【M a t i e r e  P r e m i e r e】
   私は今、他の誰もが到達することの出来ない味わいの領域にただ一人います。
   フランス、スペインでの真のおいしさをもった素材探しは、
   烈烈たる執念を持ってフランス的な味わいを追い求め続けてきた
   私のパティスィエとしての必然の流れから生まれ出たものであり、それはまた、
   私のパティスィエとしての人生の歴史の中のとても大事な流れの一つでした。
   これらの秀逸な素材は私に味わいへの更なるインスピレーションを与え続けたのです。
   本編は私の味わいと人生の歩みを記した叙事詩であり、一つの小さな言葉までもが、
   全て私の筆によるものです。            イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ 弓田亨
 

1.【神様が力を与えて作らせた
  ルゴルさんのオ・ドゥ・ヴィとジョアネさんのリキュール】

【オ・ドゥ・ヴィやリキュールを加えることの意味】
 折に触れて、日本で生産される素材は味わいも薄く、また不自然な味わいのものが少なくないことを
 述べてきました。どうしても日本で手に入る素材では、主題となる素材の印象を弱めるように働いてしまいます。
 例えばフランボワーズのムースを作る場合です。日本の卵は味わいが希薄であると同時に、飼料に加えられている
 鰯の魚粉の匂いが、フランボワーズの味わいや香りを弱い、濁ったものにしてしまいます。また、日本の生クリームには
 素材の特性を助ける、カラッとした温かい味わいがないので、フランボワーズの果汁と混ぜるとやはりかなり印象が消されて
 しまいます。そこで、主にフルーツの味わいそのものが生きているリキュールは味わいのために、一方オ・ドゥ・ヴィは香りを
 印象的にするために加えて、全体のフランボワーズのイメージを高めてやらないと食べる人の心を動かすおいしさは
 作り出せません。フランスから比べれば、はるかに素材の品質がよくないこの日本では、よいフランボワーズのピューレ
 とともに、秀逸なリキュール、オ・ドゥ・ヴィが必要なのです。ルゴルさんのオ・ドゥ・ヴィ、ジョアネさんのリキュールは、
 秀逸の極みであり、私のお菓子作りには、この二つの素材を欠くことは出来ません。

【フランス・アルザス地方のルゴルさんのオ・ドゥ・ヴィ】
 オ・ドゥ・ヴィ(フルーツブランデー)は、糖分と旨味を十分に含んだフルーツをアルコール発酵させ、これを蒸留して
 ステンレスのタンクで熟成させたものです。オ・ドゥ・ヴィの命は、その香りの豊かさ、表情、後を引く長い香りが
 すべてです。私どもでは製菓用としては最良かつ値段も手ごろな3年ものを仕入れています。アルザス地方は
 さくらんぼやすももなどをはじめとしたさまざまの本当においしい、深い味わいのフルーツが生産されています。
 仕込みはそれぞれのフルーツの収穫時に行われます。もちろん、このオ・ドゥ・ヴィもフルーツの出来具合が味わいの
 豊かさにかかっています。ルゴルさんのフルーツを選ぶ目は厳しく、少しの妥協も許しません。例えばキルシュの
 仕込みでは、トラックで運ばれてきた大量のさくらんぼを長さ5m、直径3mほどの発酵槽にポンプで吸い上げます。
 ホースを通る時に自動的にさくらんぼは砕かれます。あとの発酵は、ルゴルさんの目と鼻、まさに熟練の感覚で管理
 されていきます。毎日発酵槽の上の50cmほどの穴から長い棒でかき混ぜ、酸素を入れ、自分の目と鼻で最良の状態に
 発酵を導きます。その品質はキルシュ、ミラベル(フランス産辛口ブランデー)などを頂点とし、国際品評会で毎年のように
 金賞、銀賞の高い評価を得ています。それは人の手だけで作られたとは到底思えない、神の手を借りた恵みの味です。
 口に含み、軽く口を動かし、喉へゆっくりと送ります。そしてゆっくりと鼻孔へ息を流します。香りが、艶やかに、きらきらと
 ゆらめきながら、決して途切れることなく頭を突き抜けます。私はいつも思います。「まさにこれは神様の息吹なのだ」と。
 こんな素晴らしすぎる素材で、この日本でお菓子を作ることの、自分の人生の運の良さを感じてしまいます。
 凄すぎるオ・ドゥ・ヴィ、これ以外に言葉はありません。
 皆様もよく知っておられるルレ・デセールの会員の多くも、ルゴルさんのオ・ドゥ・ヴィを使っています。しかし日本の
 ほとんどのパティスィエは、このルゴルさんのリズム感のある繊細でありながら力強い香りの広がりを過度に
 アグレッシブなものとしか感じられないのです。これは悲しいことです。私は誰よりも旨いお菓子を作れる自信があります。
 でもこれらのオ・ドゥ・ヴィやリキュールがなければ菓子作りはより難しく、技術は複雑になってしまいます。

