総延長1キロにも及ぶ名物商店街で半世紀も続く「住民想い」の洋傘店
『むらた洋傘店』
東急目黒線武蔵小山駅から1歩足を踏み出すと、否が応にも巨大なアーケードが目に入る。駅前から二股に分かれ延々と連なる武蔵小山商店街だ。昭和31年、"日本最長アーケード"として鳴り物入りでデビュー。現在の総延長は、当時の二倍に相当する約1キロにも達し、入口からはるか彼方の出口を確認することはできない。
街の名物ともなっているアーケードの入口近くに店を構えるのが むら田洋傘店(品川区小山3-25-4 Tel: 03-3781-59941)。
間口は狭いが奥行きがあり、店頭にはしっかりと"UMBRELLA"の文字が踊っている。創業は昭和27年頃。この辺りが戦後の焼け野原から再興したときに、むら田も店を開き、現在まで続いている。
訪れる客に対応するのは、主にむら田創業者の奥さん村田テルさん。30年前、ご主人を亡くされてから、細腕一本で切り盛りしてきた。昨年から息子の安聡さんに店主の座を譲ったが、80歳を越えた今も店先に立つ。客層は近所の住民。年配、高齢の方も多く、テルさんだと実に話しやすそうだ。決して冗談を言ったり、気さくに接したりするわけでないが、一人ひとり丁寧に接客する姿には心配りが感じられる。買い物ついでや散歩がてらに店をのぞく住民が多いのもうなずける。
街の住民のあらゆるニーズに応えるため、、キッズ、レディース、メンズと幅広く商品を揃え、低価格のものから1万5000円クラスまで、店内の傘の本数は実に700本に及ぶ。
「孫の手を引いてお婆さんが来店し、自分の傘と孫の傘を買っていくこともある」と安聡さん。そうした生活シーンも考慮に入れた「住民想い」の商売こそが地元密着型の強み。
元々商店街にはむら田も含め3店の洋傘店が店を開いていたが、他の2店は看板を下ろし、洋服店に衣更えした。安聡さんは傘屋の火を絶やさないため、メーカーの展示会には、欠かさず足を運び流行の商品を仕入れ、販売増のための売り方を日々模索する。「10年経つと店が変わる」といわれる武蔵小山商店街で半世紀にわたり看板を守り続けた街の傘屋さん。地元民への心遣いと研究熱心さが失われない限り、"UMBRELLA"の文字が消えることはないだろう。
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