ContentsTOPそれいけデッチ!植木 享
 
 
鞄工房土屋デッチ軍団の中で、ベテラン職人たちまでもがその技術的なセンスを「天才的」と語るのが、
まだ職歴2年にも満たない植木亨だ。とにかく作業を覚えるのも行うのも早くて的確。
職人入社試験での成績は驚異のハイスコアだった(社長土屋國男・談)とのことで、
間違いなく将来の鞄工房土屋を支える逸材の一人なのだ。
そんな「天才」植木に、昨年までとの違いと、これからの目標などを訊いてみた。

■ミシンを使うのが面白くて仕方がない

担: 作業中で忙しいところすいません。
U: いや、大丈夫っすよ。
担: 入社してからランドセルシーズンを2シーズン経験しましたけど、去年と較べてこんな部分が進んだなあ、というところはありますか?
U: そうっすねえ、ミシンを使う作業をだいぶやらせてもらえるようになったことっすかねえ。
担: 去年はそんなにミシンは使うことがなかったんですか?
U: そうっすねえ、今年はミシンを使うことが増えましたよ。
担: ミシンを触ることが増えて、仕事はどんな風に変わってきました?
U: いやー、メチャクチャ面白いっすよ。作業的に、すっごくやりがいがあるんですよ。
担: へえー、そんなに違うもんなんですか。例えばどんなところですか?
U: そうっすねえ……例えば振動が手に伝わってくるところとか、スピード感とか。
担: それって、まんまバイクの気持ち良さじゃないんですか(笑)?
U: え、あ、そうかもしれない。
担: 他にもあるんですか?
U: アナログなメカを操作している感じっていうか、雰囲気っていうのがいいんすよ。
担: それも、バイクにつながる面白さでは……。
U: 共通するところはあるかもしれないっすねえ。
担: ミシンはもう結構使えるっていう感じですか?
U: いやー、まだ全然っすよ。本当に使い始めたばっかりすからねえ。
担: ミシンの難しさって、例えばどんなところなんですか?
U: そうっすねえ、速度を適度に、そして一定に保っていくのが難しいですね。
担: それってそんなに難しいんですか。
U: コンピューターミシンじゃないんで、自分で調整しながらやっていかないといけないんですよ。これは革の質やミシンのクセ、ステッチの間隔をどのくらいにするかなんかのもろもろの要素を考えつつ、ミシンを動かす速度を決めて、それを一定に保っていかなくちゃいけないんで、経験からくるカンなんかが必要なんですよね。
担: へええ、ミシン一つとってもそんなに奥が深いものなんですか……。
U: そうなんっすよ。だからどんどん使い込んでスキルを増やしていかなくちゃいけないんですけど、新しいことができるようになった時の嬉しさは格別っすね。


植木の作業は的確な上、スピーディー


足袋はこだわりであり、トレードマーク

作業中でも快く質問に答えてくれる
■まずはランドセルの全工程にかかわるのが目標

担: ミシン以外にはどんなことが変わりました?
U: 今シーズンは、最後の「まとめ」の作業を結構やりましたね。
担: 着実にできることが増えている感じですか?
U: そうっすねえ、手応えは感じてますね。
担: 植木さんは確か「ランドセル作りが好きだから、ランドセルを究めたい」って言ってましたよね?
U: そうっすねえ、日本一のランドセル職人になりたいっすねえ。
担: ランドセルの何が、そんなに植木さんを惹きつけるんですか?
U: いやー、なんか形がかわいいじゃないですか。
担: ああ、あの形がいいんですか!
U: しかもランドセルってつくりがカッチリしていて、すごく丈夫じゃないですか。なんかいいんすよねえ、そういうの。
担: へええ、なるほど……。
U: あとそれぞれの部品も面白いんすよ。
担: そういえばランドセルづくりって、物凄い部品と工程の数ですよね。
U: 正直、入社したばかりの頃はこんなに複雑なものだなんて思わなかったっすね。
担: 今はどのくらいの工程に係わっているんですか?
U: いやあ、全体から見ればまだまだっすよ。もっと、どんどん加わっていきたいっすねえ。
担: じゃあ、まずは全工程に係わるのが最初の目標、と。
U: そうっすねえ、早くできるようになりたいっすよ。
■ベテランから学ぶ楽しさ