【ブルゴーニュ地方コートゥ・ドール(黄金の丘)私のリキュールの
 イメージを根底から変えたジョアネさんのリキュール】

 リキュールはぶどう酒を蒸留して得た90度のアルコールにフルーツを2〜 3ヶ月漬け込んでから軽く撹拌し、
 カシスなどは皮を漉して砂糖を加え、瓶に詰めたものです。これは、そのままあるいはその産地の発泡酒であるクレマンや
 白ワインで割って食前酒として飲まれます。リキュールの良し悪しは、まさに果物次第なのです。
 フランス、ブルゴーニュ地方のジョアネさんの畑には、今でも大小の化石が簡単に見つかります。たまに降る雨が
 この化石を微量ずつ溶かし、畑の土に豊かなミネラルを補給し続けているために、信じられぬほどの深い力に満ちた
 味わいのカシスやフランボワーズが収穫されるのです。そして、このカシスとフランボワーズの香りには、この化石がもつ
 共通の懐かしさに満ちた蒼くさい匂いがあります。そして、少量を正に手作りで作っています。多くのフランス人でさえ、
 この秀逸なリキュールの存在を知りません。正にブルゴーニュ地方でも知る人ぞ知る、筆舌に尽くしがたい味わいを
 もったリキュールなのです。一口、口にふくめば、豊穣の極み、コート・ドールの地にふっと降り立ったような、
 静かで新鮮な覚醒、蒼い想いにふるえるのです。何故か、私の命の源に辿りついたような懐かしく優しいおいしさなのです。
 日本に輸入されている大量生産の、混ぜ物の多い他のリキュールとは一緒にしないでください。比べてみれば、
 誰もが分かる歴然とした味わいの差があります。こんなに素晴らしいカシスやフランボワーズ、そしてそれらから
 作られるリキュールは、決して人の手だけで出来たものではありません。
 ルゴルさんのオ・ドゥ・ヴィ同様、神様の力を借りなければ出来ないと私に思わせてしまいます。
 ブルゴーニュの農民は純朴です。昔ながらの作り方で、今も寸分の違いもなく作り続けられています。
 ジョアネさんのリキュールは、そのまま飲んでもとにかく旨すぎる。私にとってはまさに夢見心地です。
 これらのリキュールを使えば、お菓子は艶やかな、深いおいしさを作りだしてくれます。
 食前酒として、よく冷やして少量をそのまま飲んでもとにかくおいしい。軽めのブルゴーニュの白ワインや発泡酒で割って
 飲めばもう食事の初めから夢見心地に包まれます。一杯のリキュールがこんなにも楽しいディナーを作りだしてくれる。
 信じられません。一杯の食前酒、心は軽くあのコートゥ・ドールの丘の上に舞い上がります。


 2.【豊穣の極み。私の感覚を圧倒するレリダのアーモンド】

【スペインで学んだ、豊かなミネラルを含む大地の恵み】
 私の素材探しは、まずフランスから始まりました。もちろんフランスの地は豊かで、それぞれの土地に心と身体を
 包み込むおいしさを讃えたさまざまの産物があります。しかしアーモンドを得るために初めてスペインのカタルーニャ地方、
 内陸の地レリダを訪れた時は衝撃でした。すべての食べ物に圧倒され続けました。ただ、とてもおいしいのではありません。
 熱を持った力に溢れたおいしさなのです。新鮮なオレンジ、エスカルゴ、ワイン、スペイン版プリンともいうべきクレーム・カタラン。
 口に運ぶにつれ、自己のあらゆる感覚が力に揺さぶられるようなおいしさでした。
 クレーム・カタランなどは、世の中にこんなにおいしいものがあるんだなぁと、それを食べている自分に、言いようのない
 幸せな気持ちを持ったことを覚えています。スペインの全ての土が今も豊かなミネラルを含んでいる。
 これが初めてのスペインの旅の印象でした。そして陸から下る豊かな栄養素を含んだ雨水は海を潤すのです。
 海は陸によって生かされています。“陸は海のかけがえのない母なのだ”ということを学んだ旅でもありました。

