「ランドセルの壊れ方は本当にいろいろだよ。でも、元気な子なんだなぁとか転んじゃったのかなぁとか、使っている子供たちのことを考えながら直すと、とっても優しい気持ちになれるんだよ」
そう言って小さく微笑む石川さんは、最後に処方せんを出すようにランドセルに保湿クリームを塗りランドセルの細かい部分までピカピカに磨いて送りだす。
今から54年前の暖かいある春の日、16歳の石川さんは東京の荒川区の工房で住み込み修行を始めた。中学校の卒業式からわずかに3日後のことだったそうだ。「小さい頃から手先が器用でね。履いているズボンに穴が開いていると、おふくろが直してくれるんだけど、その縫い方が汚いからって自分でやり直ししていたんだ。だから家族みんなに、おまえは縫製関係の仕事が向いているっていわれてね。それで工房へ弟子入りすることになったんだよ」
石川さんが弟子入りした工房は、当時のキャノンやリコーなどのカメラケースを専門に作っている工房で、同じようなデッチが20名もいたそうだ。その工房で3年の修行を積んだ石川さんは、その後さまざまな工房で職人としての腕を磨いていった。 |