Rakuten新春カンファレンス2018

楽天市場の出店者や、ECに関連する多様なビジネスパーソンが集まる「楽天新春カンファレンス2018」。東京会場では、いまや世界中にファンを抱え、日本を代表するアウトドアブランドとして確固たる評価を獲得している「スノーピーク」の山井太(やまい・とおる)氏が登壇。「オートキャンプ」の概念を生み出した生粋のキャンプ好きが、これからの経営に必要な視点を解き明かします。

山井 太 氏
1959年新潟県三条市生まれ。明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て86年、父が創業した現在のスノーピークに入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。96年から現職。毎年30~60泊をキャンプで過ごすアウトドア愛好家であり、徹底的にユーザーの立場に立った革新的なプロダクツやサービスを提供し続けている。14年12月東証マザーズに上場、15年12月東証一部に市場変更。

著書はこちら(楽天ブックス)

「NO-ASOBI(野遊び)」を世界共通語に

皆さんこんにちは。スノーピークの山井と申します。今日は皆さんに「スノーピーク『好きなことだけ!』を仕事にする経営」という演題でお話をさせて頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。

「人生に野遊びを。」というのが、スノーピークのコーポレートメッセージです。スノーピークの創業者であり、僕の父でもある山井幸雄(やまい・ゆきお)はロッククライミングが大好きな人でした。息子である僕はキャンプが大好きで、スノーピークはそこからスタートし、現在はグランピング、アパレル、地方創生など、様々なビジネスを手がけています。全て「人と自然に関わること」を事業にしていて、全てを「野遊び」という言葉で括っています。今から5年後くらいに、海外でも「野遊び=NOASOBI」という日本語が、海外でも通じるグローバルな言葉になればいいな、というのが我々の野望のひとつとなっています。

「日経ビジネス」(日経BP)では、隔年で「時代を創る100人」という特集を組んでいて、2年前ほど前に、そのうちの1人に私が選ばれました。「野村総合研究所」に齊藤義明(さいとう・よしあき)さんが室長を務める「未来創発センター 2030年研究室」*1という機関があり、そこが選ぶ「2030年の社会を先取りしている革新者・100人」にも選ばれています。地方創生に関して言えば、スノーピークが独自に関わっている案件もあれば、この「2030年研究所」から地方に派遣されてお手伝いをしている案件もあります。2017年には、「シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード Presented by GOETHE」*2では、株式会社ユーグレナの出雲充(いずも・みつる)さん、元サッカー選手でJAPAN CRAFT SAKE COMPANYの中田英寿(なかた・ひでとし)さんと並んで選んで頂きました。

そして昨年、「Diamond Harvard Business Review」に「スノーピークが実践するユーザー主義の原点 すべては、社員の幸せから生まれる」という記事が掲載されました。僕は1冊だけ本を書いています。今日の演題と全く同じタイトルの本なので、話が面白かったと感じられたら、ぜひお読みいただければと思います。

*1 野村総合研究所 未来創発センター 2030年研究室|中長期経営に資するテーマを厳選したR&Dにより、近未来型の「商品・サービス」、「ビジネスモデル」、「業態」を構想し、企業戦略の立案に取り組む。主なテーマは、「経済、産業、社会の中長期的動向」「生活者の価値観と行動のトレンド」「規制緩和、規制強化の見通しとインパクト」「経営手法、ICTの先進的な活用方法」。桑津浩太郎がセンター長を務める。

*2 シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード Presented by GOETHE|スコッチウイスキー「シーバスリーガル」と雑誌「GOETHE」によって2011年から毎年開催。「本業のビジネスの成果を通して社会に活力を与えると同時に、社会貢献にも寄与された方」に贈られる。パイオニアスピリッツと社会貢献の精神を発揮した「シーバスリーガル」の創始者であるシーバス兄弟のように、ビジネスを通して騎士道精神を体現する方を選出し表彰している。

新潟・燕三条から世界に伝えたいこと

皆さん、会社だと思われないかもしれませんが、この写真の建物はスノーピークの本社「Headquarters」です。我々の本社は新潟県三条市の小高い丘の上に建っており、面積は5万坪(約16万5千平米;東京ドーム約3.5個分)ほどあります。2011年4月29日にオープンして以来、併設されたキャンプ場への利用も合わせると、約5年間で200万から300万人くらいのユーザーさんが、この「Headquarters」にお越しになっています。スノーピークの熱心なユーザーさんは、「スノーピーカー」と呼ばれていて、このキャンプ場に全国からたくさんのキャンパーの方が毎年いらっしゃっています。この時期、燕三条市は1mほどの積雪がありますが、冬場も毎日キャンパーの方がお越しになって雪中キャンプを楽しまれています。建物自体も自然に配慮した背の低い設計になっていて、キャンプをしていてもあまり気にならないデザインになっています。オフィスはフリーアドレスになっており、実際にキャンプを楽しまれるユーザーさんを見ながら働ける環境の中で、「自然と人間に関わること」をデザインしています。

