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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
傘(洋傘・和傘)の物品税と公定価格(その1)




 戦前における我が国の洋傘生産量は、昭和11〜12年(1936〜37)の960万本(年間)
がピークである。この頃から日本は軍事色の政治が着々とすすめられるようになる。
即ち、12年には日支事件(盧溝橋事件)が発生、軍需工業動員法が発令されて戦時
経済体制となり、翌13年には、国家総動員法が施行されるに至る。

この昭和13年(1938)は、洋傘の歴史にとっても、運命的な年であった。この年から、
洋傘(和傘も)に物品税が課せられることになり、また価格面では「公定価格」の枠
がはめられることになった。



 (イ)傘に関する物品税

 昭和13年3月の『支那事変特別税法』の施行により、小売段階での10%課税が実施
され、15年には、『物品税法』へ同じ税率が引き継がれ、16年に20%、18年に30%、
19年には40%に順次引き上げられた。

 この物品税法は戦後の24年まで継続され、21年からは製造への課税となり40%
(洋傘については40円の免税点)、22年〜24年は30%(洋傘の免税点は22年に110円、
23年に590円、24年に1200円を設定)となり、24年12月の同法改正で税率0%、
25年1月1日付で物品税撤廃となった。(ゴルフ用具、楽器、レコードには、昭和19年
に製造段階で120%の税率が課せられている)。



 (ロ)公定価格


 値札に「マル内に公の文字」 「公」(実際には公を○で囲む)を表示することか
ら「マルコー」価格といわれた。昭和12年の『輸出入品等ニ関スル臨時措置ニ関スル
法律』第二条の規制に基づき、翌13年7月9日に『物品販売価格取締規則』が制定され
た。この規制の骨子は、商工大臣が指定した物品は、その指定の日の販売価格を越え
て販売してはならない。(年月日指定)というものである。


 傘(洋傘・和傘)は、同年10月21日に指定品目とされ、同10月29日の第14回中央物
価委員会(物価騰貴対策のために設けられた商工大臣の諮問委員会。この下部組織と
して各業界代表を入れた専門委員会が置かれた)により、『傘ノ価格騰貴抑制応急対
策』が答申された。

 同答申では、「洋傘、和傘・・・・・モ家庭生活上必要ニシテ、其ノ価格ノ低減と
安定ヲ図ルコトハ極メテ必要ナルヲ以テ此ノ際、別紙ノ通、最高販売価格ヲ定ムルヲ
緊切ト認ム・・・・・」と述べ、『別紙』では洋傘が11の分類、和傘を3分類として
各卸売(洋傘は12本、和傘は10本単位)、小売(共に1本)の価格を定めている。



 ≪洋 傘≫  価格統制に伴い、商工省の物価原局である商務局で『公定価格設定商品解説』なる パンフを作成、その第二報が「傘」であった。おそらく取締る側の判断資料に供する ためのものだったと思われる。 11に分類された洋傘の小売価格は、1本2円50銭〜 3円65銭の範囲でランク付けられた。  分類(1)の洋傘は、3円40銭。その仕様内容を『商品解説』でみると、「傘ノ生 地ハ綿朱子五千番デ張ッテアリ、柄(中棒)ハ鉄デ出来テイル、親骨、長サハ68糎 (センチ)アリ、受骨ノ数ハ7本デ、品質ハ上等品、柄ヲ持ツ握リ(手元)ハ、セ ルロイドノ上等品を使用シテイル」とあり、但し書に「東京製品ハ大阪製品ニ比シテ 優秀品」としている。同じ仕様の8間骨(2)は3円65銭である。  綿朱子雨傘の三分の一を占めるほど需要が多い分類(3)は2円90銭で、(1)との 違いは、生地の綿朱子が「藻苅」、手元にセルロイドの並物を使っていること。  分類(11)は婦人用の「交織晴雨雨傘」で3円30銭、その仕様は「生地ハ人絹本絹 交織無地織デ張ッテアリ、柄ハ樫ノ木ヲ使ッテアル、親骨ノ長サハ47糎アリ、受骨ノ 数ハ12本デ、品質ニ親骨ト同一デアル、握リハセルロイドノ上等品ヲ加工シヌルモノ デアル、傘ヲ入レル袋ノ生地ハ、傘ノ生地ト同一品デアル。」 ※当時、代表的な傘用綿生地のブランドとして、良品質の順に「藤娘」「五千番」 「藻苅」「玉島」があった。
  ≪和 傘≫  次の三つの分類がなされた。 (1)静岡赤番傘(一等品)付属付き・・・・・小売63銭   商品解説「竹ハ男竹ニシテ骨組ハ54本、頭ノロクロ太さ2寸、骨ノ長サ1尺9寸、 紙ハ白ノ純生紙、渋ト蕨(ワラビ)糊ニテ張上ゲ、油ハ正荏ノ油(純粋ノ荏ノ油) ヲ塗リ、柿渋ニテ仕上ゲ、仕上ニ当リ、紅粉ヲ入レル為赤番傘ト称ス。頭紙ヲ付属 ト云ウ」。産地は静岡市付近。 (2)紀州番傘 付属付き・・・・・小売75銭    上記(1)の解説内容と違う点は、「骨数ハ52本、ロクロノ太サ2寸2分、 骨ノ長サ1尺8寸」。産地は和歌山県間海付近。 (3)岐阜蛇ノ目、棒糸太54 付属付(1等品)・・・・・小売93銭   商品解説「竹ハ男竹ニテ、骨数ハ54本、頭ノロクロノ太サ1寸4分、骨ノ長サ 2尺余、紙ハ半生紙(通常、鼠(ネズミ)森下ト云ウ)ヲ染上ゲ、渋ト蕨糊ニテ張 リ上ゲ、油ハ正荏ノ油ヲ塗リ、漆(ウルシ)ニテ仕上グ、柄竹ノセル巻及金具ヲ付 属ト云ウ。蛇ノ目ノ中、一番太キヲ以テ太五四ト云ウ」。 産地は岐阜県加納町付近。  以上は東京における価格とされ、地歩hの場合は品質や取引の事情に応じて、これ に準じることとされた。  東京府は、この答申どおり、昭和13年11月1日、東京府告示第751号をもって洋傘・ 和傘の公定価格を告示した。恐らくこれが身回品における最初の公定価格であった。 しかし、こうした細かい分類では、煩雑になり、市場における当該品(素材・構造等) の判定が実効を期し難いため、昭和15年から洋傘については「男物」「女物」、 和傘は「蛇ノ目傘」「番傘」「日傘」という項目で公定価格が設定されるように変更 されている。また、公定価格の欠陥を補完する意味から、昭和15年に洋傘では 「1本25円」の限界価格が示されている。  (昭和15年以降の公定価格推移に関しては次回にもとめる予定)。

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