職人の手仕事によって、革製品をつくる土屋鞄。分野は同じでなくとも、ものをつくることや製品に対する想いに対して共感することに、日々たくさん出会います。ものづくりにまつわる日本各地の出来事や、古くから伝わる日本の美意識、お話をうかがってみたいと心惹かれる方についてなど。今日のコラムでは、土屋鞄のスタッフが共感し、多くの方と共有したい話題についてお届けします。

今日のコラム/日本の伝統芸術・盆栽を知る

自らの手をかけ楽しむ、完成のない「生きる芸術」。
日本の美意識が詰まった盆栽を体感する。

TUESDAY, 16 JUN, 2015

自然界に広がる風景をひとつの鉢のなかに凝縮・縮小して表現し、育て鑑賞する盆栽。盆栽は日本の伝統芸術であり、海外でも「BONSAI」として広く知られています。

盆栽の本質や真髄を理解するには、長い時間をかけて体感しないとわからないのかもしれません。しかし日本人の美意識を知るひとつのきっかけとして、そのエッセンスを少しでも感じたい。そこで、初心者でも盆栽の魅力を知るきっかけになるような、肩ひじ張らずに参加できる盆栽体験に参加してきました。

鉢のなかに広がるストーリーを想像したり、夏の青々とした葉が秋には赤く紅葉するさまから四季を感じたり。こうしたことに喜びや美しさを見出し、愛でる心がある日本人の繊細な感性が、とても誇らしくも思えました。

今日のコラム/日本の伝統芸術・盆栽を知る


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東京・自由が丘駅から5分ほど歩いて、にぎやかな通りから一歩奥へ。静かな住宅街が広がる先に、突如たくさんの緑が並ぶ建物が。ここが今回盆栽体験を行う、盆栽などの植物を販売する「品品(しなじな)」。主宰の小林健二さんは、アメリカで盆栽を学び日本文化の奥深さを知った、という変わった経歴の持ち主。「景色盆栽」という、盆栽のなかに日本の四季や風景を感じられるような表情をつくり出すことを提案しています。

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小さな盆栽づくり。

たくさんの苗のなかから、今回はもみじを選択。こちらは8年もの、とのこと。「ちゃんと育てれば200年、300年育つんですよ」という小林さんの言葉から、植物が持つ生命力に驚かされます。

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土や根と向き合う時間。

まずは、土づくりから。ふと、大人になってからほとんど土をいじる機会がなかったことを、思い起こしました。数種類の土を混ぜるだけの作業ですが、思いがけず没頭してしまいます。最初は何気なく混ぜていましたが、「土の粒々を手のひらで意識しながら混ぜてみましょう」というアドバイスが。すると、土の吸いつくような質感や温かさ、大きさ、土の粒と粒の間に空気が入っていくような感覚を手から感じることができます。

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ポットから苗を出して、ピンセットで土を落としながら根をほぐしていきます。なかなか根がほぐれないのは、植物が嫌がっているということ。植物が「自らを人間の手にゆだねる」という一線を超えるかどうか、抵抗があるのかもしれません。無理にひっぱったりせずに、対話しながら少しずつ。途中から小林さんが代わると、あっという間。苗が小林さんに心を開いたようにみえます。「植物と対話しながら」とはこういうことか、と感じる瞬間でした。

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植えたら終わり、ではない。

幹や葉の表を理解し、向きを決めます。幹の流れ、葉の形や向きをよく観察。土の乾燥を防ぐ苔と、空間に広がりが出る砂を敷いてきれいに整えたら、完成です。

完成すると、達成感と同時に生きるものをこれから育てる緊張感のようなものも感じました。持ち帰って部屋にぽんっと置いたら終わり、ではありません。この盆栽は、放置してしまったら枯れてしまいます。美しく育つように、毎日様子をみて手をかける。ここから、少しずつ盆栽の魅力を体感できるのかもしれません。

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盆栽の声を聞きながら、ともに過ごす。

たとえば光が必要以上に強く当たっていてよけたいと思っているときは、上の葉が犠牲になって下の葉を守るように葉を広げて日よけになる。盆栽も、日々生きていくための作戦を実行しながら私たちにサインを出しています。
「植物は、2週間ごとに顔が変わる。体調が悪いときはサインや合図を出していて、意志表示しています。毎日向き合うことで、そういった植物の気持ちがわかるようになってくると、楽しいですよ」

盆栽というと敷居が高いイメージであまり考えたことのない世界でしたが、自分なりに楽しむことができるように思います。盆栽の世界に触れたことで日本人の心や感性、季節を楽しむことをあらためて再確認できました。

今回つくった盆栽は、品品から徒歩15分ほどで行ける土屋鞄製造所自由が丘店に、8月末まで飾っています。お越しの際には、ぜひご覧ください。

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盆栽教室に関する詳細情報・お問い合わせはこちらへ。(盆栽教室への参加は、受講料が必要です)

品品
東京都世田谷区奥沢2-35-13
TEL:03-3725-0303
http://www.sinajina.com/





取材時期:2015年5月
掲載:2015年6月16日

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