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 この『ばっちゃんストーリー』が本になりました。
                ばっちゃん
    −助けられた繁殖犬たち−
 
   [写真] 小関左智  [文] 井上夕香  小学館
  ISBN4-09-727229-2 定価:本体 1,400円 +税

 

 

    

 

大変な運命を背負った『ばっちゃん』。
人間の良きパートナーとして生まれてきたはずなのに、どこかで歯車が狂った。
身も心もぼろぼろになっている時に、救いの手は差し伸べられた。
このお話は、実際に起きている話です。

 

  

 

 

 

  ラリーズカンパニーに新しいメンバーが加わりました。
その名は『ばっちゃん』。白い毛をしたゴールデンレトリバーのメスです。
 このお話は、心温まる美しいお話ではありません。ラリーズカンパニーの商品をご愛用いただくための楽しいカタログに、このようなお話を掲載することをためらいましたが、犬達が愛犬家によって、充分な食事と快適な環境を与えられて幸せに暮らしている一方で、人間の私利私欲のための犠牲になっているたくさんの犬達がいることを、一人でも多くの方々に知っていただきたくこのページを作りました。

 

  1998年11月、東海地方の山中に、99匹の犬達が、苛酷極まる環境の中で飼われているのが発見されました。
 そこには15匹のゴールデンレトリバーをはじめ、ラブラドールレトリバー、オールドイングッシュ、ジャーマンシェパード、ベアデッドコリー、その他たくさんの犬が見るも無残な姿で生活していました。
 山中の犬舎は、廃材などで囲われた古い牛舎を利用したあばら家で、多量の糞尿にまみれ、鼻をつくほどの悪臭を放ち、想像を絶する地獄のような環境でした。
 水もなく、餌は養鶏場から貰い受ける生の鶏の頭が、数日に一度与えられるだけです。犬達は全員が重度の皮膚病にかかっており、はつらつとしている犬は1匹もいません。倒れたままで生きているのか死んでいるのかわからない子、かゆくてかゆくて、檻のさびた格子に頭や顔をこすりつけ、血を流しているゴールデン。皮膚病で全身の毛が抜け落ち、灰色の皮膚をしたラブラドール。精悍なはずのシェパードの目は、目やにで潰れ、皮膚は痛々しく赤剥けでした。生まれたばかりの子犬が、死んだ犬の横で、鶏の目玉を舐めている様子は、まるでオカルト映画のようでした。
 シュナウザーやシーズーは原型が解らないほどの状態です。隅に固まって震えているビーグルと思われる子犬も哀れでした。シーズンを迎えた雌犬は、錆びた狭い檻に2匹で入れられていました。交尾が済むまでは餌は与えられないようです。
 爪が伸び過ぎて、立つのがやっとのゴールデンは、頭をうなだれて悲しそうな目でこちらを見ていました。飾り毛に特長のある尻尾や耳には、毛が生えていません。皮膚は赤剥け、うつろな瞳からは血が流れ、毛の抜けたお尻は糞尿でまみれ、ハエが群がっていますが追い払う気力もないようです。

 これが、私の大好きなゴールデンレトリバー?ラリーやピオと同犬種なのか・・・。


動物管理センターで初めてシャンプーをした日


薬浴をしながら居眠りをしている『ばっちゃん』

 


シャンプーをすると耳の中が腐っていた

  そんな犬達に希望の光が見えてきました。
東京のALIVEという愛護団体の働きかけにより、行政の指導が入りました。豊田市の動物保護管理局により、殆どの犬達がレスキューされました。動物管理局職員の方々の手厚いケアによりシャンプー、薬浴、耳や爪の手入れが施され、病気や怪我で治療が必要な犬達は、獣医さんのもとへ運ばれました。製薬会社からはたくさんの薬やシャンプーが寄付されました。
 マスコミの報道で、この犬達のことを知った多くの方々からも、フード、毛布、サークル、首輪、リード、その他たくさんの寄付が届きました。
 すべての犬にマイクロチップが入れられ、固体識別が出来るようになり、カルテが作成されました。カイセンやアカラスという昔なら治療が不可能だった皮膚病も、現在では特効薬ができ、2〜3回の注射で殆どが完治しました。

 

 空腹が満たされ、かゆみから開放された犬達は、ゆったりとしたサークルに移されました。しかし、その直後、犬同士の喧嘩が始まりました。餌の取り合いで大型犬が噛み付きあっています。幸い、小型犬は寄付されたゲージに入っていて巻き込まれずに済みました。

 そんな中、『ばっちゃん』は顔から血を流し、想像もつかぬほど長く伸びた爪のため、立つことさえおぼつかない足で震えていました。耳もシッポもお尻も赤剥けで赤黒くなった皮膚ばかりが目立ちます。
 『ばっちゃん』のおっぱいは大きく垂れ下がり、陰部は人間のこぶし程の大きさになっています。獣医さんの診断では、少なくても100匹以上の子犬を生まされているということでした。真っ茶色になった歯は、小児ジステンバーによるエナメル質の破壊だそうです。

