写真撮影:原田 智香子

オーブンから立ち上るプッラの焼けるかおりに刺激され、焼き上がりを待って台所を出たり入ったり、と落ち着かない子供たちや夫の様子を見ることは母としてとても楽しいものです。

プッラとは、フィンランド語で甘いパンの総称。私はほぼ毎週プッラを焼きますが、その時にはいつでも同じように台所が混雑します。プッラがものすごく好きで、時には小ぶりのプッラを11個も食べてしまうような、たくさんのプッラを頬張る子供のことを「プッラねずみ」と呼びます。怖いことに、もしかすると我が家の子供たちには二人ともこのあだ名がつきそうです。

プッラは一人一人の子供時代の記憶に含まれるもので、それぞれの母親がそしておばあさんが、それぞれ世界で一番おいしいプッラを焼きます。プッラのかおりが家を“家庭”にし、安全な居心地を生み出します。フィンランドの最も有名な料理人でミシュランの星を持つハンス・ヴァリマキも、プッラ大好き人間として名乗りを上げています。

−オーブンから立ち上るプッラのかおりに勝るかおりを僕は知らない。そこにはノスタルジーとともに、気持ちを落ち着かせ、力を与える魔力がある。

とヴァリマキは雑誌のインタビューで答えています。
プッラのかおりは営業促進の手段としても利用されています。不動産屋は物件の売り手に、買い手の候補となる人が見学に来る直前にはプッラを焼くようにと勧めます。

おばあちゃんと孫が一緒になってプッラを焼くこともよくあることです。おばあちゃんと一緒にプッラを焼けば、間違いなく正しいプッラの作り方を覚えることが出来ます。おばあちゃんも自分の子供時代にはやはり自分のおばあちゃんと一緒にプッラを焼いたのです。

おばあちゃんはプッラを焼きながら孫が大好きな自分の子供時代の話を語って聞かせます。

私の母、インケリと娘のメリが一番好きな一緒の時間の過ごし方、プッラを焼くところを撮影しました。インケリおばあちゃんと孫のメリはすでに何十回も一緒にプッラを焼いています。初めてのときメリはまだ2歳でしたが今は8歳です。今ではメリもとても上手に手のひらで生地を小さく丸めることができるようになりました。

フィンランド人をフィンランド人にするいくつかの物事があります。 サウナ、ミートボール、サマーハウス、サンタクロースなどがそうですが、プッラもその一つです。

それぞれのフィンランド人のプッラに対してと、そこに材料として何を入れるか、という意見はとってもはっきりしていて、それはその家族の中で脈々と受け継がれていきます。
ある人はプッラにはカルダモンがたくさん入っていなければならない、と言います。他の人は、レーズンの入っていないプッラなんてプッラではない、と言います。フィンランド人の会話の中で、「プッラからレーズンをつまみ取る」と言うと、それは誰かが何かにおいて自分に利益のあることだけを先を越して取ってしまうときに使います。

最近では頻繁にプッラの生地を使ってシナモンロールが作られます。映画の「かもめ食堂」の中で作ったシナモンロールはとってもポピュラーなパンです。

シナモンロールの味はもう既に独り歩きさえ始めています。去年の夏の新商品の中で一番のヒット商品はシナモンロール・アイスクリームでした!

最近はシナモンロールをものすごく大きく作ることがトレンドです。たくさんのフィンランドのパン屋さんやカフェが、半径が20cmもあるとにかくジャンボなシナモンロールを作ります。
もしシナモンロールをその日のメインディッシュにしたくない場合には、小さなかわいいシナモンロールもあります。(Pågenと言う名前のスウェーデン産のミニ・シナモンロールはほとんどのお店に置かれています。ビニール製の袋に小さなシナモンロールが12個入っています。どうやらスウェーデン人もシナモンロールのことがいくらかはわかるようです。もちろんフィンランド産の方がおいしいですが・・・。)

私自身もシナモンロールをたくさん焼きますが、でもこれはプッラの生地で作ることが出来るものの中の一つに過ぎません。プッラの生地と言うのは、たとえばインケリのような達人にかかれば、あっという間にテーブルがすばらしいパーティーのためのおもてなしで一杯になる、とても便利なものなんです。
伝統的なプッラの種類をご紹介します。

−ミニプッラ(Pikkupulla)
手のひらで丸める小さなプッラ。ザラメでトッピングします。

−バターの目プッラ(Voisilmäpulla)
ミニプッラの天辺にくぼみを作りそこにバターと砂糖をおとします。

−4つ編みプッラ(Pullapitko)
棒状にした生地を編むようにして細長いプッラにします。ザラメやアーモンドスライスなどでトッピングします。最も伝統的なプッラです。1cmほどの厚みにスライスしていただきます。

−サワークリームプッラ、バニラクリームプッラ、ベリージャムプッラ
それぞれ作り方は同じです。丸めて扁平につぶした生地の真ん中をすこしくぼませ、大さじ2、3杯のサワークリーム、バニラクリーム、ベリージャムなどを載せます。

