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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
かつて「三冠王」、いま「二冠王」




◇	世界に誇る三冠王


 日本人は江戸時代(のもっと昔)から、傘を生活の中に採り入れており、世界中
でも筆頭格の“傘好き”民族だと言われたりする。傘の携帯を不便視する向きも
少なくないが、それでも雨の日には、ほぼ百%の人は傘をさして歩いている。日
本人と傘との親密な関係性は、自然的条件(降水量・湿度など)や情緒的(文化・伝
統など)な背景と深くつながっており、一種のDNA的なものになっているのか
もしれない。

 今でこそ、供給量の9割強が輸入品という状態であるが、かつての一時期には、
生産・需要(消費)・輸出において「世界の三冠王」の位置を占めていたのである。
 毎日新聞の昭和41年9月2日版に『世界に無敵の三冠王』と題して、次のよ
うな記事が掲載されている。


 ―― 生産世界一、消費世界一、輸出世界一、と三冠王を誇っているのは日本
の洋がさ。日本の洋がさ生産量は昨年は約360万ダース(4,320万本)、ことしは
380万ダース(4,560万本)ぐらいにふえるとみられているが、2番目のアメリカ
は年間120万ダース(1,440万本)前後の生産しかない。日本の競争相手である西
ドイツ(当時)や香港は6,70万ダース(720〜840万本)どまり。

 ―― 一方、国内消費の方は日本がざっと、270万ダース(3,240万本)、アメリ
カが150,60万ダース(1,800〜1,920万本)という数字が出ている。雨が多いこと
もあるが日本人はどうも傘好きのようだ。

 ―― 昨年(昭和40)輸出量は85万7千ダース(1,028万4千本)とこれまでの最
高を記録した。ことしは…年間90万ダースを越えることはほぼ確実。

 ―― 輸出先では、全体の5割を占めるアメリカ向けも好調だが、とくに目立
つのはヨーロッパ向けの急増だ。…とくにドイツ、オランダ、英国向けがよく伸
びている。


 当時、輸出が好調な理由としては、品質の向上・高級品化と輸出先の国情に合
わせた新製品の開発が挙げられている。例えば、品質や高級化を材料でみると、
@丸骨から溝骨への転換、A生地は人絹や綿からナイロン・ポリエステル中心へ、
B塗装骨(ぬり骨)からメッキ仕上げ骨へ…といったぐあい。これにより、ダース
当たり単価が昭和36年に3,000円だったものが、40年には4,300円台に上がっ
た。



◇ 輸出国から輸入国へ変貌  生産・消費・輸出とも順調に増加傾向を示したが、好事魔多しとでも言うべき か、昭和46年にドルショック、48年には石油ショックに見舞われた。これを契 機に日本の洋傘周辺環境が様相を一変し、コストの急上昇からくる生産や輸出 (国際競争力)面への遍迫感が高まり、同時に韓国、台湾、香港などの製品に追い 上げられることになる。  そんな状況を昭和51年10月19日付の日本経済新聞が次のように報じている。  ―― 洋がさはこれまで日本の軽工業製品の中で最も国際競争力の強い商品と いわれてきたが、ここ数年、台湾、韓国の激しい追い上げで海外市場は奪われる 一方。  ―― これら二カ国の輸出攻勢を受けて、昨年ついに輸入量が輸出量を上回っ た。この傾向は今後も強まりそうだ。  ―― 洋がさの輸出は45年の約1600万本をピークい減少に転じ、50年には 約400万本とピーク時の4分の1に激減してしまった。  ―― 海外市場ばかりでなく国内市場も韓国、台湾の輸出攻勢にさらされてい る。日本製品よりはるかに低価格(一本当たり平均450円)であるため、国内の実 用品市場はこれら二カ国の製品が占めつつあり、輸入は急増の一途。50年の輸 入量は約470万本でついに輸出量を上回った。
◇ 国内消費(需要)は順調に増加  前述の毎日新聞記事で270万ダースだった国内消費(需要)量は、51年当時で 350万ダースとされているので、10年間で約30%の市場規模拡大があったこと になる。  ちなみに、政府の『家計調査報告』をみると、一家庭当たり年間平均洋傘購入 状況は、昭和41年で支出金額が638円、購入数は0.795本。これが51年では 金額が1167円、数量は0.955本となっている。金額は10年間で1.8倍、数量 で20%増と伸びたことになる。  かつて日本製洋傘の輸出攻勢がイギリスやドイツ、アメリカなどの国内洋傘産 業に大きな打撃を与えたが、立場が変わって今度は日本が輸入品に圧倒されると いう皮肉な巡り合わせになった。しかし、国内製傘業は激減状態に陥ったものの、 消費市場は健在であるといえる。生産・消費・輸出の三冠王の座は失ったが、輸 入量と需要量では断突の世界一であり、この点での「二冠王」は間違いのないと ころであろう。

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