 余程疲れていたのでしょう。『ばっちゃん』は薬浴の最中に居眠りを始めました。薬湯に浸かったまま、30分ほどコックリコックリと気持ち良さそうに居眠りをして舟を漕いでいました。
 人間の利益のために、たくさんの子犬を産まされ、年をとって使えなくなったら捨てられて・・・・この可哀相な『ばっちゃん』を一日でも早く幸せにしてやりたい。
 でもここには他にもたくさんの可哀相な犬達がいる。年寄り犬もたくさんいる。喧嘩に負けて、群れに入れずいじけた犬は、脅えた様子で助けを求めています。喧嘩によって発熱し、丸まったまま顔を見せない犬。恐怖のあまり、横になれず座ったまま居眠りをしている犬。小型犬達は皆、ガタガタ震えています。
 みんな連れて帰りたい。でも我が家には、ラリー君、ピオ君、ノアちゃん、セーラー、そしてきつい性格のネコのニャーもいます。それに『ばっちゃん』だけをレスキューするのはとても心が痛みます。でも1匹だけでも・・・。いろいろな思いが頭を巡りました。
 でも、縁があったのでしょう。結局『ばっちゃん』は私の運転する車中で、安心しきったように大いびきをかきながら、ペンションへ到着しました。そして今ではすっかり家族の一員となり、家の中で幸せそうに暮らしています。何事にも動じずマイペース。心配していたニャーともすぐに仲良くなり、寒い日は暖炉の前のラリー君のお気に入りの席で居眠り、飽きるとラリー君に貰ったカドラーの中で仰向けに寝ています。遠慮がちなピオ君は床で寝ることが多くなってしまいました。


  ばっちゃんの仲間たちもみんなきれいに
  シャンプーされて嬉しそう


初めの5日間は外の小屋で寝ていた。
ぬいぐるみには見向きもせず、
ひたすら寝ていた。

 

 
『ばっちゃん』の右目は見えません。水晶体が破裂していました。強度な衝撃によるものだそうです。今まで、蹴られたり、殴られたりして虐待されていたのかもしれません。『ばっちゃん』に触れるときには、ゆっくりとした動作で触れなければなりません。急に触れようとすると、目をギュッと閉じてひれ伏し、ごめんなさいのポーズで堅くすることが、“それ”を物語っています。

  マスコミの報道や里親探しの呼び掛けが始まりましたが、食事時間帯の放送が多かったためか、比較的きれいな犬達しか放映されませんでした。犬達の現状を安易に考え、実際に会ってみてギャップに驚かれ、すべての子に里親を見つけるのは難しいのではないかと心配していました。
 ところが当日になると、「最後まで貰い手のない子の里親になりたい。」とか「一番症状のひどい子を貰って幸せにしてあげたい。」と言ってくださる方も多く、ハラハラしながらも、一匹残らず里親が見つかりました。まだまだ優しい方がたくさんいらっしゃって、この世も捨てたものではないと嬉しく思いました。

 現在の日本の法律では、動物を糞尿にまみれた狭いゲージに閉じ込めて、何日間も水や食事を与えなくても何の法律にも触れず、罰則もありません。動物虐待の定義がはっきりしていないため、虐待にもならず全てが飼い主の自由なのです。
 動物の保護や管理に対する法律が曖昧なために、犬を利用して自分たちの利益だけに走る無責任な人達が増えています。


 今回の例は氷山の一角でしょう。幸せな犬達の陰に、使い古され捨てられてしまう。廃犬として扱われる犬がたくさんいるのです。
 私達にできることは、一日でも早く動管法の改正を求めることです。私達人間は、地球上の自然界のリーダーなのです。たやすく犠牲になってしまうのは人間を信じ、愛してくれる動物たちです。特に私たちの愛すべき犬達は、今の世界では人間と共存し、人間に従う以外生きるすべはないのです。本来ならば、弱者を守らなければならない立場である人間のこのような身勝手な行動に歯止めをかけられるものは、もはや法律の助けがなければ無理なのです。
 九死に一生を得た『ばっちゃん』。つい最近までは、ふせをする時は狭いゲージの中で暮らしていたときの習慣で前足は鼻の先より前まで出せなかった。

 今は幸せ、これからもずーっと幸せな毎日。

 



こんな所にいては生きていけない。
夢も希望もない。(中央がばっちゃん)



マスコミに取り上げられ
やっと行政が動き出す。



保健所で手当をしてもらう。



目や耳のダメージも大きい。


浜松「木俣動物病院」で
検査を受ける『ばっちゃん』


里親の会 当日


伸びた爪、腫れた足が痛々しい


犬の現状を訴えているばっちゃん