Rakuten新春カンファレンス2018

楽天市場の出店者や、ECに関連する多様なビジネスパーソンが集まる「楽天新春カンファレンス2018」。名古屋・福岡で登壇したのは、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授の楠木建(くすのき・けん) 氏。競争優位性をもたらす戦略は、違いを生む要素がつながって、人に話したくなる「一つのストーリー」にならねばならないと説きます。本当の戦略とはなにか。古今東西の企業研究から得た知見などを織り交ぜながら、その真髄に迫っていただきました。

楠木 建 氏
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目はStrategy。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師(1992)、同大学同学部助教授(1996)、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授(2000)を経て、2010年から現職。
著書として『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation (2010, Springer, 共著)、Management of Technology and Innovation in Japan (2006、Springer、共著)、Hitotsubashi on Knowledge Management (2004, Wiley、共著)、『ビジネス・アーキテクチャ』(2001、有斐閣、共著)、『知識とイノベーション』(2001、東洋経済新報社、共著)、Managing Industrial Knowledge (2001、Sage、共著)、Japanese Management in the Low Growth Era: Between External Shocks and Internal Evolution(1999、Spinger、共著)、Technology and Innovation in Japan: Policy and Management for the Twenty-First Century (1998、Routledge、共著)、Innovation in Japan (1997、Oxford University Press、共著)などがある。

趣味は音楽(聴く、演奏する、踊る)。1964年東京都目黒区生まれ。

著書はこちら(楽天ブックス)

長期利益を獲得する それが競争戦略の目的

楠木と申します。今回はこのような機会をいただき、誠にありがとうございます。僕は「競争の戦略」という分野で仕事をしており、僕なりに「こういうことなんじゃないかなぁ」ということをまとめた『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)という書籍を出しています。気が向いたらお読みいただければと思います。

大前提として、ゴールが間違っていると戦略はおよそ意味がありません。皆さんがやっていらっしゃる商売ごとのゴールは一体なんでしょうか。戦略のゴールを7つ挙げてみました。「1.利益」「2.シェア」「3.成長」「4.顧客満足」「5.従業員満足」「6.企業価値」「7.社会貢献」。あえて一番大切なものを選ぶとしたら、それはどれなのか? 直感で結構なので、必ずお一人一回、手を挙げていただきたいと思います。かなり分散が激しいですね。聞いておいてなんですが、これは愚問でして、なぜかと言うと、すべてがものすごい勢いでつながっているからなんですね。つながっているものを横に並べて「どれが一番大切か?」などと聞くのは愚問の典型ですね。ここに挙げたのはすべて大切なんですが、大切なことの間にある関係を考えてみますと、自(おの)ずと長い間に渡って儲かるように商売をやっていくのが、一番いいんじゃないかというわけです。

どういうことかと申しますと、「4.顧客満足」に手を挙げた方も多くいらっしゃいましたが、これは「1.利益」とつながっています。つながっているどころか、全く同じことですね。普通の競争があれば、一番正直な「顧客満足」の指標は「長期の利益」であります。全然儲かっていないのにお客さんが満足しているというのは、どこかに嘘があるんじゃないかと思います。つまり、この二つが自然と重なるというのが、色々と問題があるにせよ、市場経済のうまくできているところであります。「コインの両面をどちらから見るか」ということですね。「1.利益」が出ることで雇用を作り、「5.従業員満足」を作れるということもありますし、儲かっていれば投資家が評価するので株価が上がり「6.企業価値」も高まります。「1.利益」が出ているから「6.企業価値」が上がるわけで、この逆はないということです。

NPOなどの場合は話が変わってきますが、「7.社会貢献」も大切で、皆さんのような事業会社の最大の社会貢献は、なんといっても「納税」でございます。商売事においては、バンバン稼いで、バンバン納税するということです。これ以上の社会貢献はあり得ないわけです。あとのことはもうオマケと言ってもいいくらいだと思います。ですから、現時点で少なくとも量的に最も社会貢献が大きいのは一番儲かっている会社、つまりトヨタ自動車です。トヨタ自動車になると、毎年毎年、キャッシュで1兆円ほど納税していただいています。トヨタ自動車4つ、5つで、日本の国防ができますね。国防予算は4兆から5兆円なので、これはもう大変な貢献ですね。「1.利益」があって「7.社会貢献」があり、その逆はありません。金、金、金ということではなくて、短期の利益であれば、誰かを泣かせて儲けることもできますが、長期の利益として儲かり続けるということを、いま、ゴールに据えようということですね。

