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<映画を彩った名ワイン> 人は何かを成し遂げたとき、祝いたくなるもの。ベストセラー作家のポール(ジェームズ・カーン)には、長編小説を書き終えたときに必ず行うひとつの儀式がある。山の中のロッジにこもって旧式のタイプライターで原稿を執筆し、いよいよ小説の最後の数行を書き終えると、その下に手書きで「The End」の文字を書き込む。よく冷やしたドン・ペリニョンをグラスに注ぎ、両切りのラッキーストライクに火をつけて深く煙を吸い込む。これが小説の執筆という孤独な作業を終えた、自分自身に対する祝杯なのだ。
そして、ドン・ペリニョンは、単に祝杯を祝うだけでなく、物語上重要な小道具として用意されている。雪道のドライブ中の事故でポールは瀕死の重傷を負うが、熱狂的なファンでもある元看護婦のアニー(キャシー・ベイツ)に助けられる。アニーは彼を自宅に運び献身的な看病で、ポールとの信頼関係を築きあげるが、アニーには別の意図があった。熱狂的な1人の女性の異常と狂気の世界に次第に引きずりこまれるのだ.. 名女優キャシー・ベイツの恐ろしい演技が光る傑作映画。
映画を彩った名ワイン
ウォール街の狼とあだ名される実業界の大物、エドワード・ルイスは恋に関してはまったくのウブ。彼は、ひょんなことから娼婦のビビアンと出会う。そして彼女に上流社会の生活を体験させてやろうと、1週間彼女を買い取る。そうやって一緒に過ごすうちに、どんどんルイスはビビアンに惹かれていくという、アメリカ映画らしい典型的なシンデレラ・ストーリー。この映画でワインは、ビビアンが洗練されていく過程を示す、気の利いた脇役として用いられている。
初めはビビアンの部屋の枕もとにおいてある、安物のカリフォルニアワイン。投げやりで安っぽい彼女の生活にピッタリくる。次は、ルイスのホテルの部屋に招かれ、ルームサーヴィスで頼んだのがヴーヴ・クリコのリッシュ・レゼルヴと銀の皿に盛ったイチゴだ。ルイスの言葉に耳もかさずに、ゴクゴクと高級シャンパンを飲み干すビビアン。ものの価値のわからない、無知な女といったところ。
そして淑女へと変身を遂げたビビアンが、ルイスにエスコートされ、金持ちの集まるポロの競技場に姿をあらわす。そこで彼女は再びシャンパンを味わうわけだが、けっしてガブ飲みしない。グラスを持つビビアンは、輝くばかりの美しさでそこに優雅に立っているというわけだ。若くて美しい娼婦と青年実業家の恋を描く、現代版「マイ・フェア・レディ」。ウブな青年実業家をリチャード・ギア、娼婦をジュリア・ロバーツが好演している。
「007、ロシアより愛をこめて」とテタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ
映画を彩った名ワイン
ご存知007シリーズの第2作。かつては「007/危機一髪」というタイトルで親しまれていたシリーズのなかでも人気の高い代表作である。とある犯罪組織が仕事の邪魔になるジェームス・ボンドの暗殺をたくらみ、暗号解読機と美女を餌にイスタンブールへとボンドを呼び出し....というストーリー。
ヘリコプターからの銃撃戦や列車内での対決など、ハラハラさせられるシーン満載で、まさにアクション映画の鏡。この話の中で、キーとなるワインが登場するのは、オリエント急行のなか。ボンドはソ連のスパイと思われる男と、食事をすることになる。じつはその男はスパイではなく、組織の殺し屋だったのだが、ボンドはあることを聞き逃したために、そのことに気づくことができず、捕らえられてしまう。ボンドはヒラメに「テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ」を合わせ、英国将校に扮したロシアの殺し屋は、同じヒラメにイタリアの「キャンティの赤」をオーダー。飲み物ひとつで残酷なほど生活レベルの違いが出てしまう。
そしてそのことに気づけなかった自分に、ボンドはくやし涙を流すのだった。このように回を追うごとにボンドやボンドガールたちがワインを飲むシーンがだんだんふえていき、銘柄についてのつっこんだ会話も登場するようになる。
「私を愛したスパイ」ではドン・ペリニョンが登場し、「ドンペリ好きに悪人はいない」と言ってのけ、「死ぬのは奴らだ」でロジャー・ムーアはボランジェR.Dとともにデビューし、以降、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナンもボランジェ派だ。
映画を彩った名ワイン
有名な喜劇俳優の前に、彼のそっくりさんが現れ、そのそっくりさんが、さまざまな事件を巻き起こしていく、というストーリーのフランスらしい洒落た映画である。もちろんワインのことなどまったく知らなくとも、十分楽しめる佳作だが、要所要所で登場するワインが、どんなものなのか分かる人には、また違った楽しさがあるだろう。
