ContentsTOPベテラン職人の素顔山岸 三男
 



 
 
ランドセルには、毎年、必ず新しい出会いが待っている。幸せな鞄なんだ。

山岸 三男 54歳。この道35年のベテラン職人である。その優しい人柄から、「みっちゃん」の愛称で工房のみんなから慕われている。みっちゃんはランドセルと共にこの道を歩んできた、ランドセルを最も愛する職人さんだ。

工房主宰の土屋國男の元に弟子入りしたのは昭和42年3月31日桜咲くある春の日。社長の土屋とは35年もの歳月を共に過ごしてきた。

「うちに入る前に、1年間ベルトの職人をしていたんだ。爬虫類の革を使ったベルトだったから毎日ワニの革と格闘していたね(笑)。でも、爬虫類はあんまり好きになれなくて…、それで人の紹介で社長の元に弟子入りしたんだ」

社長の元に弟子入りしてから現在に至るまで、みっちゃんは遅刻もお休みしたことも殆どない本当にまじめな人である。工房が連休を取っても、みっちゃんは休まない。一日だって工房やランドセルの事を忘れることはないのだ。
休日の静かな工房で、一人黙々と作業を続けるみっちゃんを見て、職人さんの寡黙な時間を感じた日があった。静かな静かな、優しさに満ちた時間が流れていた。

「親父はせんべい職人。兄弟も鞄を作っている職人一家なんだ。だから自然と職人になる道を選んだよ。手に職があるっていうのはいいね。職人になって本当に良かったと思っているんだよ」

「この仕事は天職だ」とみっちゃんは笑った。照れくさそうに笑った。みっちゃんの手は、他の職人さんと同様にごつごつと節くれだっている。ベテラン職人の手は、樹齢を重ねた木の幹のように、深い時間と強さと、そして温かさを感じさせる。
 
 
 
「本当は不器用なんだよ。(笑)社長に聞いてみれば分かるよ。社長は気長に我慢しながら教えてくれた。感謝しているんだ。不器用だったけれども続けていれば身に付くものなんだって実感しているんだ」
と、みっちゃんは作業の手を止めずに静かに話してくれた。

今後の職人像を訪ねると、
「若手がどんどん育っていくように何でも教えてあげたいんだ。社長に育ててもらったようにね。昔は競争心もあったけど、今は伝えることが大切なんだって思うから。自分が知っていることは何だって教えて、どんどん若者にチャレンジして欲しいんだよ」と、いつもよりハッキリとした声で、それでもどこか照れくさそうに笑いながら答えてくれた。

ランドセル職人としての35年間、みっちゃんは35回もの新しい出会いを繰り返してきた。入学を迎える子供たちを毎年笑顔で見守ってきたのだ。今年もまた、あの季節がやって来る。

「ランドセルが大好きだよ。入学を待ち望む活き活きした子供たちの笑顔に会えるからね。こんなに作りがいのある鞄はないと思うよ。本当に幸せな鞄だなぁとしみじみ思うんだ。そして、そんな幸せな鞄を作っていることが自分にとっても幸せに繋がっていると心から思う。うん。思う。」

みっちゃんの笑顔はとても優しい。その優しい笑顔で、これからもたくさんの子供たちを見守っていくだろう。そして工房を包んでくれるはずだ。
 
 


 
■社長から一言
山岸さんは……う〜ん、やっぱり「みっちゃん」の方が言いやすいなあ(笑)。みっちゃんはねえ、1968年からずうっと一緒にやってきた仲だからもう35年の付き合いなんだけど、生真面目で一本気な性格は全然変わっていないねえ。みっちゃんはね、とにかく仕事熱心で手抜きが一切できない性格なんだよ。そう、完全主義って言うのかなあ、言われたことは必ずキッチリと、とても丁寧に仕上げてくれるんだ。それと責任感がとても強くてね、仕上がりに納得いかなかったりすると休日をすべて返上して作業をしに来ていたりするんだ。それに見えない努力を厭わずに、地道にコツコツと自己研鑚しているのもよく知っているよ。普段のにこやかな笑顔からは想像がつかないかもしれないけれど、みっちゃんは本当に「仕事の鬼」だね。大好きなお酒を飲んでも度を越さないように心掛けて、絶対に次の日まで酔いを持ち越さない。私からしたら、本当にこれほど頼りになる存在はないね。
 


 
それいけデッチ 繋がる職人の姿 副店長山添の革コーナー