僕がお手伝いしているファーストリテイリング*1の方針は、一言だけなんですね。「儲ける」。非常に正しい指標だと思います。ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正(やない・ただし)さんがこの方針を変えるというので、僕は反対しました。「これ以上の方針があり得るでしょうか?」と申し上げると、「いや、これからは『儲ける』とは申しません。『ボロ儲け』だ」と仰っていたので、ただ単にパワーアップしたということだけがわかりました。これは、変えられないわけですね。昭和の経営の神様である、松下幸之助(まつした・こうのすけ)さんが1965年に打ち出した基本方針も「儲ける」ということでした。

「3つの市場、3つの評価の場」ということで、今は「長期利益(競争市場)」にフォーカスしているわけです。上場していたら「株価(資本市場)」も大切ですが、あくまでも「長期利益」の結果であるということであります。儲かって儲かり続けていれば、投資家が評価するので、「やめてくれ!」と言っても「株価」は上がるということですね。「働きがい(労働市場)」ももちろん大切ですが、儲かってないと給料も払えませんし、「働きがい」がある方がたくさんいらっしゃれば「長期利益」の源泉になります。「働きがい」も「株価」も、真ん中の「長期利益」との兼ね合いで考えようということであります。そのために、競争の中でどうやって「長期利益」を獲得するか。その手立てが「競争戦略」であるということです。

*1 株式会社ファーストリテイリング | 株式会社ユニクロ、株式会社GUなどのカジュアルファッション企業を傘下に持つ持株会社。経営者である柳井正(やない・ただし)代表取締役会長兼社長の下、ZARA、GAPに代表されるような世界的な衣料品企業を目指し、積極的に海外展開およびM&Aを行いグループを拡大している。

商売に大発見はない 当たり前のことを当たり前にやるしかない

では、「戦略」とは何なのかと言うとですね、いたって単純な話でありまして、競争戦略の基本論理は「競合他社との違いを作る」ということです。「違いがあるから選ばれる」ということであります。皆さんも競争相手といろいろな違いを作っていると思いますが、「ストーリーとしての競争戦略」と言っていますのは、そうしたいろいろな違いをゴールである長期利益に向かってつなげていくということにこだわっているからなんです。『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)という書籍を出しているのですが、世の中、厳しいなと思うのは、お送りいただく感想の80%が「カネ返せ!」なんです。連日連夜、ご感想をいただきまくるのですが、なんで皆さん、そんなに怒っているのかなと思っています。僕はこのお怒りメールをきちんとフォルダに保存しているんですが、時々開くとあまりにもいっぱい入っているので、もはやビッグデータ状態になっています。

皆さん大体同じところで頭にくるわけです。「『ストーリー戦略』というから読んだのに、これ『ストーリー戦略』じゃないじゃん。カネ返せ!」というんです。これはちょいと誤解がありまして。新しい戦略を提案する「◯◯戦略」という本が書店にいくとたくさん並んでいますが、世の中にはそういうニーズが多いわけですよね。例えば、「プラットフォーム戦略」「ホワイトスペース戦略」「ブルーオーシャン戦略」などがありまして、じゃあ次は「ストーリー戦略」ということで読んでみると、これがフルスイングで空振りなんです。どうしてかと言うと、僕の方に全くその気がないわけです。つまり、「何か新しい戦略がある」とは僕は思っていないのです。皆さんのご商売の戦略も、ありとあらゆる戦略も、「ストーリーという論理形式で作られるべき」だと申し上げており、特段の「ストーリー戦略」というものがあるというわけではないんですね。こうした新しい戦略はキリがなく、「ブルーオーシャン戦略」があれば「グリーンオーシャン戦略」もあり、近い将来、おそらく「ブラックスペース戦略」というタイトルの本が発売されるんじゃないかなと思っていますが、こうした「○○戦略」というものを提案するものではない、というのが一つ目のポイントでございます。