 そのスペインの土地の中でもカタルーニャの内陸の地レリダには、さらに豊かなミネラルが含まれていたのです。 
 現在スペインには100種類以上のアーモンド種が栽培されていますが、なかでも品質の高いアーモンドとして知られる
 マルコナ種、ラリゲータ種、バレンシア種などが日本に輸入され、製菓業界で幅広く使用されています。
 例えばマルコナ種をはじめ、どの品種においても栽培される地域や土壌によって、品質や風味の良し悪しは変わってきます。
 年間の降雨量が多い海側の地域やマヨルカ島や海寄りのバルセロナ、アリカンテなどは地中のミネラルが雨水によって
 常に流され続けており、土中のミネラルは希薄になって、十分なミネラルを摂り入れることが出来ず、アーモンドの味わいも
 弱くなります。その一方、レリダではもともと土中に豊かなミネラルを含み、雨もたまにしか降らず、ミネラルも流されることなく
 温存されているのです。アーモンドやオリーブの木は水分を求めて地中深く根を張り、より豊かなミネラルを吸い上げ、
 スペインの中でも最上の味わいを作り上げます。同じスペインでも、雨の多い海寄りの地域で収穫されたものに関しては、
 アーモンドの実そのものに栄養分が蓄積出来ず、味わいが一段乏しいものになります。

【私の執念が実らせた、スペイン産アーモンドの輸入】
 今では普通に輸入されているスペイン産アーモンドですが、今から20年近く前まではスペイン産のアーモンドは
 青酸が大量に含まれているという根拠のない理由によって輸入が認められていませんでした。スペイン産の本当に旨い
 アーモンドをどんなことがあっても使いたいという執念のもとに、その輸入を初めて可能にしたのは、紛れもなく私です。
 今から10数年前、スペイン各地からアーモンドのサンプルを取り寄せ、5ヶ月間ほどローストして食べたり、ダックワーズや
 ビスキュイ・アマンドゥを何度も焼くなどして、アーモンドの味わいを比べました。すべてにおいてマルコナ種アーモンドが、
 群を抜く、深い印象的な味わいを示してくれました。雨が少なく土により豊かなミネラルが温存されている内陸の地の
 カタルーニャ地方レリダのアーモンドが一番旨いことは当然だったのです。そしてこのアーモンドを取り寄せることにしました。
 これは後ほど分かったことですが、こんなに味わい豊かなスペイン産のアーモンドをぜひ日本で使ってみたいと私に
 思い込ませたドゥニさんの「パティスリー・ミエ」で使っていたアーモンドも、偶然ではありますが、同じ会社のものだった
 のです。私の選択は正しかったと確信することが出来ました。フィナンスィエ、ビスキュイ、ブラン・マンジェ、その他
 さまざまのアーモンドを使ったお菓子のおいしさが、今までとはまったく変わり、さらに、おいしくなりました。

【マルコナ種アーモンドの魅力は
他の素材の味わいをも引き立てる統合力】

 スペイン産のマルコナ種はビター香は少なく、しかし他の全ての味わいの要素を備えた、豊穣極まりない、
 私が世界で一番おいしいと思うアーモンドです。とにかくこのアーモンドを加えると全てのビスキュイ、ジェノワーズ、
 ダックワーズ、マカロンの味わいが温かく、力を持った存在に変わります。このアーモンドの柔らかな統合力が、
 他の素材の味わいをも引き立ててくれます。ここが凄い。細かい神経質な技術はいりません。とにかく今のアーモンドから、
 このスペイン産マルコナ種のアーモンドに変えてみてください。全てのものが朗らかな味わいに大変身してしまいます。

【日本の味わいの濁った素材に少しも埋れないよう、
アーモンドパウダーも独自にブレンド】

 アーモンドパウダーは、マルコナ種のアーモンドの豊かさに個性的な味わいを与えるため、ラリゲータ種とバレンシア種を
 独自のブレンドで配合しています。これにより、日本の味わいが濁った素材と合わさっても少しも埋もれず、さらに
 豊かさと力強さを加えてくれます。クレーム・ダマンドゥ(アーモンドクリーム)、ビスキュイ、マカロンなどがとにかくとても
 旨くなってしまいました。色素を使わず一つ一つ生地の味わいを変えて作り上げたイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの
 オリジナル本道の30種のマカロンにしてもこのアーモンドパウダーがあればこそできた一品です。
 そして私の人生の誇りである、食べる人の心をあまりの豊穣さで圧倒する「ガトー・バスク」もこのアーモンドパウダーが
 あって可能になりました。私の舌と五感にしっくりと温かく、ゆるぎなく語りかける。それがこのアーモンドパウダーです。
 通常、粗挽きと細挽きがあり、人によっては口に入れても粒をほとんど感じない細挽きを希望される方がおられますが、
 私は粗挽きしか使いません。
 少しの粒々で歯ざわりも楽しく、味わいもそれぞれが混ざりすぎず、立体感のある味わいに仕上がります。

