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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
◆◆◆「かさの文字」について ◆◆◆




”かさ”の文字について

(イ)笠と傘は同じ語源

 語源的には笠と傘は一緒のようで「かさ」は「翳す(かざす)」から来たとみられ
ている。頭部や身体を雨雪や日光から守るために覆い、影をつくる用具という意味で
ある。
 洋傘は英語でアンブレラ(umbrella)だが、そのumbraは「影・陰」のことだから・

A言葉の上からも語源的には同じである。
 「笠・傘」は共に雨を防ぎ、日光を遮るために用いるが、頭上に直接載せるものを
「かぶりがさ(笠)」といい、頭を離れて用いるようにしたものを「さしがさ(傘)
」と呼んだようである。



(ロ)さしがさ

 傘を大きくしたものに柄を付け、手でさし歩くようにしたものが「さしがさ」で、
文字では「さし(該当漢字なし)傘」が当てられる。「さし」(ケイ)は「ささげる
・あげる」の意で、傘が元は権威の象徴とされ、輩下の者が長柄を持って権力者の後
ろからさしかけたものであることがうかかわれる。



(ハ)きぬがさとおおがさ(蓋と ???(該当漢字なし。))

 「かさ」が文字として初めて使われているのは、日本書紀(養老4年・720年完成・

jにある欽明天皇13年(552年)冬10月、百済の聖明王が使者を遣わして「釈迦仏金像
一躯、幡蓋若干、経論若干巻」を献じたというものである。仏像等と共に蓋(きぬが
さ)が名を連ねている。
 しかし、考古学的にはこれより早い時代に蓋を用いていたことが立証されている。
 古墳時代前〜中期(4世紀末〜5世紀前半)とれる滋賀県・八ノ坪遺跡からは、平
成6年6月に蓋の木製立ち飾りが出土している。これは大和政権の大王墓とみられる奈
良市・田葉酢媛(タバスヒメ)陵から出土した蓋形埴輪と大きさや表面の模様などが
そっくりといわれる。平成12年4月には松阪市・宝塚1号墳(5世紀初めの前方後円墳・

jからも太刀や威杖と共に蓋をマストのように立てた船形埴輪、奈良県橿原市の四条
・
テ墳からも貴人が威儀を正す用具の一つである蓋を模した木製の笠形埴輪が出土、
例・
フ高松塚古墳の壁画にも蓋が描かれている。
 日本でも権力者の出現と共に力の象徴とし用いられた傘(蓋)は、大宝令(大宝元
年・701年制定)によって、位階により儀式用に用いられる蓋の色分けがなされるま・

ナに分化した。
 蓋(きぬがさ)は、読みの通り絹綾を張り、頂と四角に飾りを付け、縁に総飾りを
下げ、長い柄に吊り下げて用いられた。
 これに対して???(おおがさ)というのは、和名抄に「笠有柄」とあるように、
傘の中心を柄が貫いたもので、絹綾のほか菅、竹製などもあり、雨の日にも用いられ
た。やがて紙が張られるようになり、後世の長柄傘につながる。???おおがさをさ
しがさとも読む。


 (二)かさの類語

 辞書などには「傘」の字に「かさ・からかさ・さしがさ」などの読みを当てている
。また「蝙蝠傘」「洋傘」はあるが、「和傘」の項目はでていない辞書もあるようだ。
 傘の類語としては、先出の蓋・???(おおがさ)のほかには繖・???(漢字該
当なしーさん)(共にきぬがさの意)なども用いられた。
 なお、近年は晴雨兼用型の傘が重宝されているが、昔はこのタイプを「両天」とか
「照降」と呼んでいた。「てりふり屋」と号した傘小売店が近年までみられていた。


 (ホ)「傘」にまつわるアレコレ

 ◆紫羅傘―――さて、何と読むでしょうか?

答えは「いちはつ」。中国原産の多年草で、梅雨の頃、形がカキツバタに似た色とり
どりの花を開く。鳶尾草とも書く。


    紫羅傘に嶺の雷雨の打ちきたる      (水原秋桜子)


 ◆傘雨忌(さんうき)―――昭和38年5月6日に逝った久保田万太郎の忌日。劇作家
・小説家・俳人で暮雨、あるいは傘雨と号した。画家梅原竜三郎邸で赤貝を喉につま
れせて不慮の死をとげた。

  
    あじさゐの色には遠き傘雨の忌      (鈴木真砂女)



 ◆破れ傘―――こわれた傘にあらず。きく科の多年草。傘を半開きにしたような形
の深青色の若葉が伸びるに従い、破れた傘を広げたようにみえる。


   やぶれがさむらがり生ひぬ梅雨の月     (水原 秋桜子)  



 ◆傘の羽―――傘の柄を除いた上部。親骨に布または紙を張ってある部分。
 

 ◆傘(笠)の雪―――@傘の上に降り積もった雪で、重いもののたとえ。父母の恩
、傘の雪。
               
A鱧のすり身に松茸の薄切りを加え、茶碗に入れて蒸し、取り出したものに葛餡をか
けたもの。
              B其角(?)の句「わがものと思へば軽し笠の雪」か
ら、自分のもの。


 ◆傘一本―――僧侶が追放されること。破戒僧の追放には、傘一本だけ持つことを
許された。厳しい中にも一縷の救いを残していた?



 ◆傘の下―――広場や道端に大きな傘を立てて、その下に薄縁(うすべり)を敷い
て飲食させる店。上方で特に酒屋。


 ◆傘亭―――京都市東山区・高台寺の境内にある茶室。伏見城から移建されたもの
と伝えられ、宝形造りの屋根の内部は丸竹を用いた化粧屋根裏が傘をひろげたような
景観をみせている。
 

 ◆傘驚き―――少しのことにも驚くことをいう。馬が、目の前で傘を急に広げられ
て驚く様子から。






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