ContentsTOPベテラン職人の素顔福田 安宏
 



 
 
「この鞄は絶対に福田につくって欲しい」そういわれる職人になりたいね。

春は全てが新しく生まれ変わってゆく再生の季節。鞄工房土屋でも、春が近づくにつれランドセル製作の後の限られた時間に続々と新作試作たちが作られていく。この時期、工房の中ではミシンの音が朝から晩まで絶えることがない。

そうした環境の中で、それらを生み出していくベテラン組の一翼を担っているハンドバッグのスペシャリストが、福田安宏さんだ。福田さんは、ベテランといってもまだ40代。「60代は若手」と呼ばれるカバン職人の世界においては、まだまだ「若手」とよばれてしまう年齢なのだ。

普段は無口な人間の多い職人さんの中で会えばいつでも何か話しかけてくれる福田さんは、工房に来てまだ半年足らずだが、その気さくな性格ですぐに工房の空気に溶け込んだ。今では先日htmlメールマガジンでご紹介したヌメ革製のバッグを始め、様々な試作品を作る忙しい毎日だが、実は40代という若さにして27年間もハンドバッグをつくってきた、腕利きの職人なのだ。

……ん?福田さん、27年って、福田さんまだ40代じゃないですか?
 
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やまぞえ(以下Y):こんにちは、試作品でお忙しいところお邪魔してしまってすいません。
福田さん(以下F):ううん、いいよ。今日は何かな?

Y:福田さん確かまだ40代でしたよね?それでキャリア27年というのは……?
F:中学を卒業して16歳からずっと、この道一筋だったからね。

Y:最初はどちらで修行されたんですか?
F:はじめはやはり職人だった叔父のところに入門させてもらったんだ。当時は叔父さんの工房の2階に住んでいてね、普段からよく叔父さんの仕事ぶりは見ていたんだ。それでなんかやってみたくなっちゃって。
Y:叔父さんもカバン職人だったんですか。
F:普段は優しい叔父さんだったんだけど、親方とデッチの関係になってからはとても厳しかったね。あまり厳しかったから、入門して1週間くらいで「やめたい」って言って「いいよ」って言われたんだ。だけど、なぜか次の日には仕事場に来て「やっぱりやらして下さい!」って(笑)。

Y:どんなふうに修行されていたんですか?
F:親方はひとつひとつ手取り足取り教えてくれるような人じゃなかったね。「技術は教わるんじゃなく、盗むもんだ」という考え方で、デッチのうちは何にも教えてはくれなかったよ。それでいてある日突然「ちょっとこっち来て、これをやってみろ」って、いきなりやったこともない作業やらせるの。で、全然できなかったりすると「お前、今まで俺の何を見てたんだ?!」って怒られるわけ(笑)。だから、はじめのうちはもちろん余裕なんてこれっぽっちもないんだけど、必死で親方の技を盗もうとしていたね
Y:やっぱり厳しいんですね。
F:最初は「なんで叔父さんなのにこんなに俺に厳しいだろう?」っておもったよ。だけどずっと長くいる先輩に言わせると「いや〜、親方も年をとってかなり丸くなったよなあ」って(笑)。それで、ずっと我慢しながらやっていったね。

Y:いつまで叔父さんのところで修業されていたんですか?
F:20代後半で独立を許されるまで、ずっと勉強させてもらったんだ。で、その独立を許してもらった時に、あの厳しかった親方が「お前、あの時辞めなくて良かったな」って言ってくれてね。もう、感極まってホロリとしてきちゃったね、あの時ばかりは……
Y:……いいはなしですね。グスッ。
F:それから、「だけどな、これからが本当に大変な時だぞ。いいか、職人というものは絶対に器用貧乏になっちゃいけない。『この××は、絶対に福田につくって欲しい』といわれるような職人にならないとダメだ」って言われたんだ。親方は「これを是非つくって頂きたい」って、あちこちからいっぱい持ち込まれていた人だったから、この言葉には本当に説得力があったね。

Y:すごい職人だったんですね。
F:独立してからは、教わりに行くと今度は言葉で丁寧に教えてくれるようになってね。一人前と認めてもらえたと感じて、うれしかったね。でも、カバンをまたいだりした時に怒られた事もあった。「お前は自分の作ったカバンをまたぐのを、なんとも思わないのか!」って。そんないい加減な気持ちでつくったものは、いい加減なものにしかならないって言うんだ。そんな、職人としての心構えから叩き込まれたよ。僕にとっては本当に「神様」だったね。

Y:その時の苦しい修行時代があったからこそ、今の福田さんがあるんですね。
F:そうだね……。

Y:ところで、最近は試作品を作られる機会も多いですけど、試作品のアイディアはどのようなところから持ってくるんですか?
F:もちろん雑誌も見ているし、通勤の途中で見かけるバッグも参考にすることが多いね。できるだけアンテナを広く張って、柔軟に考えていきたいと常日頃から思っているよ。
Y:最終的には、どのような職人を目標としているんですか?
F:「人並みのことしかしなかったら、人並みのものしかつくれない。他人以上のものを作りたかったら、人並み以上の努力をしなくてはいけない」というのが親方の教えだったし、僕もそう思っている。やっぱりね、どこにでもいる職人にはなりたくない。「この鞄は絶対に福田につくって欲しい」、そういわれる職人になりたいね。

Y:お忙しいところ、ありがとうございました!
F:いえいえ、こちらこそ。

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試作品の製作で忙しい福田さんからは、お話を聞いていて27年のキャリアからくる自信と、一方でそれにとらわれずにどんどん新しいものを採り入れていこうという考えの柔らかさと感性の若さを感じました。忙しい中、インタビューや撮影にも嫌な顔ひとつなく気さくにこたえてくれますし、苦労を表に出さない、とても朗らかな職人さんでした。
掲載日 2004.3.13
 


 
■社長から一言
福田さんは40代という若さに似ず、とにかく経験豊富で技術的がしっかりしている上に、とても勤勉で非常に研究熱心だから、さらなる技術の習得など期待していることはたくさんあるよ。まだまだ若いから、これからもっともっと難しい技術を身に付けていって欲しいし、福田さんの才能ならそれができると思うんだ。そうしたものを、これからの新しく作っていくものに生かしていって欲しいね。

それと同時に、人柄もいいし細かいところにも良く気付いてくれるから、デッチたちの良き兄貴分として、技術的に彼らを引っ張っていって欲しいという期待もあるんだ。技術的にも精神的にも、これからの鞄工房土屋の牽引車として活躍を期待しているよ。
 


 
それいけデッチ 繋がる職人の姿 副店長山添の革コーナー