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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
◆◆◆パラソル断章(其のニ)◆◆◆





傘は一般的に雨傘と日傘(パラソル)に分けられており、両者の中間に晴雨兼用傘が
ある。
 ヨーロッパで発達した傘だが、雨用を日傘用と分けて認識されるようになったのは
、1800年前後頃からのようである。それまではアンブレラとパラソルとが、しばしば
混同されていた(パラソルはサンシェード【sunshade】ともいわれていた)。
 両者が区別されるようになると、パラソルは急激にファッション的な付加価値を高
め、19世紀モードの中で全盛期を迎えて花開いた。
 その時代に考案・創作されたパラソルの要素は現在にも引き継がれているが、未だ
参考になるものも残されているのではないか・・・・・。

そんな訳で、19世紀ヨーロッパで流行したパラソルの一面を寸見してみると―――


<19世紀ヨーロッパのパラソルファッション>


《19世紀前半》


 イギリスのファッションは、パリのモードに影響され、1820年代に優雅なパラソル
が作られている。
それらの中のあるモデルを挙げると―――布地はインド木綿が美しく刺繍され、縁は
4インチ程の幅の広いメクリンレース仕上げで、房飾りの代りに羽が縫い付けられて
あり、水色と白の線入り。
中棒は磨いた鋼鉄製で太い部分は美しい細工が施され、手元はアカンサス(葉アザミ
)の葉の形をした―――もの。
 パラソルは、頭上に差して使うだけでなく、持ち歩くこと自体が流行となり、象牙
手元の先を輪(リング)状にして、手にぶら下げるようにしたのも出ている。
 また、30年代の代表例としては―――布地は染色をしたチリメンまたはダマスク織
りサテン(繻子)、市松模様の絹、格子や縞柄、その他の模様があり、飾り物では、
ブロンドレース、または紐類、刺繍、ガラス製の小さい飾り物、羽飾り、金か銀のレ
ース、絹トリミング―――。
 1835年―――イタリア語で「オンブレッリーノ・プリゼ」と呼ばれる斬新な折り曲
げ式日傘が登場。バネ仕掛けにより、中棒の真ん中辺で折り曲げ、太陽の方向に合わ
せることができるもので、これも手元に輪があって手首にぶら下げることができた。
日本では、これと同じスタイルのものが「野球見物用日傘」として昭和7年(1932)に
売り出されている。

 1842年―――パリの傘職人ヴェルディエが、最新モードの「ドゥエリエール」を考
案。ステッキとパラソルを合体したもので、婦人が訪問する時に欠かせないものとみ
られた。

 ※一時期、婦人がパラソルとステッキの両方を携行するのが流行したといわれる。

 1844年―――ウィルソン・サングスターが「小さな空気の精(優美な少女)」とい
うパラソルを開発して特許と取得。これは手元先端にバネ仕掛けがあり、開いて持っ
たまま閉じることができる。中棒は金属で親骨が鯨骨、手元は象牙で彫刻が施され、
布地はタフタでフランス流行のレースがあり、房飾り付き。

 1940年代―――イタリア語で「プリゼ」あるいは「マルケーズ」(フランス語でマ
ルキーズ)といわれるパラソルが人気。これは中棒が折りたためるもので、丸屋根(
ドーム)風の小型。総レースや羽づくしの優雅さ、骨を隠すため内側にも布が張られ
た。






《19世紀後半》


 世紀末の10年間、特にイタリアでは一層鮮やかで多彩(赤、緑、格子縞、玉虫色・
・・など)なパラソルが登場。当時の有名な舞踊家の名前をとって「ロイ・フラー」
と呼ばれた。
 また、健康上から野外で過ごすことが勧められたのに伴って、肌の白さを保つ上か
らもパラソルが重用されるに至った。
 更に、ナポレオン三世(在位1852〜70)の妻であるユージェニー女帝がパラソルを
採用し、ファッション界をリードする象徴となった。


 優雅なアクセサリー登場―――閉じた時の布地をまとめるための輪(リング)が考
案された。
金や銀製、また宝石で飾ったり、「光の中に影」「保護するも隠さず」「光を待つ」
」「二人だけの」「太陽と愛だけ」・・・・・等々の言葉を彫りこんだりした。
 手元の象牙、亀甲、珍しい木(アモレット、ベルニーチェ・・・)など高価な素材
が使われ、握り部分は金、また、上記のような言葉や所有者のイニシャルが刻まれた
りした。
 広げた時に大きな花冠のように見えるスタイルも出現している。

 1870年代―――パゴダ型が一時人気になる。
その後、象牙や黒檀の長い手元を付けた絹・木綿混紡布地の小型パラソル、更にドー
ム型も出現、陶磁器の手元を取り付けた。
 
 1881年―――パリの由名な女優サラ・ベルナールが舞台で竹と紙のパラソルを使っ
て評判をとり、10年間ほど大いに流行。

 1896年―――カラフルな雨天兼用のパラソル「アン・トゥ・カ」が出て、愛用され
た。日本で晴雨兼用傘が市販されたのは昭和7年(1932)とされ、10〜20円という高値
をつけた。
 なお、手元(ハンドル)部分は初め、蛇、禿鷹、獅子頭など恐ろしげな動物の飾り
が多かったが、次第に優雅なものになった。1880年代頃から動物や昆虫が彫刻される
ようになり、1895年にはイギリス趣味のパラソルにアヒルのような水鳥の頭部が付け
られた。










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