 3.【日本のパティスィエはチョコレートの味なんか分からない】

【何故フランスで食べるチョコレートはおいしいのに、
日本ではおいしくないのか?】

 パティスリーを開店してから、次第にチョコレートを使ったお菓子の数も増え、輸入されるものの中で自分なりに
 おいしい!と思えるチョコレートを使っているつもりでした。しかし店に余裕が出来始め、再びフランスへ行くようになった時、
 フランスで食べるチョコレートのお菓子は味わいが鮮明で個性的な力にあふれ、とても深い香りと味わいがありました。
 改めて同じメーカーであっても、日本に輸出されているものはそのほとんどが日本向けの手抜きの劣悪な品質であることに
 気付き、何とかフランスで供給されているものと同じ品質のチョコレートを日本にもたらすことが出来ないだろうか、と考えました。
 ある時、ドゥニさんが「パリ近郊に小さいが個性的なショコラトゥリーがある」と教えてくれました。そして社長のドゥルシェ氏と会い、
 チョコレートをはじめ、いくつかのプラリネ、ココアなどを味見しました。特にプラリネ類のおいしさは驚くべきものでした。
 しかし実際にお菓子に使ってみないことには、その個性、味わいの機微は分かりません。恥ずかしいことですが実は私は
 未だこの時、チョコレートの味わいを十分には理解していませんでした。確かに当時は他に輸入されているものよりは
 うまいようだ。そんな程度の理解しかありませんでした。
 私はドゥルシェ氏に「このチョコレートと同じ品質のものを、間違いなく私たちにも届けられますか?」と聞きました。
 彼はこう答えました。「私は自分の作るチョコレートに誇りをもっている。自分の手で、自分が作るチョコレートの品質を落とすこと
 など、どんなことがあっても出来ないし、あり得ない」その言葉に私は安心を覚えました。
 ペック社のチョコレートが私の店に届き始めました。半月ほど毎日、チョコレートを他のメーカーのものと比較しながら
 食べ続けました。そして少しずつ、味わいの微妙な表情が分かり始めてきました。そして実際に何度もお菓子を作りました。
 一ヵ月ほどの後に、私は自分がとんでもなく幸運な男だと確信をもつようになりました。どのチョコレートをとっても香り、
 舌ざわり、口溶け、味わいに少しも切れ目がなく力を持った味わいが感覚に迫るのです。
 ペック社は年産1000トンの小さな工場です。正に個性豊かな力をもったカカオ豆が集められていると思いました。
 少ない生産量だからこそ、良いカカオ豆を密度高く使えるのです。そして何よりドゥルシェ氏のチョコレートへの想いが熱く
 伝わってくる、極めて理知的な、私の心を揺さぶる味わいでした。私はペック社のチョコレートと出会い、ドゥルシェ氏との
 交わりの中で、チョコレートの味わい、素材としての役割を深く理解してきました。
 芯のある鋭さそのままの香りをもった“スーパー・ゲアキル”、上品な深い慎ましさをたたえた“アメール・オール”、
 両の頬が嬉しくゆるむ優しいおいしさの“ラクテ・エクストラ”、例えようのない懐かしさに満ちた慈愛をたたえる
 “ショコラ・イボワール”… さらに、それらのチョコレートで作ったお菓子は私に、あまりにも大きな驚きを与えました。
 それまでのお菓子がまったく異なる表情に変わってしまったのです。すごい力があるのです。香りが、味わいが、凛
 としていて、私の舌の上に、鼻孔で開くのです。それは、すべてのチョコレートのお菓子に、新たに命を与える味わいでした。
 ここから私のチョコレートのお菓子は一点の曇りもない味わいとなりました。皆さんは自分の感覚でチョコレートの味わいを
 理解することが出来ますか。もしヴァローナのチョコレートが一番よいチョコレートと考えているならそれは、
 「私はチョコレート味音痴です」と自ら言っているようなものです。ヴァローナ社のチョコレートは少しもおいしくありません。
 クラシックなガトー・ショコラなどチョコレートのお菓子を作り、ペック社のものと比べてみてください。
 あまりの味わいの違いにがくぜんとするでしょう。それが真実なのです。有名なフランス人ショコラティエや日本のシェフが
 よいと言っているからでは情けない。実は彼らもそんなにチョコレートの味は分かっていません。
 何故ならヴァローナ社のチョコレートが一番旨いと思っているのですから。