たとえば、女優キャロル・ブーケの別荘で彼女の手料理をともに食べるシーンで登場するのは、家庭的な味をもつローヌ河右岸のサン・ジョセフの赤。ここで主人公は「サン・ジョセフ、料理には合うがいまの自分には重すぎる」という。地に足の着かない主人公のうかれた性格を匂わせる心憎い台詞だ。そして映画の終わりも近いシーンで、フィリップ・ノワレとともに朝食をとるシーンで発せられる「これからポートと葉巻を楽しもう」という台詞。実際そこにあるのは、バスケットに入ったチーズとソーセージだけ。かつての生活と現在との違いを、きわめて効果的に際立たせている。
映画を彩った名ワイン
舞台はパリ。アンドレアスという1人の酔っ払いが、ある日見知らぬ初老の紳士から、200フランを借りることになった。紳士は、いつかその金を返せるようになったら、日曜の朝に、リジューという街の聖テレーズの像のある教会に寄付してほしいと頼む。それからというもの、彼の身のうえにどんどん幸せが舞いこんでくる。そこで、金を借りられた幸運を教会のミサに出て感謝すべく、アンドレアスは教会の前までいくのだが、ミサはすでに始まっていた。それなら次のミサまで待とうと、よせばいいのに教会の前の酒場で赤ワインを飲み始める。2杯、3杯とグラスを重ね、酔っ払ってしまった彼はミサにいくどころではなくなってしまう。男を引き止める魔力を秘めた美しい赤ワインの色が印象的である。
映画を彩った名ワイン
1871年のパリ・コミューン革命で夫と娘を失った主人公バベットは、デンマークの寒村に住む伝導師の娘姉妹のもとで、家政婦として働くことになる。食材を見る目や値切り方に、料理人としての片鱗を感じさせるものの、長い年月を貧しい姉妹の一家政婦としてひっそり暮らす。その彼女の素顔が明らかになるきっかけは宝くじ。1万フランもの大金が転がり込んだ彼女は、姉妹の亡き父の生誕100年を祝うパーティーのディナーをつくらせてほしいと申し出る。
そして当日、村人たちにふるまわれたのは、つつましい暮らしを続けていた老人たちは知るべくもない、最高のフランス料理のフルコースとワイン。かつて彼女はパリの一流レストランの料理長だったのだ。彼女のふるまった珍味の数々を理解できたのは、その昔パリのバベットの店にいったことのある、スウェーデン人の将軍ただひとり。おいしさに感動した彼が感想をもらすのだが、老人たちには彼のスウェーデン語がわからない。キャビアとともに出されたシャンパンを飲んだ将軍が「まさしく1860年物のヴーヴ・クリコですな」と感嘆しても、村人は、「そうだな、今日は一日雪になりそうだな」との返答。だからといって村人たちにその価値が伝わらなかったというわけではない。
「快楽は罪」とのストイックな教えのもとに育った村人達は、料理とワインの味に無関心なふりをするのだが、それも初めだけ。よくは分からないものの、生まれて初めての料理とワインに次第に心を開き表情をほころばせていく。すぐれたワインは、その価値を知らないものをも十分に酔わせるものだった。
映画を彩った名ワイン
酸いも甘いもかみ分けた初老の男を演じるイブ・モンタンの、渋い色気が漂ってくる小粋な腐乱す映画である。モンタンが演じるのは、多彩な過去を持つアレックスという男。事業に失敗し、妻とも別れたいまは、夢の実現に向けてギャルソンをやっている。その夢とは、亡き父の残してくれた海辺の土地に遊園地をつくること。
映画の舞台は、アレックスがギャルソンのチーフを務めるパリのとあるレストラン。食事時の店は猛烈に忙しく、まさに戦場。客を上手にあしらったり、同僚の失敗をとりなしたり、アレックスの毎日は忙しい。だが決して仕事だけというわけでもなく、閉店後に仲間と一杯やったり、女性にだってちゃんとモテるし、毎日を気楽な独り者として過ごしている。
この映画にワインが登場するのは、例えば忙しい食事時の前のギャルソン達の食事時間。客席の隅のテーブルにちゃんとテーブルクロスを広げて楽しむ。シェフのつくった本格的な料理に、ワインは欠かせない。人気のレストランの余裕を感じさせる贅沢な料理とワインからは、ただ忙しいだけではなく、毎日をエンジョイしている様子がつたわってくる。そしてとうとうアレックスがギャルソンを引退し、長年の夢である遊園地をオープンすることになったその前夜、レストランの仲間達が開いてくれた一流レストラン「マキシム」でのお祝いパーティーでもワインは大活躍。いつもは客にサービスする側の彼らが、この日ばかりは一流のもてなしを受ける。祝杯のシャンパンのあまりのうまさに、「言葉が見つからん」と黙り込むアレックス。ところが仲間から飛んだ「シャンパンの温度は何度」との質問に「5度半」と即答。客としてくつろぎきれないアレックスの態度に、苦笑させられる。