NEW DAYS NEW FACE 01全てをバランス良く保ててこそ、良いものができると思う。 玉川 勲 / 土屋鞄製造所職人


決して多くはない口数の中、時々ほころぶ口元。真剣に鞄のパーツを見つめる目には、なんだか愛しさが滲み出しているように見える。土屋鞄に勤めて14年というベテラン職人の玉川。同期の職人に言わせると「とにかく仕事が丁寧」だという。鞄を持つ指先の、まるで宝石に触るかのような柔らかさにも、その性格は出ていると思う。

そんな玉川のやりたいことは服や鞄や靴、全てを自らデザインし作りあげること。どんな鞄が作りたいですか?と訊くと「とにかく格好良い鞄」という答えが返ってきた。まるで子どものようにキラキラとした目で、にやっと笑ってみせる。 玉川はアパレルの仕事をした後に、土屋鞄に入社。ランドセルの職人から経験を積み、そして鞄の修理や大人向けの鞄の制作も経験した。長いキャリアの末、今は試作品の制作に興味があるそうだ。デザイナーのデザイン画を元に、思わず持ちたくなるような美しい佇まい、そして機能や耐久性なども考慮に入れて、みんなの見本となる鞄を作り出す。それが「サンプル職人」と呼ばれるポジションだ。
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玉川がこの工程に興味がある理由として最も印象に残ったのが「バランス」というキーワード。では具体的に「バランス」とは何のことなのか。試作品の制作の難しさというのは、ゼロ地点から全てを創造しなくてはならないという点。例えばとにかく美しい鞄が作りたくても、一つの制作に膨大な時間を注ぐことは許されない。美しいのはもちろんのこと、できるだけ他の職人たちにも作りやすく、そして丈夫であること。デザインや作りだけではなく、時間や工程なども含め、鞄作りを取り巻く多くのことを構築できなくてはならないのだ。全てが過剰にならず、不足することもない、それこそが玉川が言う「バランス」だ。「もしそういう鞄作りが出来たら、お客さんも職人もみんな幸せだと思うんだよね」と、優しく笑う。

ふと、本来「一流の仕事」とはそういうものかもしれないと思う。自分という個人的な感覚を超えて、全てのことが有機的に絡み合い、調和を保てる地点を導き出せること。それこそがプロなのではないだろうか。14年という決して短くないキャリアだが、「まだまだ修行の身」と、玉川は今日も焦らず淡々と仕事をこなして行く。きっと関わる全ての人にとって、より良い仕事とはなんだろうかと考えながら。玉川の言った「格好良い鞄」というものが、どんな形になって私たちの前に現れるのか、こちらも焦らずに待ちたいと思う。けれどもやっぱり、待ち遠しくもあったりして。



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