もう一つあるのが、「ストーリーテリングじゃないの?カネ返せ!」という声です。これも完全に誤解でして、「ストーリーテリング」という言葉は皆さん耳にされることがあるかと思いますが、それはこういうことなんです。「ストーリーでわかるブルーオーシャン戦略実践入門」という本があり、内容は「ブルーオーシャン戦略」の話になっています。「ブルーオーシャン戦略」いう元々の本をお読みになった方もいらっしゃると思いますが、ハードカバーで割と難しくて、結構ハードルが高いんですよね。ですから、お話(ストーリー)仕立てにすれば、難しい「ブルーオーシャン戦略」の言いたいことがわかる、読みやすいということですね。このお話仕立てという、つまり「ゲーミフィケーション(gamification)」と言われるゲーム仕立てにすることを「ストーリーテリング」と言っています。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(2009、ダイヤモンド社)*2が、「ストーリーテリング」の一番成功した事例ですね。日本のビジネス書でこれまでに最も売れた本だそうです。ドラッカーの『マネジメント(原題;Management: Tasks, Responsibilities, Practices)』という名著中の名著と言える本がございます。ただ、なかなか難しくてハードルが高いので、お話仕立てにするとエッセンスが非常に理解しやすいということですね。こういうものを「ストーリーテリング」と言っているんです。出版業界でよくあることですが、このようにすごく売れる本が出てくると、必ず続編を書いてくださいということになるんですね。悔しまぎれに『もしドラ』の著者である岩崎夏海(いわさき・なつみ)さんの印税を計算したところ、岩崎さんはこの1冊で数億円稼いでいると思われます。僕は岩崎さんにお会いしたことはないんですが、先だってこの方からご連絡をいただいて、「今度、『もしドラ2』を出すので、ついては推薦文を書いてくれないか」という依頼だったんですね。「じゃあ『もしドラ2』は、どういうタイトルなんですか?」と聞いたら、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』だそうで、「汚いなぁ。あと15回できるじゃないか!」と思いましたね。これもいい本なんですよ。『イノベーションと企業家精神(Innovation and Entrepreneurship)』という本は本当に良い本で、そのエッセンスがこのお話仕立てでよくわかるんですね。まさに「ストーリーテリング」です。

そして、とりわけ多いのが「当たり前の話じゃないか!カネ返せ!」というものですね。これは大正解です。僕が言うので間違ってないです。商売(経営・事業・ビジネス)というのは、「普通の人間が、普通の人間に対して、ずっとやってきたこと」なんです。だから、商売に限って言えば、「あっと驚く大発見」や「誰も知らない秘密の花園」なんてものはあり得ないということは確信しており、探すだけ無駄です。結論として、「当たり前のことを、当たり前にやる」「大切なことほど、言われてみたら当たり前」であり、これ以上はありません。なので、今日の話はここで終わっても一向に差し支えありません。今日はどうもありがとうございました。これで帰ると本当に楽天の方に「カネ返せ!」って言われちゃうので、あと50分はやりますけれども(笑)。

科学で言えば「大発見」というものがあるんです。これは、本当に「発見」なんです。それまで誰も知らなかったことで、誰もがビックリしちゃって、ノーベル賞をもらったりするんですね。これは、科学の世界です。一方で、ファーストリテイリングの柳井さんは科学者ではありません。商売人ですよね。商売は「大発見のない世界」なんです。先日、突然、柳井さんが「ついにわかりました!」と仰ったんですね。「何がわかったんですか?」と聞いたら、「ついに商売がわかりました!」と。ビックリして、「それは何なのでしょうか?」と聞いたら、「ついにわかりました!これです!『お客様の目線で考える』ということです!ようやく商売がわかりました!」と。これ、「遅えよ!」って話ですよね。「たしかに当然ですけど」「当たり前ですけど」と、よく口癖でおっしゃるんですが、ただですね、よくよく考えてみると、ファーストリテイリング(ユニクロ)にしても、結局こういうところで勝負が付いているんですね。上手くいったり、失敗したりしているんです。

*2 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら | 岩崎夏海(いわさき・なつみ)による小説。元放送作家の岩崎が ブログに書いた同名記事を読んだダイヤモンド社編集者が企画を持ちかけて制作された。イラストはゆきうさぎ、背景は益城貴昌が担当。通称「もしドラ」。

戦略は「静止画の連続」ではなく「動画」でなくてはならない

ということは、こちらが本質的な問いかけではないのかと思います。それは「なぜそんな当たり前のことが、現実の日々の商売になると突然できなくなるのか?」ということです。このことを考えた方が、よっぽど意味があると思うんですね。頭の片隅にこのことを置いてお付き合いいただきたいのですが、「違いをつくって、つなげる」という「ストーリーとしての競争戦略」がどういうことか、お話しします。井原西鶴(いはら・さいかく)が、江戸時代の初期に、現代でいうビジネス書をいっぱい書いているんです。今でいう、経営コンサルタントの大前研一(おおまえ・けんいち)さんのような感じですね。『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』*3『世間胸算用(せけんむねさんよう)』*4など、タイトルだけは聞いたことがあるかもしれません。今でいう、『日経ビジネス』のような本なんですね。事例研究集なんです。この人が江戸時代初期の商売を観察・考察し、「なぜこの商売はうまくいったのに、この商売はしくじったのか」ということを論じている本なんです。その中に、いろいろな商売が出てきます。