今日皆さんにお伝えしたいことは、4つあります。1つ目は、「理念が非常に大事」ということ。理念が明確になっていないと、我々はどちらの方向に足を踏み出すべきかも分かりません。「私たちのビジネスの目的は何か」「これは誰を幸せにするビジネスなのか」ということも分かりません。そのため、理念を明確にすることは非常に大事だと思います。

2つ目は、「熱量が非常に大事」ということです。皆さんも我々も、高度な資本主義経済の中で仕事をしていますが、その中でお客さんが集まり、社員が集まり、情報が集まるのは、必ず「熱量が高い場所」であると思います。EC店舗でも同じだと思いますが、行列ができるお店や売り上げが高いお店はすべて熱量が高いと思います。そのため、「熱量の高い組織を創ること」が経営者の責任であると思っています。

3つ目です。すでに起こったこと、人類が過去に起こしてしまったこと、繰り返しやるような仕事というのは、もしかしたら人工知能の方がうまくやるかもしれません。では、その中で人間は何をやるべきなのでしょうか。それはやはり「創造する」「新しいことを創り出す」というのが我々の仕事になってくるのではないでしょうか。そして、新しいことを見つける方法の一つが、「好きなことを仕事にすること」だと思います。日本で育ち、日本で教育を受けると、どうしてもその過程において「損得軸」が叩き込まれます。幼い頃からたくさん勉強し、良い大学に入り、大企業に就職する。これはすべて損得の問題なんですね。安定的に長期に渡って所得を得る手段。「損得軸」なんですね。そうした、これまでの判断軸に変わって、「自分たちが本当に好きなことを仕事にする」という「好き嫌い軸」の方へと、時代が移行しつつあると考えています。

4つ目。企業も店舗も、「プラットフォームになることが必要」ということ。例えば、スノーピークを客観的に見ると、この会社は「燕三条に点在している製造技術を、デザインプラットフォームになって集積し、アウトドアプロダクトやサービスに変換している」と言えます。スノーピークは「燕三条に存在する様々な技術を、アウトドアというライフバリューに変換しているプラットフォーム」なのです。後ほど見ていただきますが、僕は「グランピング」もひとつのプラットフォームと捉えています。十勝や白馬など全国各地でグランピングを展開していますが、その土地の自然・人・文化・食材などの全てを、グランピングというメソッドをプラットフォームに、まとまった価値として可視化して消費者の皆さんにお届けしている。これがプラットフォームとしてのグランピングの役割だと思っています。これからは全ての企業、全ての店舗がプラットフォームにならなければならず、「どのようなプラットフォームになり、何に価値を変換するのか」ということが経営そのものだと思っています。今日皆さんにお伝えしたいことは、この4つです。

キャンプの概念を革新したスノーピーク

少しだけ、スノーピークを紹介させてください。スノーピークの事業背景と社会的使命は何でしょう。皆さんからは、キャンプ用品を作っている会社に見えるかもしれませんが、我々のコアミッションは「人間性の回復」にあります。現在、世界25カ国でビジネスを展開していますが、その全てが先進国です。「都市生活者の人間性を回復させている」のが、スノーピークが展開しているビジネスのコアバリューだと考えているのです。文明というものは我々に多くのベネフィットを与えてくれますが、その反面、先進国に住んでいるだけでストレスが溜まってしまうという側面もあります。我々は「社会問題解決型企業」であり、少し行き過ぎた文明がある国にこそ我々のマーケットがあります。「癒し系の会社」ですね。

「ドームテントをベッドルームとし、タープという幕帯でリビングキッチンを覆い、広々とした快適なモジュールでシステムデザインされた快適なキャンプのベース・スタイル」というものを、1988年にスノーピークが初めて提案しました。1980年代半ばくらいまでは、「アウトドア」という言葉は、日本では「登山」とほぼ同義語だったのですが、登山ではないアウトドアレジャーの形として「オートキャンプ」というものを社会に根付かせました。「オートキャンプの概念の普及」こそ、もしかしたら、スノーピークがこれまでやってきたことの中で、最も社会に影響を与えたことかもしれません。