職人の手仕事によって、革製品をつくる土屋鞄。分野は同じでなくとも、ものをつくることや製品に対する想いに対して共感することに、日々たくさん出会います。ものづくりにまつわる日本各地の出来事や、古くから伝わる日本の美意識、お話をうかがってみたいと心惹かれる方についてなど。今日のコラムでは、土屋鞄のスタッフが共感し、多くの方と共有したい話題についてお届けします。

鎌倉の文化に触れて「つくる休日」を。

鎌倉の文化に触れて「つくる休日」にしませんか。

TUESDAY, 4 August, 2015

瑞々しく新鮮な空気に満ちた、朝の鎌倉駅。どのお店もまだ開いていなく、観光客もまばらです。けれど駅から歩いて5分ほどのとある場所は、すでに人々の活気と鮮やかな色に溢れていました。

こちらは「鎌倉市農協連即売所」という市場です。通称「レンバイ」と呼ばれ、鎌倉市内の農家の方が、作った野菜を直接売ってくれるという珍しい場所。お客さんはシェフから近くに住む主婦の方、観光客とさまざまです。歴史は古く、昭和3年からこういった形で野菜を売っているのだそう。組織的な直売体制をつくることは当時不況に見舞われた農家の助けとなり、とても画期的で新しいことだったそうです。

鎌倉の街は我々土屋鞄が本店の次に店舗を出した、思い出深い場所。そんな土地の魅力をぜひお伝えしたく、今回は鎌倉の暮らしを身近に感じられる市場「鎌倉市農協連即売所」をご紹介します。

鎌倉の文化に触れて「つくる休日」を。


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思わず目を奪われる、多種多様な「鎌倉野菜」

ここで売られている野菜は全て「鎌倉野菜」と呼ばれるもの。「鎌倉野菜」とは例えば「京野菜」のように、特定の品種があるわけではありません。鎌倉の土地で採られたものは全て「鎌倉野菜」と呼ばれるのです。ではその特徴は何かというと、どれを買うか悩んでしまうほどの種類の多さ。取材で訪れた日も、紫や黄色のトマトから真っ白の胡瓜、丸い形をしたズッキーニなど、見慣れない野菜がずらりと並んでいました。1日で30種類、年間にすると200種類近くの野菜が並ぶのだそうです。そもそもお話を伺うまで、野菜にこんなにも種類があることすら知りませんでした。どうして鎌倉ではこんなにも多くの種類の野菜を育てることができるのか、鎌倉で農業を営んでいる細谷さんが教えてくださいました。

「日本列島を見たときに、鎌倉が位置しているのは丁度真ん中あたり。寒くもなく、暑すぎもしない気温は、全国の野菜を育てられる丁度良い気候です。大抵の野菜は育てられますよ」

確かに調べてみると1年の平均気温は16℃、夏も27℃を超えることはあまりなく、冬も0℃以下になることは少ないようです。鎌倉ならではの比較的穏やかで平均的な気候が、多様な野菜の栽培を可能にしている理由のひとつ。そして気候の他に、鎌倉ならではの農業の形態も「鎌倉野菜」の多様さを支える一因なのだそうです。

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多品種を支える、鎌倉特有の小規模農業

鎌倉の畑は通称「七色畑」と呼ばれています。小さな面積の土地に多品種の野菜が栽培されている様子が、幾層にも多様な色が連続しているように見え、こう呼ばれるようになったのだとか。鎌倉の農業はそのほとんどが小規模なもの。お話を聞かせてくれた細谷さんも、ご自身を含め2、3人でお仕事をされているのだとか。鎌倉市は元々農地が約3%ととても少なく、農地の区画整理も行なわれていないのだそうです。そのため農地が点在しており、そもそも大規模な農業には向いていない、という背景があります。けれども小規模だからこそ、それぞれの管理方法が異なり、手間のかかる多品種の栽培が可能なのです。

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作り手と買い手、コミュニケーションの場としての「即売所」

我々が伺ったのは平日でしたが、それでも朝から多くの人で賑わっていました。土日ともなればもっと多くの方が訪れ、午前中で売り切れてしまう日も多いそうです。

「お客さんの声を直に聞けるのも、ここの良さですね」と、細谷さん。細谷さんは実際に東京のシェフの方が「これを作って欲しい」と言って持ってきたカボチャの種を、育ててみたこともあるのだそう。

農家の方に買い手の声が直接届き、新しいアクションが生まれること、それは間に人を挟んでいない「即売」という形態だからこその出来事です。買う側としてもどういった人がどういったこだわりを持って野菜を育てているのか知れることは、とても嬉しいポイントのように感じます。作った方と直に話して、そして物を見て、納得して自分が食べるものを買う。その体験は「即売所」ならでは。多種多様な「鎌倉野菜」を見て心弾ませているのと同時に、農家の方と話す人々の目は、真剣そのものでした。

鎌倉の文化に触れて「つくる休日」を。


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お土産にして、どう美味しく食べるか考える楽しさ

見た目の綺麗さに惹かれてぱっと買ってみたり、どう調理すればよいかわからないけれど食べたことがないから挑戦してみようと思えたり、「レンバイ」に居ると見たこともない野菜だらけで、子どものようにのびのびと純粋な感性に戻ったように感じます。普段スーパーなどで買い物をしているとまず献立を考えてから必要な野菜を買いに行く、という考えになりがちですが、野菜を見てからこれをどう美味しく食べようか考えてみること。なんだか意識していなかったけれど忘れていた感覚かもしれないと思いました。

彩り豊かな「鎌倉野菜」に魅せられて、スタッフも気になった野菜を購入してみました。帰りの電車の中で「今夜どうやって食べようか」と思案して、ついつい笑みがこぼれます。お土産というと出来合いのものを買いがちですが、こうした「作る楽しみ」が味わえるお土産も良いものだなと、改めて思いました。食べ方がわからない野菜は、ぜひ農家の方におすすめの食べ方を訊いてみてくださいね。

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早速スタッフも買ってきた「えごま」の葉を使って、農家の方に教えてもらった食べ方を試してみました。みりん、醤油、ごま油で混ぜご飯を作ったら、ささっとおにぎりに。海苔の代わりに「えごま」の葉を巻いて完成です。ごま油のこうばしさと「えごま」の葉の絶妙な苦みが、シンプルですがとても美味しい組み合わせ。

買う楽しみから作る楽しみまで。鎌倉へ行く度「今日はどんな種類の野菜と出会えるかな」と、ついつい訪れてしまいそうです。

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鎌倉市農協連即売所
営業時間:午前8:00~日没
定休日:年末年始
所在地:神奈川県鎌倉市小町1-13-10



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取材時期:2015年7月
掲載:2015年8月4日