京漆器 石川光治氏(石川漆工房)

いつもそばに漆があった

まず、この道に進まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

祖父の代より「漆」に携わる仕事をしてきています。自分も幼い頃より親の仕事を朝から晩まで間近で見ながら、手伝いをしてきました。
京都の職人はみんなそんなもんです。ずっと見てると仕事を好きになるんですよね。祖父が作り上げ、残してくれたネットワークのなか、兄弟3人共が、気づいたら漆の仕事をそのまま続けてきました。

一人前の職人になるのに必要な、
修行の期間はどれくらいだとお考えですか。

京都の職人の世界では、修行の期間は目安8年です。わたしたちは家業だったため、「すきにしたらええよ」と仕事のことは何も言われませんでしたし、免許皆伝なんてこともありませんでした。ただ、3人兄弟の中で私だけ、外に修行に出されたんです。 よほど出来が悪かったんでしょうね(笑)。

独立されてから数年後に工房を下京区から伏見区へ
移転されましたが、この地を選ばれたのには何か理由があったのでしょうか。

便利やったということですかね。うちは一ヶ所で一貫製作を始めていて、作業する上で良くしてくれていたお得意さんが伏見にあって、通ううちに「こんなに便利なところはないやろ」ということで移りました。
この地はものづくりの会社がたくさんあって、日本のシリコンバレーと呼ばれるほど活気のある町なんです。

なんでも塗ります

「水と空気以外なんにでも漆を塗ります。」を合言葉に
今まで色々な商品を開発されていますが、一番大変だったことは何でしょうか。

「こんなん塗れますやろか?」って言われると弱いんですよね、「やってみんとわかりまへん」とはいえなくて、「塗ります!」ってなります。色んな塗料がある中で、漆はその強度や耐久性の点からも、いつの時代も上位にいます。
ただ、今は消費のスピードが早く、長いスパンでものを考えるということが出来なくなってきているので、長持ちするっていう利点が活かされないのが悔しいなあ、と思います。

その良さは是非伝えていきたいですね。
それでは、製作の上で一番難しいことは何でしょうか。

新しい仕事は全部難しい。どんな風に仕上がるか、やってみんとわからんからね。最終型が全く頭に浮かばない状態から、レールを敷くまでが大変ですね。

まず、レールを敷くところから始まるんですね。

そうです。この工房の経営者として、各工程の職人たちとイメージを共有できるようにすること。それが今いちばん大切にしていることです。ものを作り始める時っていうのは、姿かたち何も無いところから考えるわけですから、作り手みんなで共有しながら進んでいかなあかんのです。

なるほど。職人たちのチームプレーがあるからこそ、
「なんでも塗ります。」を実現できるのですね。

直しながら、一生もん 使い込むほど美しく

これまで、職人をしてきて嬉しかったことは何でしょうか。
エピソードなどあればお聞かせください。

「あんたんとこにして良かった」と誉めてもらった瞬間、それが一番嬉しいね。 そして、それをずっと使ってもろてお直しに来てもらった時、これはもう最高やね。

5年程前にお直しに持って来られたお椀がありましてね。それは20年程前に若いご夫婦が3,000円の吸い物椀をうちで買っていただいたものだったんです。その時点でもう15年使ってもらってたんですね。水道の蛇口かなんかにコチンとぶつけてしまったんでしょうね、全然わからないくらいの欠けやったんです。何で持ってきはったのかすごく気になってね、聞いたんです。そしたら、私がしょっちゅう言ってたことなんですが「ゴマ粒くらいの欠けのときこそ持ってきてください。それをほっといたらあきません。傷が浅いうちに直す方がいいんです。」というのを覚えてくれてはったんです。

結婚して間もないころ頑張って買うてくれはったものだったようで、お客さんにとってそんだけ思い入れがあったもんやったんですね。それを聞いて天にも昇る気持ちでしたね。

「思い出工房」という修理工房をされていますが、
今までで一番大変だったものや、印象に残っているものはありますか。

終わってしもたらほとんど忘れてしまうんやね。常に今やってる仕事が一番大変。
こんなんわしがやってもいいものやろかというものも、沢山やらせてもろてる。
塗り物はどんな状態でも直るんですよ、ほんまに。
直して永く使ってもらいたいですね。使い込むほどに美しくなること、直しができる事、それが漆の魅力だと思います。

はじめての漆器

使ってこそ分かる魅力もあるということですね。

ですから、漆器って扱いが面倒、こわい、値段が高いと思っている人にこそ、束縛されずに、こだわらず、自由に好きなように使ってもらえたらいいな、と思っています。

今回のこのインタビューを見て興味を持った方のために、
「初めて買うならこれ」というおすすめがあれば教えてください。

購入のきっかけっていろいろあると思うんですよね。
自分のために、贈り物に、こどものために。
その中でも「こどもに買ってあげたい」というとき…。
例えば「お椀」。予算があったら高いもの、許されるなら2倍くらいを目安にして欲しい。漆器だけに限らず、どんなもんでも、永く永く使って欲しいんです。普通に使えば一生もんですからね。ものを大事に使うことをこどもたちに教えてあげて欲しい。
食育にもしつけにもつながると思う。私も親からそんな風にしてもらってきたから、その思いがつながっていくといいな、って思うんです。

ものを大事にするということは、今も昔も変わらず大切なことですよね。

つなげていく

今後の夢・目標・チャレンジしたいことなどをお聞かせください。

今、必死になっていたらそれでいいんです。やってみたいことは、よそとは違う「お誂え」をすることですね。京都のまちのものづくりの文化はもともとお誂えしかなかったんです。それをまたやっていきたいですね。

伝統産業を守っていく為に、どうあるべきだとお考えでしょうか。

守ろう といった瞬間にもう終わりですよ。次、どないしょ、次、何しよか、の連続でつながっていくもんや。今を必死にやってたら、振り返ったとき、自ずと続いているものやと思います。

では、京都でものづくりをすることについてはどうお考えでしょうか。

ここに生まれ育ち、ここで学んだもんを、戻していくつもりで全うしたいですね。

最後に、ご自身にとって「漆」を一言であらわすと何でしょうか。

停電したとき、真っ暗闇の中、ろうそくに火をつける為のマッチみたいなもの。

※石川光治さんは平成27年2月17日にお亡くなりになりました。
 このインタビューは平成24年3月に行われたもので、ご親族からご承諾を頂いて、
 引き続き掲載させていただいております。故人のご冥福を心よりお祈りいたします。