真実のおでん缶(前編)


2000年11月24日

ニンゲン食わなきゃ生きてはいけぬ。
それがどこでもアキバでも。
イート(eat)・イーター(eater)・イーテスト(eatest)。
レッツ☆胃拡張だよ、アキバB級グルメ探検隊〜!!!

 ということで、みなさんはじめまして。ライターの矢部です。このコラムは、秋葉原の知る人ぞ知るストリート系美味を大紹介&大解明。真のアキバ通目指して猪突猛進しようぜブラザー!というもの。ぐいぐいトバしていきますんでひとつヨロシク。

裏アキバ名物「おでん缶」を追え!

これがおでん缶。入っている具は、さつまあげ、こんにゃく、ちくわ、つみれ、うずら卵の全5種類。だしは塩分控えめでさらっとしており、食後に一気飲みしてもノドが渇かない点がすばらしい

 さて、第1回目のネタは、裏アキバ名物としてあまりにも有名な「おでん缶」(ちなみに、表アキバ名物は「じゃんがらラーメン」ね)。
 おっと、「おでん缶」についてご存知ない方に説明しておきますと、コレはラオックス ザ・コンピュータ館の斜め前、チチブ電機の前に設置されたドリンク自販機で絶賛発売中の缶入り「うす味 おでん(200円)」のこと。緑茶やコーヒーに並んで“あたたか〜い”エリアになにげなく混入されており、ホモ・サピエンスの心理的盲点を強力に刺激。ナニも知らないでその自販機を利用した人は、「どれにしよっかなー、コーヒーコーヒー……お、おでん!???」と思わず動きがフリーズする確率100%のヘビー・インパクト・シングスなのです。



天狗缶詰。ちなみに同社に向かう途中には、なんと“BUFFALO”でおなじみのメルコが! オ、オイしすぎます

 シチュー缶やカレー缶だってあるんだから、おでん缶があってもゼンゼン不思議じゃない。でも、それがドリンク自販機で販売してるとなると話はべつ。大宇宙からの電波をキャッチしたご乱心アイテムなのか、それとも綿密なマーケティングを元にした確信の産物なのか、このアバンギャルドな思考の出所を追及せねばなるまい。さっそく新幹線に飛び乗り、名古屋にある製造元の天狗缶詰へレッツゴー!!

「ようこそいらっしゃいました」
と快活に出迎えてくれたのは、天狗缶詰・企画課の伊藤氏。“おでん缶のことになるとヒトが変わる”と社内で有名な情熱家さんだ。こういうピュアな方には、やはりこちらの熱意も見せねばなるまい。そこで自分がおでん缶の取材のため“だけ”に名古屋へきた旨を伝えると、
「そ……れは……ご……苦労……さまです(うまく言葉が出ない)」と、半ばアキレ絶句状態の彼いわく、本社まで取材にきたマスコミはわたくし矢部が世界初とのこと。レアなお話を聞けそうな野生のカンに胸がふくらむ。まずはおでんを缶詰にしたうえ、自動販売機で販売してしまった、ある意味で紙一重な「天狗缶詰」というカンパニーについてうかがってみた。

 天狗缶詰は大正12年、熱田の青果市場で野菜の仲介問屋をやっていた伊藤徳次郎氏が、豊作などで在庫過多になった青果をケチャップやジャムなどに加工すべく創り上げた会社である。当初は愛知エリアを中心に営業活動していたが、アメリカから直輸入した乾燥グリーンピースの缶詰化で全国展開デビュー(主に各地の給食センターやカレー屋さんが御用達)。以後、業務用缶詰のトップブランドとして愛され続けて77周年……の、業界関係者なら誰でも知ってる超有名会社なのであった。ちなみに社名の由来は、
「初代の伊藤徳次郎氏は、とにかく鼻のおーきな、赤ら顔の人だったそうです。そんなワケで彼は、青果市場で通称「熱田の天狗」と呼ばれていました。つまり、初代のあだ名がルーツなんですね」
とのこと。ただ、現在では「天狗=鼻たーかだか→威張ってる」というイメージもなきにしもあらず。現社長は「天狗になるな!」とむしろ逆説的な意味の訓戒にとらえ、誠実な仕事をするためのシンボルにしているそうだ。
 読者のみなさんもそうだと思うが、そうなると当然気になるのは「現社長の鼻のサイズ」。いちジャーナリストとしてするどく追求してみたが、さすがに答えを得ることはできなかった。ザンネン。
 さあ、いよいよ問題の「おでん缶」について、レッツ☆インタビュー開始!! 





いま明かされる、衝撃の事実!!

天狗缶詰・企画課きっての伊達男、伊藤氏。彼はおでん缶にまつわる、ある重要なプロジェクトに深く携わっているのだ。詳しくは次回の後編をチェック!

――「おでん缶」はいつ発売したのですか?

