ContentsTOPベテラン職人の素顔結城 康久
 



 
 

製作中に、ひと際張りつめた空気を放つ職人さん。

結城 康久 64歳。見ての通りの工房一ダンディーな職人さんだ。
結城さんは19歳の時、すぐ上のお兄さんの手伝いとして職人の道へ入った。職人歴45年のベテランである。
「父親はプレス職人、3人の兄貴もそれぞれ手に仕事を持っているんだよ」と、生っ粋の職人一家なのだそうだ。

「普段は本当に優しい兄貴なんだけど、仕事となると厳しい親方でね。注意されながら少しずつ仕事を覚えていったよ」まじめな結城さんは、二度同じ失敗をくり返さないよう必死で修行したそうだ。仕事場に一歩入れば親方とデッチ。そこは、兄弟と言えども厳しい職人の世界に変わりはなかったようだ。
「そんな厳しい兄貴も独立する時には喜んでくれてね。ミシンを一台プレゼントしてくれたんだ。嬉しかったよ。本当に」少し遠くを眺めながら懐かしそうに話してくれた。

庭に建てた小さなプレハブ小屋と、ミシン、鋤きの機械一台を携えて、結城さんは独立した。ある暖かな冬の一日に。

独立してからの結城さんは、がむしゃらに作り続けた。朝も夜もなく、盆も正月もなく、ひたすらに製作に追われる毎日だったそうだ。「ありがたい事に仕事はたくさんあってね。恵まれていたと思うよ。とにかく数多くの商品を作ることで技術を磨いていくことができたからね」
必死に製作する一方で、素敵だと思った商品のすべてのパーツを解体し、そのつくりをひとつひとつ研究したと言う程、研究にも余念がなかったそうだ。「今でも、歩いている人の鞄や小物が気になって、ついじっくり眺めてしまうんだ。変に思われているかもしれないね。(笑)」

 
結城さんが、この工房の職人となったのは5年前。親方だったお兄さんと主宰の土屋に面識があったことが縁だったそうだ。「ここは、ランドセルを作るための大型のミシンがあるでしょう。あの大型ミシンを任せられる事になったんだけど、今までに使ったことがないくらいの馬力だし最初は恐かったんだよ」

大きなミシンの音は、まるで工事現場のドリル音のようで、太いミシンの針先からは強い摩擦によって湯気が上がる。工房でもこのミシンを扱える職人は多くない。「途中で息をすることができないんだ。短距離走を繰り返しているようなものかなぁ。縫うときは一息。一気に掛けないと糸が曲がってしまう。ミシンと私との一瞬一瞬の戦いかな。でも、それが面白い。大型ミシンを掛ける日は、楽しくて仕方がないんだよ」とほんの少し子供のように微笑んだ。

毎日続く仕事を面白いと思える、戦いだと思える結城さんは、本当に素敵な職人さんだと実感した。
 

それだけ集中して戦っている結城さんだからこそ、凛とした緊張感を放つことができるのだろう。仕事中の結城さんは、本当にかっこいいのだ。カメラ担当の佐藤は、結城さんを撮影しながら鳥肌が立つことがあるそうだ。「すごいかっこいいよ。やっぱり結城さんはすげーや。オーラが違うんだよな」とポツリ呟いた佐藤に私も大きく頷いた。工房一ダンディーで、そして優しい気遣いの人。職人という言葉が、こんなにぴったりとくる職人さんはそういないだろう。

「ランドセルは特に好きだよ。うちにも可愛い孫たちがいるんだけど、やっぱり夢があるからね。こんなに作りがいのある鞄はきっとないなぁ」
結城さんの大きくて頑丈な手から生まれたランドセルや鞄たちをたくさんの人に使ってもらいたいと思う。そして楽しい毎日を鞄と共に送ってもらいたいと思った。

最後に、結城さんが照れながら話してくれたエピソードを一つ。
職人堅気の結城さんは、とても奥様を大切にしている愛妻家でもある。奥様のリクエストに答えて、手作りのバッグをプレゼントしたことも多々あるそうだ。「いつの間にか、かみさんの友達にまで頼まれるようになっちゃって。まいっちゃったよ…」と照れ笑いしながら、嬉しそうに話してくれた。手作りのバッグをプレゼントして貰えるなんて、なんて幸せなんだろうと羨ましくなった。

「結城さん、いつか私にも作ってください!」
「いいよ。どんな形が良いか考えておきなさいね」
最後まで、優しくてダンディーに話してくれた結城さん。これからも元気で素敵な職人像を見せてくださいね。

 
文/渋谷 志帆
 
 



 
■社長から一言
結城さんは、本当に経験が豊富な職人だからとても頼りにしているんです。
朝も早くに出社して、掃除から準備まで若手と一緒に行なう姿には、本当に頭が下がります。まじめで一生懸命で、若い職人たちにとっても見習うべき点がたくさんありますね。まだまだ若い者には負けないという気持ちを持ちながらも、積極的に若手の指導に力を注いでくれていることが嬉しいです。

ランドセル用の大型ミシンもまだまだ結城さん以外には任せることはできないですし、うちの製品の品質を高く保っていくために欠かせない職人さんです。責任感のある、本当に信頼できる人ですから、これからも元気で頑張って欲しいです。共通の趣味である釣りにもまた一緒に行きたいなぁ。結城さん、頼りにしていますよ!
 


 
それいけデッチ 繋がる職人の姿 副店長山添の革コーナー