−プッラリース(pullakranssi)とプッラケーキ(ボストンケーキBoston-kakkuとも言います)
ちょっと不思議ですが、フィンランド人は何故かプッラにアメリカの町の名前を付けたがります。大手のパン製造会社のファッツェルもバニラ入りプッラを<ダラス>、シナモン入りを<テキサス>と言う名前で販売しています。

プッラリースとシナモンロールは同じテクニックで作られます。はじめに生地を平らに伸ばし大きなシートにします。(テーブルにはりつかないように生地の上にも下にもタップリと粉をひいてください。)

シート状の生地の上に溶かしバターを刷毛で塗り、シナモンと砂糖を混ぜたものを振りかけます。

シートを端からロールして棒状にし、端から輪切りにします。

ロールの棒を輪切りにし、個別に焼くとシナモンロールで、ロールの棒をそのままリング状のケーキ型に入れその表面にはさみで切れ込みを入れて飾りをつけて焼くとプッラリースとなります。

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  • 牛乳をお鍋で40〜42℃ぐらいに温める。それ以上になるとイーストが死滅するので注意!
  • 大きいボウルに強力粉をカップ1入れ、その他のドライイースト、カルダモン、グラニュー糖、塩を入れて、温めた牛乳を注いで泡立て器で良く混ぜる。
  • 溶き卵も加えてまぜる。
  • 混ぜながら残りの強力粉を少しづつ加えていく。はじめのうちは泡立て器でまぜる。
    • グルテンをしっかり出すつもりで力強く混ぜること!
  • 強力粉が半分ぐらい入ったら、手とへらでこね始める。
    • 全体が一つにまとまり、ボールから簡単にはがれるようになったら完了!
  • 溶かしバターを加える。一瞬分離するが、力強く混ぜ続けていくうちにまとまってくる。耳たぶぐらいの柔らかさになって生地がつやつやしたら出来上がり。
    • 一度に強力粉を入れすぎると生地が固くなるので、必ず少しづつゆっくりと加えること。
  • 一次発酵をさせる。ボウルの上にラップかぬれ布巾でおおい、暖かい場所(35〜40℃)で約40分発酵させる。生地が2倍以上にふくらんで、指で押したら跡が残るようなら成功!
  • 生地を成形する。台の上に打ち粉をして(強力粉:分量外)空気をつぶすように生地を薄くのばす。
    • 30cm×60cm程度の長方形になるように伸ばしましょう。
  • 8の全面に溶かしバターを刷毛で隅々まで塗る。
  • シナモンパウダーと砂糖を混ぜ、9の全面にまんべんなくふる。
  • ロールケーキの要領で長い辺を手に持ち、60cm程度の筒状になるように生地を端から巻く。
  • ロール状の生地を端からハの字にナイフを入れ、カットする。
    • 一つ一つは台形になります。短い辺は2cm、長い辺は4cm程度になるようにカットするのがコツ!このようになります。↓
  • 台形の長い辺を底にして切り口を上下に据えて台に置き、短い辺の部分へ両手小指を水平に添えて置く。小指を力いっぱい垂直下に押さえつける。
    • 小指を離した後も、跡が消えないくらいにしっかり押さえつけること!
  • 天板にベーキングシートをひいて、成形したプッラをならべる。二次発酵で再び膨らむのを考慮して間隔を置いて並べること。
  • 二次発酵をさせる。プッラを並べた天板ごとラップかぬれ布巾をかけて再び2倍以上になるまで20〜30分ほど発酵させる。
  • 発酵したプッラに、つや出し用の卵を刷毛でぬり、パールシュガーをふりかけてオーブンで10分〜14分焼き上げる。*オーブンの種類によって設定温度、焼き時間が多少異なりますので焼き加減はこまめにチェックしてください。
  • 焼き上がったら、ケーキクーラーなどで冷ます。乾燥予防に布巾をかけてもよい。

12個分

牛乳・・・・・・・250cc
卵・・・・・・・1個
(つや出し用を含む)
塩・・・・・・・小さじ1
グラニュー糖・・・・・・・120g
強力粉・・・・・・・400〜500g
(様子をみながら加減する)
ドライイースト・・・・・・・11g
カルダモン・・・・・・・大さじ1
溶かしバター・・・・・・・100g
(マーガリンで代用可)
生地に塗る溶かしバター・・適量
パールシュガー、粉末シナモン、グラニュー糖・・・各適量

*1カップ:200cc

  • 大きいボウル、へら、めん棒、刷毛、成形用の台を用意しておく
  • バターはレンジ等で溶かしておく
  • 材料は全て計量しておく
  • オーブンを200〜210℃に余熱しておく

プッラ作りで昔から言われていることは、うまく作ろうとするほど失敗する・・・ということ。プッラの生地を作るときに大切なことは、手早く作ること。それから緊張しないで作ること。ちょっと失敗したときの方がプッラはおいしいのです。

慣れないうちは牛乳250ccぐらいの量で生地は少なめで始めるとよいと思います。この量の生地の扱いが簡単に感じられるようになったら、牛乳を500ccにして2倍にするといいでしょう。
初めのうちは生地を作るのに1時間ぐらいかかるかもしれませんが、慣れるほどに時間は短くなりそのうちに15分でできるようになります。