家具の輸入を始めて35年。 

ものが溢れているのに、欲しいものが見つからない時代に、当店は、なにを求めて、提供していくべきか。

そのヒントを与えてくれたのは、日本とドイツの二人の職人。超一流の職人との出会いでした。




インテリアショップ「快適空間」の会社は、1934(昭和9)年に創業の呉服問屋です。いまでも呉服部門がありますヨ。
スタッフはみんな着物が好きですし、西陣の織物や京友禅、十日町の着物に触れ、また、染み抜きや丸洗いといったメンテナンス、他の人が受け継ぐ為の
仕立て直しや紋替えといった依頼があることも、見て覚えてきました。

家具の世界はどうでしょうか。

中国の工業化で、安いものが大量流入しています。将来、粗大ゴミになる運命のものも多くあります。
輸入業者が、国内にゴミを持ち込む業者になってはいけません。これを心に留めて、商品を選んできました。

海外の展示会に行って、安いものがあるとして、コストダウンは何によって可能になったのだろう?と考えます。
生産性が向上した?、材料の削減?(安全性は?)、質の低下?(安かろう悪かろうは、もう必要とされていない)。

ちなみに価格について、輸入家具には、一部の高級ブランドを除けば、海外メーカーが指定する「メーカー希望価格」というものはありません。
輸出メーカーは、引渡場所、海上運賃や保険等の条件に基づいた販売価格(ドルあるいはユーロ建て)を、買い手に提示するのみです。

新しい技術や素材が開発され、デザインが洗練され、玉石混合の市場。


原点回帰。
最上級の作り方はどういうものなのかを知れば、目の前の品物が、コストと品質のバランスがとれた商品であるかどうかが判断だろう、
私たち若手(社内では!)は、まず、それを学ぼう、体験しようと考えました。

そして、もう多くの人が必要な物を持っている今、何が受け入れられるのか、ずっと考えてきました。


抽象的には、”人の心に呼びかける、感性と品質と機能(使うものですから)を持った家具”なのですが..。それにはどんな要素が求められる?

それを探す旅が、始まったのでした。


ミュンヘンの室内装飾マイスター、ラーベンザイフナーさん一家


出会いは2006年の1月でした。
毎年1月にドイツ・ケルン市で開催される「immケルン、ケルン国際家具展」に行く前に、ヨーロッパの家具作りが見たいという私(店長)の希望が叶い、
ミュンヘン市内にあるマイスター、ラーベンザイフナーさんの工房を訪ねることができました。

室内装飾マイスターは、家具製作、椅子張り、壁張り、床張りほか、室内装飾全般に関する技能をもちます。
ラーベンザイフナーさんは、ミュンヘンおよびオーバー・バイエルンのマイスター試験の試験委員を務めるなど、マイスターの中のマイスターといえる方です。

椅子づくり・家具づくり


彼らは、私の為だけに、その椅子張り作業の一部を、実際の材料を使って、見せてくれたのです。”これがドイツのHandwerk(手工業)ですよ”と。
写真は、その一部です。「鋲打ち」「そく土手」「生地張り」。すべて手作業です。とてもすばやい手の動きで、かつ、正確に作っていきます。

余談ですが、紫色の生地は、ちょうど張替え作業中のソファーに使われていたものなんです。この張替えで「また15年使えるソファー」に生まれ変わりました。


写真は、2007年のミュンヘン・ビール祭りのパレードに参加したマイスター・ラーベンザイフナー。左が奥さんのゲルダさん。右が弟子のベロニカさん。
ベロニカさんは、今年、3年の徒弟を経て、職人(マイスター:親方のひとつ前の段階)に昇格する試験を受け、最優秀で通過しました。
左側、ピンクの椅子を運んでいるのが、長女の、マイスター・ジルビア。彼女の作品です。彼女は、モダンな作品も得意で、コンクール優勝の経歴を持ちます。


「直して長く使うということ。ときには、時代の新しい感覚も付け加えながら。」
「そうすることで、家族の歴史も引き継げるということ。自分がいなくなった後も」
「そのためには、本物の技能が必要」


もっと知りたい、知らねば!!



帰国してから、日本で教わる場所がないか、探しました。そして、幸運にも、見つけることが出来ました。
東京の練馬区に、椅子教室を開いている一級技能士の工房があったのです。



一級技能士 上柳博美先生
ページ内から楽天の外にある上柳製作所のhpにリンクを貼ることが認められていません。上柳製作所あるいはISUHAUSEで検索して下さい。

「200年住宅」という構想が出ています。一般に30年といわれている日本の住宅の寿命を、200年にまで伸ばそうというものです。

建物が200年持つならば、中に置く家具も、何世代も引き継がれるものが相応しいのでは..。

しかし、最初にそのような家具を作ることが出来る人が、本当に少なくなっていたのでした。およそ宮内庁関係を除いては、注文が少ないからです。
その技能を持つ上柳先生(「ロココに取り付かれた男」)が、本物の椅子を作りたいと思う人たちに椅子教室という形で門戸を開いていることは、
大変に有り難いことでした。ミュンヘンで何年も滞在して、修行できないのですから。

ここでは、技能のみならず、多くを教わりました(まだ教わり足りないのですが。)
そして、幸せを感じた家具作りでした(理由は後ほど)。



本場フランスでも見ることができないという、本格的な、ソク土手作りの椅子です。材料はフランスやドイツからの輸入品。ここで使った椰子の繊維や馬の毛は、張り地を替える時でも、再利用できるのです。
麻テープを張り、バネを乗せて結び付け(バランスがとても難しい)、麻布を置いて留め(ゆがんではならない)、曲がり針を使って下のバネと結び、、椰子の繊維を載せ(結構たくさん要る)、麻布を被せて留め、糸で縫って「ソク土手」を作り(これがしてある椅子は、滅多に無い。ラーベンザイフナーさんの工房で見せて戴いてから、どうしても学びたかったのです)、馬の毛を乗せ、下布を置いて留め、最高級の真綿を乗せて、生地をはり(たるまない様に引っ張りながら)、最後に鋲を一つずつ打つ。釘はおよそ3000本うちます。だから木が硬くて丈夫なものでないと、フレームがもたず、この作り方は出来ないのです。
塗装から始めて、座も背も「ソク土手」で仕上げ、鋲打ちまで計14日間掛かりました。座り心地は、最高です(貴族や皇族の気分..)。
お近くにお越しの際は(名古屋)、座りにお立ち寄りください。
ミュンヘンのラーベンザイフナーさんにもメールしなくては!

「幸せを感じる家具とは..」

こうして完成したのが、この椅子です。

テーマをつけるなら、「残したい価値。歴史への敬意と感謝」

今の時代に生まれた店長とスタッフは、呉服商としての歴史と、輸入家具商としての歴史の2つの流れを、自分たちでひとつに表したいと思いました。。

それぞれを象徴するものとして、

伝統の技である京都・西陣の帯地(正絹丸帯)を、椅子張りの最上級の技能である「そく土手」で作る椅子に用いたのです。


歴史は、家族の歴史にも当てはまります。
もし、おばあさんの帯を、こういう形でも、家族の中で引き継いでいけたら、どうでしょう。
仮に息子ばかりで、女物の着物を着る人がいなくても、インテリアとして甦らせることが出来たら、どうでしょうか。
これは私たちが手がけるべき仕事だと思うのです。


でも、そう簡単にいくことなら、他が既に始めてますよね。
これからは家具の勉強のほかに、呉服や西洋、東洋の歴史も再勉強しなければなりません。幸い、教えてくれる先達がいます。
スタッフの旅は、まだ続きます。