighting Scale(ウェイティング・スケール)」もしくは「Bathroom Scale(バスルーム・スケール)」といいますので、海外でお求めになる際はお気をつけください。このヘルスメーターという言葉は、私の祖父である谷田五八士(たにだ・いわじ)が体重計は単に体重をはかる機器ではなく、「健康をはかもの」という想いから命名したものです。

タニタは戦後、下請企業としてさまざまな商品を製造しておりましたが、1959年にヘルスメーターを製造して以来、健康計測機器分野において「日本初」や「世界初」となる商品を数多く世に送り出してきました。タニタの財政基盤が安定したきっかけは、世界初の「 乗るだけで計測できる体内脂肪計」の発売です。乗るだけで体脂肪率を計測する特許を取得できたことで、会社としての基盤が整いました。会社の基盤が安定しますと色々な挑戦ができますので、いま話題の「IoT」*1商品などを早い時期から商品化していました。体脂肪計だけでなく、「日本初」「世界初」という商品は数多くあります。世界初では、からだを部位ごとにはかれる8電極式の家庭用部位別計測体組成計や携帯型デジタル尿糖計、筋肉の質を評価する「筋質点数」を搭載した体組成計、日本発では透明電極採用した体組成計や寝具の下に設置し、寝るだけでで計測できる睡眠計などが挙げられます。

私が2008年に社長に就任した当時、ちょうどメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した特定健康診査・特定保健指導が始まるという時期でしたので、「健康経営」という考え方に基づいて、全社員を対象とした「タニタ健康プログラム」をスタートしました。実はこの話、「偶然、時流に合っていた」というのが実情で、内実は少し違いますので後ほどお話ししますが、このタイミングで会社の方針を、それまでの「健康をはかる」から「健康をつくる」に転換しました。そして現在は「『はかる』を通して健康をつくる」ということで、24時間人々の健康をサポートすることを目指しています。方針を転換するまでは、体重計・体脂肪計・体組成計・歩数計などにより「運動・活動」という面でのサポートが主でしたが、睡眠計などにより「休養」を、温湿度計などにより「生活環境」を、血圧計などにより病気ではないけれども健康でもない「未病」など、健康に関するあらゆる面をサポートしようという考え方に変わってきました。「美容」と「食事」をサポートする商品・サービスがなかったので、私が整理して新しい強みとしていきました。

このように、タニタのミッションは「日本を健康にすること」です。とはいえ、ここまではイントロダクションです。皆様がご興味ある領域はここではないと思いますので、ここから本題に入って参りましょう。

*1 IoT | 「モノのインターネット」を意味するInternet of Things(インターネット・オブ・シングス)の略。センサーと通信機能が組み込まれたモノがインターネットを通じてあらゆるモノとつながり、互いの情報・機能を補完・共生し合う状態を指す。第1の目的は監視・管理対象の機器のデータを収集し、状態を把握し、システム全体を最適な制御下に導くこと。第2の目的はデータの蓄積・分析から新たな知見を獲得し、新たなソリューションを開発・提供すること

「現状維持=後退」 超高齢化社会の日本の課題

皆様の中には親の世代から引き継いで商売をされている方も多いと思いますので、「現在のタニタ」が生まれてきた背景について、日本を取り巻く環境を踏まえながらお話させていただきます。

日本の高齢者人口(65歳以上)は3,514万人で総人口に占める割合は27.7%(総務省統計局による。平成29年9月15日の推計)です。「高齢化社会」について語られない日はない、といっても過言ではないと思います。この現状を見て、社長就任に当たって私が考えたのは「どうして私が社長なるのだろう?」ということでした。タニタはメーカーなので、お客様の嗜好に合わせたデザインや機能を提案しなければなりません。10年前、前社長の父が65歳で、私は35歳でしたので、お客様の嗜好を理解するのであれば父の方が良いわけです。自分の2倍も年齢が上のお客様を理解するのは難しいだろうと考えていました。そうは言っても企業なので、代替わりは必要になります。このため、これまで父の代がやってきたこととは距離を置いて、これからを見据えて改革していかなければならない、と決心をしました。この「日本の高齢化」のデータは、そのきっかけになったものです。

また、このようななデータもありました。「生活習慣病は、国民医療費の約30%を占める。また、死亡数割合の約60%を占める」(平成26年度版厚生労働白書)。こちらも新聞に載っていない日はないくらい、繰り返し語られています。この資料を見て私が考えたのは、「このまま国民医療費が上がり続ける日本において、会社を潰さないためには、どうしたら良いだろうか? 次世代にタニタという会社を引き継ぐ時に、会社がどのような状態であれば合格点をいただけるだろうか?」ということでした。社長に就任して間もない時期に、そんなことを考えていました。

皆様、「会社経営者の及第点」とは何だとお考えでしょうか? 落第は簡単ですよね。「会社を潰すこと」「倒産させること」です。では及第点はどこかというと、「売上や利益が多少下がっても、会社として存続していること」だと私は考えました。そう考えた時に、改めて先ほどのデータを見ました。国民医療費が上がり続けるので「法人税が上がるだろう」と予想されました。お客様や従業員に関わることでいうと「所得税も上がるだろう」と考えました。そうなると、仮に売上と利益率を維持できたとしても、会社としての利益は絶対に維持できないわけです。そして、消費税なども上がるなかで企業の利益が維持できないとなると、従業員の可処分所得・生活レベルは下がってしまいます。つまり、「売上・利益の現状維持では、これからの日本企業はダメなんだ」ということに気付かされたわけです。

日本の将来を見据えて制定し直したタニタのミッション

なぜ、ここまで医療費が高騰しているかというと、「健康寿命と平均寿命の乖離」があるからです。この差をみると男性で約9年、女性で約13年で、病気や寝たきりで過ごしている期間がが長くあることがわかります。この時期に治療費などのお金が最もかかるので、この問題を解決する必要があるわけです。病気や寝たきりの時期をなくす・短くすることは個々人のためにもなりますが、医療費が国家財政に占める割合が年々増加していることを考えると「税金が上がらなくて済む」ということにも気付いたのです。そこで、弊社は健康や未病と密接に関係した商品を作っていましたので、「医療費の適正化と健康寿命の延伸につながる、若い頃からの生活習慣病予防に向けた取り組み」に注力すればいいと考えたわけです。私は社長就任当時35歳で、これから30年・40年働くことを考えると、「夢のある仕事」をしたいと考えていました。リタイアして「あなたはどんな仕事をしてきたんですか?」と聞かれた時に、「社長業です」と答えるよりも「日本の健康のために一生懸命働いてきました」と答えられる方がロマンがあるなぁと思いました。こうして、タニタとして、この課題解決にフォーカスしようと決意しました。

大阪商人として「本音」と「建前」はあります。「本音」の部分でいえば、それはもちろん「法人として生き延びる」ためです。この課題解決に取り組み、日本国民が健康になれば生活水準は上向くので、タニタの商品も買っていただけるであろう、という生存戦略ですね。ここに気付いたので、タニタのミッションを「日本を健康にすること」として制定し直したわけです。