「意外に古くてですね、15年ほど前になります。缶コーヒーやジュースなど、普通とは違う独自の製品を作ることで有名な某大手飲料メーカーさん(なんとなくワカるよね)から、「なにかこう、インパクトがあって、食べられるもの」というリクエストを受けましてね。いろいろ試作した結果、この商品が誕生したんです。
 本来はそのメーカーさんの自販機で専売するハズだったのですが、そのメーカーさんがコンビニ向けに出した某アイテムの売上げが伸びず、そちらの広告費を拡大することになり、きゅうきょ発売を無期限延期に(泣)。でも、ウチとしてはもう開発して、すでに缶を何万ケースも用意してあるワケですよ。こら、出さなシャレにならんと、業務用のルートでなんとか販売したイワクつきなんです」

――つまり、最初からドリンク自販機で発売することを念頭に開発された?

「はい、そのとおりです。ところが、我々は缶詰業者ですから自販機のルートに弱いし、大手の飲料メーカーさんは、自社のブランドで展開してるから自販機に「おでん缶」を入れてくれないワケです。そこでしかたないので、酒問屋さんや酒屋さんへ頼みにいきました。関西のほうの酒屋さんって、店内に立飲みコーナーがあって、缶詰をつまみに酒が飲めるんですよ。だから、サバの水煮やイワシの蒲焼と同じく、缶詰保存食的な感じで販売してもらってました」

――では、下手をすると、そのまま販売終了してしまう危険性大だったと。

「ええ。ただ、用意した数がとにかく膨大でしてね、幸いそう簡単には完売しなかったんです。そんな折、たまたまある自販機業者さん(自販機だけを貸し出して、中身は店主が好きなドリンクを入れられるというもの)が「おでん缶」の商品性を見込んでくれましてね。販売ルートを作ってくれたんです。で、そこの自販機に入れてもらってたんですけど、夏はさすがに売れないだろうと「おでん」を外したら「なんで「おでん缶」がねーんだよ!」と自販機が壊れるほどケリ入れられたとか、ものすごい反響があった。コレはイケる(かも)!と我々が手応えを感じた瞬間でしたね」

――初期ロットの「おでん缶」は、現行のものとは違うんですか?

「現行の極太缶になったのは4、5年前からですね。はじめはショート缶(缶コーヒーサイズ!)でした。中身はまったく同じなんですけど、こんにゃくが1本、ちくわが1本、さつまあげが2つで1本、つみれ2個の間にうずらの卵が入ってる1本と、計4本すべてに串がささってました。余談ですが、缶のサイズが小さいぶん、おでん種がぎっしりと詰まっており、こんにゃくを最初に食べないと、おでんが取り出せなかったそうです」

――ということは、おでん種のセレクトははじめから決まっていた?

「そうです。ただ、おでんの人気ベスト3はヒトによってまったく違うでしょ。いろいろリサーチして最大公約数を出したつもりなんですが、「ちくわぶ入れてくれ」とか「牛すじがないと売れない」とか、バイヤーさんや小売店の方からはいろいろ言われましてね。今のように知名度があがるまでには、ホント長い時間がかかりましたよ」

――秋葉原名物になってしまった感想をひとつ。

「なんていっていいのか、……正直当惑しております。イヤ、もちろん非常にありがたいことなんですけど、地元の大須や、大阪の日本橋では「おでん缶」は未確認なんですよ。何故?……というキモチはちょっとあります」

――あの……未確認って、自社製品を販売している場所を把握していないんですか!?

「「おでん缶」の販売ルートはきわめて特殊なんですよ〜。扱っていただいている小売店はもちろんわかりますけど、どこの自販機に入っているかは我々でさえもつかめきれていないんです。日本全国、北海道から九州、沖縄にも売りましたけど」

――えっ、沖縄にも「おでん缶」上陸したのですか!?

「はい。ウチの九州営業所が働きかけて、那覇近郊の海沿いの町にあるコンビニで販売させていただきました。……今は取引がなくなってしまいましたが。ともあれ、自販機販売については不明ですが、現在では多くの都道府県に出荷してはおります」

――「アナタの町にもおでん缶」状態ですね。反響はいかがですか?

「おかげさまで上々です。山口県の某パソコンショップさんなど、わざわざご連絡して下さり、パソコンと一緒に店頭で販売していただいてますし。メーカー冥利に尽きるご愛顧をいただき、ホントうれしく思っています。……でも、今回あなたにはじめて打ち明けるのですが……実は「うす味 おでん缶」の生産は、もうストップしているんです……」

――えぇっ!?

<……以下、超緊迫の次号へ続く!>

矢部直治氏プロフィール
某小料理屋4代目若旦那 兼 バカ系体力派ライター。文章力はともかく、料理に関する知識だけは豊富(本人談)。



(矢部直治)




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