職人の手仕事によって、革製品をつくる土屋鞄。分野は同じでなくとも、ものをつくることや製品に対する想いに対して共感することに、日々たくさん出会います。ものづくりにまつわる日本各地の出来事や、古くから伝わる日本の美意識、お話をうかがってみたいと心惹かれる方についてなど。今日のコラムでは、土屋鞄のスタッフが共感し、多くの方と共有したい話題についてお届けします。

ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。

ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。

FRIDAY, 25 September, 2015

日本のさまざまな分野のものづくりに触れていると、ずっと変わらぬこだわりや信念を持ち、さらに新しいことにも挑戦しようという心意気やものづくりへの飽くなき精神を感じる、つくり手や製品に出会うことがあります。
100年前の旧式織機のパーツをひとつひとつていねいに磨いて再生し、この織機でしか出せない風合いを生かしたものづくりを行っている織物工房「工房織座」。分野は異なりますが、土屋鞄で大事にしているものづくりへの想いと共通する部分があると感じました。縁あって愛媛県今治にある工房の見学と合わせて、体験ワークショップに参加することに。いろんな素材やものづくりから鞄製作のヒントを得るために、今回は土屋鞄のバッグデザイナー・舟山が体験に臨みました。

ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


足踏み織機で、ストールを織る。

まずは使いたい糸や目の粗さ、デザインを決めるところから。たて糸は5種類前後、よこ糸は約120種類から選べます。素材もシルクや綿、麻などさまざま。素材の特徴を教えていただきながら、仕上がりをイメージして選んでいきます。ここでは、工房織座の製品企画やデザインを担当している武田英里子さんが、アドバイスをしてくださいました。そして選んだよこ糸を各色どのくらいの幅で織るか、デザイン画を作成。想像が膨らむ、楽しい工程です。舟山は、工房までののどかな道のりで感じた暖かみをイメージしてデザインしたとのこと。

ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


想像より難しく、集中力が求められる織り作業。

ワークショップで織りについて教えてくださったのは、工房織座を立ち上げた社長の武田正利さん。昔の織機を文献をたどってご自身の手で復元したり、オリジナルのものづくりができるように織機に手を加えたりと、お話をうかがっていると織り物への愛情や活力があふれているように感じる方でした。
体験で使用する足踏み織機は、かなり小型。腰をかける部分はこれよりももっとコンパクトだったとのこと。その理由は、この織機がよく使われていた明治・大正時代は、いまよりも女性は小柄だったから。現代人が織機に座ると、窮屈に感じるほど。そのため、座りやすいように武田さんが少し手を加えて調整をしています。

踏板を踏んで「シャトル」と呼ばれるよこ糸が巻きつけられたパーツを左右に往復させながら、よこ糸を通していきます。リズム良く踏むことが、きれいな織物になるコツ。やってみると、そばで見ていたときに思っていたよりもかなり難しい。なによりも集中力を要します。踏み心地は軽いので自転車のペダルを漕ぐような感覚でやると、前のめりになってしまい、タイミングがずれてしまいました。1回でも踏み込みが弱かったり強かったりすると、織物に影響が。武田さんは、その瞬間は音ですぐにわかるといいます。舟山は左利きのせいか、「右の踏み込みの音が少し弱いね」と指摘がありました。昔の方はこれを長時間続けて1反織りあげていたと思うと、驚きます。

ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。
ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


ものづくりのヒントを探しに、織物工房へ。


体験したからこそ、感じられること。

足で踏板を踏むごとに、織機を構成する鉄のパーツたちがいっせいに動き出します。小さいながらも、発する大きな音や目の前で動くむき出しのパーツはかなり迫力あり。自分の力が織機に伝わって、織物が仕上がっていく様子が目の前で見られるのは、達成感を味わえる体験でした。

「実際につくる体験をしていただくと、織物には時間や手間も織りこまれているというのが実感できると思います」

「織物は平面のように思えますが、実際に手にしてみると奥行きを感じました。シルクと綿など異素材の糸を組み合わせて織ると、密度や質感に変化が出て立体感が生まれます。組み合わせ方次第でちょっとした変化が出るので、想像力をかき立てられますね」と、舟山は言います。
こうしたいろんなものづくりの現場を訪れて、お話をうかがったり実際に触れて体験することは、直接的ではなくとも、いつか何かと結びついて思わぬアイデアにつながるかもしれません。糸の素材や質感、織り方を変えることにより生まれる軽やかさや柔らかさなど、素材と向き合って新しい表現を追求する、ということのおもしろさを、あらためて感じられる体験となりました。

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機織り体験に関する詳細・お問い合わせはこちらへ。(体験には予約・受講料が必要です)

工房織座
愛媛県今治市玉川町鬼原甲55
TEL:0898-55-2564
http://www.oriza.jp/



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取材時期:2015年4月
掲載:2015年9月25日