今日のコラム/白米の千枚田

輪島市の棚田「白米の千枚田」。
美しい景色を守ることにもつながる、田植え作業へ。


石川県輪島市に「白米の千枚田」という棚田があるのを、ご存じでしょうか。日本海に面したその姿は、まさに絶景。その形ゆえに機械を入れて作業することができず、手作業で米づくりを行っています。ここに水田をつくりあげた、日本人の力強さが感じられる場所です。今回は、たくさんのひとの手で行われた田植えの様子をご紹介します。

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白米の千枚田は2001年に国指定名勝となった、国もその美しさを認める棚田です。1879年の絵図によると、ほぼ現状に近い水田が完成していたとのこと。棚田の上から下まで高低差が約50メートルあり、地滑りを防止する機能も果たしてきました。なお、水田1枚あたりの平均面積は約20平方メートル(約6坪)と小さく、大きな機械を入れることができません。実際に現地に行ってみると大きさは本当にさまざまで、なかにはジャンプして飛び越えられるくらい小さな水田もありました。

棚田の先は、日本海。ガイドブックではじめて写真を見たとき、海と棚田という見慣れない組み合わせとその幻想的な様子に、とても興味をひかれた場所でした。金沢方面から車で向かうと、棚田は急に現れます。いったいどうやってこんなところに水田をつくったのだろう、と多くの方が一度は思ってしまうような光景が目の前に飛び込んできました。水田というと、直線的で広いイメージがありますが、ここはだいぶ印象が違います。どのように設計してつくられたのかわからないくらい独特の曲線で、水田が1,004枚に分割。どことなく、生き物のようにも見え、生命感が漂っているようにも思えました。

今日のコラム/白米の千枚田


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田植えが行われたのは、2014年5月18日(日)。気温は20度。千枚田の奥に広がる海と空の青色がつながっているかのような、まぶしいくらいの快晴の日でした。

この日は、約250名のボランティアや地元の方、棚田のオーナー会員を含め、計約500名の方が集結。参加者が利用する駐車場には、地元の車に混じって北九州や香川、名古屋や川崎など日本各地のナンバープレートをつけた車も。見学に訪れていた、外国人観光客の方も多く見られました。

今日のコラム/白米の千枚田


苗を植え付ける前に、まずは「枠」とよばれる木でできた道具を転がして、十字に線を付けていく。この作業は、地元の方が担当。千枚田は1枚1枚の大きさや形がばらばらなため、その作業だけでも大変です。その交点に、3センチくらいの深さで苗を植えていく。3~5株を均一に植えるのがコツ、とのこと。

地元の高校生や小さいお子さんを連れた家族連れ、お揃いのTシャツを着て作業する団体、足袋姿で作業する女性。定年退職後に農業を始めたんです、というご夫婦。愛知からみんなできたのよ、と笑顔で話してくださる方たち。さまざまな場所から訪れたいろんな年齢層の方が、泥の感触を楽しみながら思い思いに田植えを行っていました。

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今日のコラム/白米の千枚田


地元で白米の千枚田を保全する団体「白米千枚田愛耕(あいこう)会」の方は、作業しながらいろんな話をしてくださいました。
「休耕田を復田したいんやわ。愛耕会で」
現在、休耕田は25枚。少しずつ時間をかけて、すべての水田を耕作したいといいます。
「いちばん大変な作業は、畦塗り(水田と水田との間に土を盛り上げてつくった畦に、水が漏れないよう泥を塗り固める作業)。特に今年は特別やったしね。3世帯あった棚田農家のうち、2世帯が辞めてしまったから。いまはもう、1世帯しか残っておらん。だから、代わりに我々が昨年の倍の400枚分をやりおったんよ。そうやってやっていかないと、残していけんからね」

地元農家の方や保全団体の方たちだけでは、やはり限界があります。この棚田を守っていくには、作業を支えるボランティアや費用面でもサポートするオーナー会員等が大きな役割を果たしていました。

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朝9時過ぎからスタートした田植えは、およそ1.5時間でほぼ完了。
「今日はたくさんのひとが来てくださったんで、はやく終わりました」と、輪島市役所の方もほっとした様子でした。

泥や暑さと格闘しながら田植え作業そのものを楽しめたというのはもちろんですが、それ以上に農作業を通じて、昔から続くこの景色を守る手伝いができた、という充実感を得られた体験でもありました。それは、この日参加した多くの方も、おそらく感じたかもしれません。

なお、米づくり最大のイベントでもある稲刈りは、今年は9月21日(日)の予定。当日朝にボランティア受付を行えば、どなたでも参加ができます(定員に達し次第、受付終了予定)。稲が実った秋の千枚田は、いまの時期とはまた違った美しい表情で訪れるひとを迎えてくれるはずです。


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「白米の千枚田」稲刈りに関する詳細情報・お問い合わせはこちらへ。

白米千枚田景勝保存協議会事務局(輪島市観光課)
tel:0764-23-1146
http://wajimanavi.lg.jp/



掲載:2014年6月17日

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