とここで工房長ことベテラン職人山岸が、植木に作業の指示を与え詳しく説明を加えた。植木は頷きながら2、3質問をし、早速作業の準備をはじめる。
  
担: 植木さんから見て、ベテランの方のすごいところってどんなところなんですか?
U: いやあ、もう全然俺なんかとは違いますよ。なんていうかもう、作業の一つ一つが。
担: え?たとえばどんな風に違うんですか?
U: そうっすねえ、例えばミシン掛け一つとっても動きが的確で、効率がよくてスムースなんすよねえ。手の置き方一つをとってみても、位置が適切で無駄な力が入っていないんすよ。
担: へー、そうなんですか。
U: 他には、例えばステッチが少し曲がっていたりしたときに、ベテランの人はひと目、本当にぱっと見ただけですぐ見つけられるんすよ。俺なんかだとミシン掛けしている最中には全然気が付かなかったりするんすけど、ベテランの方はできたのをチラッと見て「ここ、曲がっているよ」って(笑)。
担: へえー、そんなに違うんですか。
U: 本当に、教えてもらわないとわかんないミスなんかいっぱいありますよ。たとえば部品作っていて、出来上がりがなんかしっくり来ない時があったりするじゃないですか。でもその理由が何なのかどうしても分かんないときに、ベテランの方に聞きに行くと、失敗の原因と、どうしたらいいのかをすぐに教えてくれるんすよ。
担: へえー、かっこいいなあ……。
U: 機械の調整だって、やっぱすごいっすよねえ。ほんのちょっとした調整具合で作業の精度や効率が結構違ってきちゃうんで、機械を使いこなせるかどうかっていうのはかなり大きいんすよ。
担: ベテランの方って、機械が使いづらいと改造までしちゃいますもんね(笑)。
U: 俺なんかだと、まだまだそうやって失敗から覚えていくことの方が多いんですよ。でも失敗して覚えたことはまず忘れないですし、繰り返さないようにしてますね。
担: なるほど。そういう小さいことの積み重ねが職人を育てていくんですね。では最後に、今一番作ってみたいものはなんですか?
U: そうっすねえ……ヌメ革製ランドセルを1個、自分の手で作ってみたいっすねえ。

覚えの早さにベテランの期待も高い

昼休みのリラックスが午後の活力に
そう言って、植木は作業に取り掛かり始めた。
インタビュー中の柔和な癒し系の笑顔から一瞬のうちに目付きは鋭い視線を放ち始め、
表情は職人のそれに変わっていった。鞄工房土屋でデッチになってからまだわずか2年弱にして、
植木には容易に将来の姿を想像させる何かがある。
私はインタビューを通じて、植木が間違いなく将来の鞄工房土屋を背負って立つ職人の一人であると確信した。
掲載日 2004.4.22
 


 
■社長から一言
植木君は今年ミシンも使い始めて、もう、下仕事や細かい部品なんかはできるようになってしまった。それとランドセル作りに関しては作業の全体像を覚えてきたから、先の工程を読んで自分から積極的に動かしていけるようになった。着実にランドセルづくりをマスターしていっているといえるだろうね。
それから植木君は相変わらず作業が早く、そして的確だね。どんな作業をやらせてみても動きによどみがなく、スムースでスピード感にあふれている。体の使い方に全く無駄がないというか、あれは誰にでもできる動きじゃなく、1000人に1人くらいの天性のものなんだろうね。考えて動いているというよりは自然と身体がそう動いてしまうという感じだな。彼のあの正確さを伴ったスピード感には私も含めベテランのみんなも舌を巻いてしまうほどで、周りもつられてさらに気合が入ってしまうくらい、見ていて気持ちがいいね。それなのに彼は自分の技術についてとても謙虚だし、他が困っているとさりげなく助けに入って涼しい顔で戻ってくる。そういう人柄も含めて、将来の鞄工房土屋を任せるに足る逸材だと思って期待しているよ。
 


 
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