藤井友子氏(富宏染工株式会社)

独自の色・柄・ものづくり

染匠として、ものづくりで大切にされていることは何でしょうか。

染匠は商品の企画、色、柄、全行程の職人のチョイスにはじまり、商品が仕上がるまでを統括する、オーケストラの指揮者のような役割です。その中で富宏染工独自のものづくりに欠かせないのは職人の存在です。

富宏染工さんでは、ほぼ全工程の職人さんが専属だそうですね。

着物の需要が多かった時代は、メーカーも多かったので、みなさん自社の色や柄を出すため、また、守るために、職人を専属で抱えることは普通だったんですよ。ある程度の数がないとコストがかかる上、需要も減ってきている今はなかなか専属では成り立たなくなってきているので、珍しくなりましたが。ただ、うちは染め方が独特なので、単発でお願いする訳にもいかないという部分もあります。

特殊な技術が必要な染め以外にも、全工程を専属にすることのメリットは何でしょうか。

白生地が着物になるまでには、約15の工程があります。それぞれの工程は独立しているように見えますが、互いの仕上がりに深く影響を及ぼします。最終的に「富宏染工の着物」としての独自性が一貫しており、調和が取れているのは、個々の高い技術に加え、職人達が製作に対する意識を共有しているからでしょうね。

良いところも悪いところも見えにくかった

幼い頃から皇室御用達の着物も手がけておられるお父様(藤井寛氏)や、職人の方々の仕事ぶりを幼い頃から見てこられたと思いますが、最初から、この道に進もうと思われていたのですか。

最初はそんなに意識していなかったので、徐々にですね。 小さい頃から着物に囲まれて育ったのも、父に連れられて色んな作業場に行くのも当たり前のことでした。自分が社会に出た頃は、まだ着物業界も景気が悪いわけではなかったし、ごく普通に家業という感じで、特に好きでも嫌いでもなかったですね。

では、この道に進まれたターニングポイントはありますか。

他に兄弟もいないので自分が勉強していかないと、と漠然とは考えていました。思い切ってビジネススクールに通ったことで、意識的になりましたね。

染匠のお仕事とビジネススクールとは意外な組み合わせにも思えますが。

当時、業界が低迷し始めた時期で、着物業界の内側からでは、今この業界がどういうことになっているのかが見えにくい、もっと大きく視野を広げたいという想いがありました。

そこで新たに見えてきたものとは何でしたか。

当時はリーマンショックより前で、グローバル化の波が最高潮でした。初めは外国人の先生や外資系企業から参加されている方に、伝統産業の非効率的な面を疑問視されました。確かに、時代に即していない部分はありましたね。 ただ、単なるビジネスとしてではなく、ものづくりをしていく身の上ですから、そこばかりを競うのはどうだろうと悩んでいた頃に、京都に根付く他ジャンルのメーカーさんから、ものづくりに携わる人間として、伝統産業のものづくりに対する基本的な考え方、姿勢には共感するものがあると言っていただけました。 そういう意味で、独自性のある商品を作っていく為に、「変えていくところ」と「無理に変えてはいけないところ」の両方が見えてきたと思います。

といいますと、それまでは、なんとか変わらなくては、という気持ちの方が強かったのですか。

やはり、古い古いと言われ続けてきてたのでね。でも、業界の中にだけ居たのでは、良いところも悪いところも見えにくかったので、そこを指摘してもらえたのは貴重でした。

「藤井寛のきもの」と“tomihiro”

富宏染工のふたつのブランドに共通するものとは何ですか。

専属の職人がきっちり作る、そういう富宏染工の良さというか根本的に大事にしているものは削らないですね。あとは、小物も作るけど、製作の主眼は着物であること。この姿勢は共通しています。

では、ふたつのブランドの違いと言いますか、tomihiroブランドの独自のカラーはどういったものになりますか。

父の作る「藤井寛のきもの」は総柄の振袖や皇室献上の訪問着など、晴れの日の着物がメインになります。一方、私が手がけているtomihiroは洋服と同じような感覚で着られる付け下げや小紋がメインになりますので、もっと普通の生活の中で着物を感じてもらえるのがtomihiroらしさなのかもしれません。

なぜ、タンブラーやマグカップという形を選ばれたのでしょうか。

正絹の扱いに困らない形で、「和」に興味がある方に着物の美しさを少しでも知っていただければと思って作りました。着物人口が減ってきている中、そうやってtomihiroが扱う商品から本物に触れていただく機会を増やしたいという想いはありますね。

反応はいかがでしたか。

最近は年代を問わず多くの方に手にしていただき、贈答品として用いられることが多くなりました。特に海外の方にと選ばれる客様が予想以上に多く、嬉しく思っています。

ローカルとグローバル 着物のこれから

これまで、ものづくりに携わってきて嬉しかったことはどのようなことでしょうか。

大きなファッションショーへの出品や、企業とのノベルティコラボ企画を通して、外の世界の人は業界が思っている以上に、日本の良い物を理解したいと思っているし、好んでくれるんだということが分かって嬉しかったですね。若い方も奇抜さや斬新さだけを求めているわけではないんだな、と。

では、今後、コラボレーションしてみたい分野はありますか。

どうせなら異分野、異素材とやってみたいですね。今までにない視点、作り方は勉強になります。 この業界でグロバール化ということを唱えると、まだまだ反発も多かったりするんですけど(笑)、私自身はグローバル化の為には、ものづくりのローカルな部分がきっちりしていることこそ重要だと思っています。うちの主眼はやっぱり着物づくりですね。そこをきっちりさせてこそ、新しい分野とのコラボレーションにも意味があると思います。

最後に、これからの伝統産業を担う一人として、どう在りたいとお考えですか。

着物は色にしても柄にしても日本独特の文化・美意識、を表現してきたものなので、そういうものは残していきたいですし、そういうことが期待されているのかなと思います。ただ、伝統産業といっても凝り固まったもの、なくなっていくものではなくて、普通のお仕事としてやっていけるように、時代からかけ離れたものにならない部分も大切にしていきたいと思います。