一番有名なのは、「越後屋呉服店」の商売です。今の三越の前身ですが、当時の小売ベンチャーですね。三井八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)、後の三井高利(みつい・たかとし)という起業家が、大規模小売店、百貨店という原型を、日本だけでなく世界に先駆けて作って、小売業に全く新しい戦略を持ち込んで大成功するんです。井原西鶴は、「この戦略は素晴らしい!」と、『日本永代蔵』の中で言っているのですが、当時「戦略」という言葉は日本語にはなかったので、彼が「戦略」に相当する言葉として使っていたのが「儲け話」でした。つまり、「戦略はストーリーだ」というのは江戸の昔から当たり前の話なのですが、なぜ僕がいまさらこの話を蒸し返すのかという動機をご理解いただきたいと思います。

今から数年前、ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』という映画がありました。ご覧になったことがある方はいらっしゃいますでしょうか? あらまぁ、これだけいらっしゃって本当にゼロ。いかに僕と気が合わないかということですね(笑)。この映画は、僕がこの10年でもっとも感動した映画でした。ご覧になっていない皆さんに感動を共有したく、映画のストーリーをご説明します。主人公はアメリカのハリウッドスターです。フェラーリに乗って優雅な生活をしている人。この人は離婚します。で、11歳のお嬢さんがいて、この娘は普段は別れた妻(母親)と暮らしていて、父親とは一緒にいないんですが、ある時、母親の事情でしばらく父親が預かることになりました。久しぶりに一緒に暮らしてみると、娘は料理が上手になっていたり、テレビゲームで遊んだり、プールで遊んだり、映画俳優の父親と一緒にミラノに行ったり、そうして楽しかったねと言っているうちに、母親のところに戻りました、と。これがこの『SOMEWHERE』という映画のストーリーでございます。いかがでしたでしょうか?

僕の感動が伝わっていない恐れがあるのですが、皆さんからすると「わかんねえよ!」ということだと思うんですね。僕が共有したいのは、その気持ちなんです。「こういう戦略でいこうと思っているんだけど、どう思う?」という戦略のプレゼンテーションを受けてコメントをするという機会がございますが、そういう時に80%から90%の確率で、今の皆さんと同じ気持ちになるわけです。つまり「良いも悪いも、わからない」ということがほとんどなんですね。なぜかと言うと、戦略が「箇条書き大作戦」になっているからなんです。「戦略のアクションリスト化」ですね。皆さんの事業計画書をイメージしてください。確かに大切なことは全部決まっているんです。例えば、価格、製品仕様、市場導入時期、ターゲットセグメント、生産拠点、技術、チャネル、プロモーション。一つ一つは違いを作ろうとしているのかもしれません。ところが、こういう一つ一つのアクションが、どのようにつながって儲けが出るのか、聞いている僕にはさっぱりわからない。「静止画」の羅列であって、「ストーリー」になっていないということなんです。これがほとんどなんです。昔から、戦略というのは、動きや流れを持った「動画」だと思っていまして、これが「当たり前のことができない」という典型的な例じゃないかと思うんです。

「つながり」というのは、堅く言うと因果関係に関する論理、すなわち「因果論理」ですが、「ビジネスモデル」ではないんですね。特にe-コマースの世界ですと「ビジネスモデル」という話が出てきます。いろんなものがつながっているというのですが、「つながり」の意味が全く違うわけです。「ビジネスモデル」でいう矢印は、全て「取引」なんです。ここからここにお金を払う、ここからここへモノが動く、ここからここへ情報が流れる、など、これは「取引見取図」なんです。そうではなくて、いま考えていただきたいのは、「なぜ?」という「つながり」なんです。つまり、最終的には、「...ということで儲かりますよ」ということが戦略のハッピーエンドなんですね。「なんで儲かるの?」と言うと「我々だけがこれができるからなのよ」という「因果論理」があるからで、これを「つながり」と言っています。そうすると、すぐに「なんで我々だけができるの?」という話になります。そうしたら「他所と違って、うちのお客様はこうなっているからでしょ?」となります。「じゃあ、なぜそうなっているの?」という話になり、「それは、もともと我々はこういうことをやっているからじゃないの?」という話になりますよね。わかりますか? これを「ストーリー」と言いますね。で、これを逆回しに言いますと、「こういうことをやるんで、お客様はこうなってくれる。なので、我々だけがこれをできるので、こうなんじゃないの?」という「儲け話」になるんです。これを言っているだけなんです。ところが、多くの場合でバラバラの箇条書きになってしまうんですね。

