楮や三椏、雁皮などの原料を用途や質感によって使い分け、多くの工程を経て作り上げられる越前和紙の品質は、多くの芸術家たちに愛されてきました。横山大観、東山魁夷、平山郁夫といった日本を代表する画家だけでなく、オランダのレンブラント、そしてあのパブロ・ピカソなど海外の芸術家達からも注文があったといいます。
室町時代に、道西掃部(どうさいかもん:三田村氏)が献上した紙を、時の守護職新波高経(しばたかつね)が「出世奉書」と命名したことに始まります。その後この紙は、幕府や宮中の公文書用紙として使われ始めたのでこの名前がつきました。原料は楮(こうぞ)を使用し、この工程が越前和紙づくりの基本となっています。
※「和紙屋さん」が取り扱う越前和紙がすべて「越前奉書紙」とは限りません。
- 楮(こうぞ)を刈る
原料の楮の木は、夏が終わると高さが1〜5mになります。落ち葉が終わる10月〜12月頃に刈り取ります。
- 皮をはぐ
刈り取った楮の原木を縄でしばり、大釜に入れて蒸します。蒸し終えた原木が冷めないうちに樹皮を剥ぎます。その皮は「黒皮(くろかわ)」といいます。
- 黒皮はぎ
黒皮を水に浸し、揉みながら表皮だけを洗い流します。さらに包丁であま皮や節疵(ふしきず)などを削り、繊維質だけを残します。これを「白皮(しらかわ)」といいます。
- 煮沸(しゃふつ)
この段階で原料には不純物が含まれています。それを溶かすために、直径1mの大釜に白皮とアク(アクリル液)を入れて煮沸します。
- 塵とり(塵より)
煮あがった原料をよく水洗いして、さらにきれいな水の中で、小さな塵を丹念に取り去ります。
- 叩解(こうかい)
塵とりが終わった原料を「紙叩き盤」の上にのせ、樫の角棒で叩き、繊維を分散させていきます。
- 紙だし
楮の繊維の中に含まれているデンプンなどの非繊維素物が、和紙のゴミやシミの原因となりますので、原料を布袋に入れて、キレイな水の中で入念に洗い流し除去していきます。ここまできてようやく紙料となります。
- 粘剤(きねり)
和紙を漉く前に粘剤を用意します。粘剤は「漉き舟(すきふね)」の中で紙料を平均に浮遊させるためと、漉くときに繊維がうまく絡み合うために必要です。粘剤にはトロロアオイやノリウツギといった植物の根や皮を用います。根を打ち砕きしぼるとでてくる粘液を、木綿袋で数回濾過、不純物を取り除くと純粋な粘剤(きねり)ができます。
- 攪拌(かくはん:紙たて)
漉き舟の中へ水と紙料・きねり・白土などを加え、「たてぎ」と呼ばれる棒でよくかき混ぜます。きねりの量は紙の厚さ薄さ、季節によっても左右される重要なポイントです。
- 紙漉き
「簀桁(すげた)」で漉き舟の中の紙料を汲み上げ、前後左右にゆすって繊維をよく絡み合わせます。2回目は最初よりやや深く汲み込み、求める厚さになるまで繰り返します。これを「流し漉き」といいます。別にきねりを使わない「溜め漉き」という方法もあります。漉き上げた紙は簀から「紙床板(しといた)」に移し、1枚ごとに「ユガラ」をはさみながら積み重ねていきます。
- 圧搾(あっさく)
積み重ねた濡紙を、天びん式に石の重さで水を切ります。このとき紙質を損なわないように「重し石」は順次調整しながら重くしていきます。
- 板はり
圧搾が終わった湿紙を1枚1枚剥ぎ取り、イチョウ材でできた「干し板」に刷毛を使って貼り付けていきます。
- 乾燥
紙を貼った干し板を、干し場に出し日光で乾かします。雨の日や曇の日は乾燥室で熱風で乾燥します。
- 選別仕上げ
乾燥した紙を干し板から剥がし、1枚1枚人間の目で調べて傷や塵のついた紙を取り除いていきます。
- 断さい包装
選別を終えた紙を規定の大きさに裁断します。
さらに越前奉書は500枚を1束として、古来からの方法を用いて包装していきます。