*3 日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら) | 貞享5年(1688年)に刊行され、各巻5章、6巻30章の短編からなる、井原西鶴の浮世草子の代表作。金持ちがいかにして金持ちになったかを軽妙な文体で描いている。

*4 世間胸算用(せけんむねさんよう) | 元禄5年(1692年)に刊行された各巻4章、5巻20章からなる浮世草子。商人にとって一年の総決算と言える大晦日にフォーカスし、貸し手と借り手との駆け引きを中心に、年の暮れの庶民の姿を描いていた作品。

「それで?」「それで?」という「戦略のストーリー」が重要

戦略がつながっている、ストーリーになっている、という例をお話します。僕の時代ですと「IBJ」と言えば「Industrial Bank of Japan」すなわち「日本興業銀行(興銀)」でしたが、今、東証一部上場している「IBJ」という会社を知っていらっしゃる方はいらっしゃいますか? 創業経営者は石坂茂(いしざか・しげる)さんという方で、興銀出身なんです。そして、自分が作った会社につけた名前が、「IBJ」。どれだけ興銀好きなんだっていう話ですが、IBJがやっているのは「婚活サービス」です。

婚活は、現在、ビジネスチャンスが多い業界なので、ありとあらゆる会社が参入していますよね。そして多くの会社がやるのは「マッチングサービス」なんです。要するに、真ん中にネットがあって、女性会員がいて、男性会員がいて、真ん中にアルゴリズムやSNS的なものがあって、そこでマッチングをかけて、会員から会費を取るというビジネスですね。ですが、IBJの石坂さんはマッチングに非常に懐疑的で「ちょっと待てよ」と言うんです。

彼がいつも言うのは、「1.96」という数字です。この数字は「完結出生児数」で、今の時代、結婚すれば2人くらいの子どもが生まれるということを示しています。ですので、少子化対策が大事と言われますが、石坂氏が言うのは、結婚したい人が結婚するということが一番で、そこに婚活サービスの最大の価値があるということです。ところが「マッチング」というのは「出会う」ということであって、「出会うこと」と「成婚すること」は全く違うことです。「出会い」から「成婚」まで持っていかないと意味ないんだということです。マッチングサービスは「出会う」ことばかり目指してやっているのが、第一の問題です。第二の問題というのは、もう少し深刻です。マッチングという商売の性質からして、「いつまで経っても結婚相手が見つかない人」こそが「良いお客さん」になってしまうんです。結婚相手が見つかってサービスから出て行ってしまったら、もうそれ以上の会費が取れないですよね。結局は商売なので、いいお客さんを見て商売をするようになってしまうんですよね。「この人は絶対に相手が見つからなそうだなぁ」というお客さんが来ると、「ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくり」っていうことになって、「言っていることとやっていることが全然違う!」という指摘がなされる訳ですね。

そこでIBJの戦略ストーリーが出てくるわけです。今の時代ですから、ブライダルネットというネット上での出会いももちろんやるんですが、それはあくまでもサービスの入り口に過ぎません。ビルの一階に大きな間口があるというイメージで、そこからどんどんいろんなリアルな場を作り込んで、そこに上げていくというのが、この会社のやり口なんですね。会員もだんだんと慣れてきて、その気になって、いよいよお見合いということになると、昔ながらの「世話焼きおばさん」が登場してきます。今でも結婚相談所・紹介所という個人事業は日本全国津々浦々にあるわけです。IBJと他社との大きな違いは、こういう「世話焼きオバさん」を徹底的に組織化した点にあります。なぜかというと、結婚率の上昇には「世話焼きオバさん」が一番効くからです。このオバさんたちがやっているのは、ほとんど「武器商人」のような仕事です。お見合いをすると、すぐにオバさんが男性に電話して「どうだったの?」と聞きます。それで男性が「いや、悪くはなかったですよ」なんて言おうものなら、「あなた! 悪くなかったなら、すぐ次のデートの約束しなきゃダメじゃない! すぐLINEしなさい!」と言うんですね。そして、すぐに女性に電話して「そろそろ彼からLINEでもくるんじゃないのかしら?」と言います。こうやって盛り上げて、結婚に踏み切らせるんですね。これは昔からなんですが。IBJは、競合他社と比べて婚活成功率が高いんです。そこに価値があって、みんなが買いたいサービスなので商売としても儲かるという話なんですが、その裏には「戦略がつながっていて、ストーリーがある」んですね。「直列思考」「箇条書き大作戦」とはだいぶ違うということですね。そこには「それで?」「それで?」という「つながり」があるんです。