【ペック社のチョコレートの品質が秀でている理由】
 通常の商品は異なる産地のカカオ豆を3種類ほどブレンドして作り上げます。これには二つの理由があります。
 一つは単一の産地の豆だけでは香り、食感、味ともに十分力を持った味わいにするのはなかなか難しいことです。
 香りのしっかりしたものに味わいのしっかりしたものをブレンドすれば、全体に力のある味わいが生まれます。
 もう一つ、カカオ豆は農産物であり、特に気候などによって毎年味わいにブレが生じます。そのため異なる産地のものを
 ブレンドして味わい、品質を安定させるのです。一つの産地のものが天候が悪く、豆の品質がよくなかったとしても、
 他の二つの産地のものが例年通りの品質であれば、大きなブレを防ぐことが出来ます。ペック社ではこのブレンドをするのは
 前社長のドゥルシェさんです。彼はソルボンヌ大学出のインテリなのですが、とても理知的な感受性の持ち主で、それを
 食べる人の心を打つ味わいを作りだします。本当に凄いと思いますし、同じ職人として彼の仕事への真摯な態度をいつも尊敬
 してきました。彼が選んだとても個性的なカカオ豆と、彼のセンスによって作り上げられるチョコレートは、世界で一番おいしい
 と私は確信します。

・クーベルチュールは主に上がけ用でカカオバターが約35%と多く、上がけしやすいように、よりサラサラとしています。
・ガナッシュ用はカカオバターが25%強と少なく、カカオの味わいがよりしっかりしたチョコレートで、
 主にガナッシュを作る時に使われます。
 (スイートチョコレート) カカオ豆+カカオバター+砂糖+バニラ棒でつくられます。
 (ミルクチョコレート) スイートチョコレート+全脂粉乳でつくられます。
 (ホワイトチョコレート) カカオ豆から絞り出したカカオバター+全脂粉乳+砂糖で練り上げられます。

【チョコレート菓子を作るのにはココアの質も重要】
 チョコレートのお菓子を作る時にはチョコレートと同時にココアも特に大事です。深い力のある五感に浸みこむ長い香りを
 持ったものでなければなりません。そして色合いは深く、芯のあるものでなければなりません。また保存方法がとても大事です。
 ペック社のものは、私のココアに対するイメージを完全に満たしてくれます。心と身体を包み込む深く長い香りはしっかりと
 守られています。ビスキュイ、ジェノワーズ、ババロアなどに加工される過程でも芯のある味わいは埋没せず、印象的でおいしい
 パートゥやクレームを作り出します。これを使えばもう他のココアは使えません。ココアは粒子が極めて細かく、表面積がとても
 広いため短時間で酸化され、色は白っちゃけてしまい、香り、味わいは失われていきます。製造後の包装管理がとても大事です。

【ショコラだけじゃない!比類なき完成度の高さのプラリネ】
 ショコラだけではありません。先代社長ドゥルシェ氏の自分の仕事に対する誇りと思い入れを強く感じる物の一つに
 プラリネがあります。これはお菓子の素材としての完成度の高さと比類なきおいしさにいつもただただ感服するばかりです。
 ※粗挽きと細挽き
 未だ日本人パティスィエの多くは舌に粒々を感じない細挽きがおいしいと考えていますが、そうではありません。
 粗挽きの方が、粒々の楽しい歯ざわりが感じられ、そしてアーモンド・キャラメルが混ざりすぎていないために味わいも
 より立体的になります。私はほぼ100%粗挽きを使います。これはヘーゼルナッツの場合も同じです。


 4.【力強い味わいの冷蔵フルーツピューレ】

 ラビフリュイ社の冷蔵ピューレの原料となる、さまざまの秀逸な素材は、世界中の最良の産地から、最良の品のものが
 取り寄せられます。またラビフリュイ社があるフランス西南部アネイロンは、ローヌ・アルプ地方にあり、本当に味わい豊かな
 フルーが大規模に生産されています。工場に到着してから加工まで、品質が劣化しないように、ごく短期間だけ冷凍保存する
 ことはありますが、出来るだけ新鮮なうちに90℃に加熱処理し、冷蔵保存を可能 にしたのが、ラビフリュイ社のピューレです。

 冷凍のピューレとの味わいの比較は次のようになります。
 まず、冷凍による果実からの離水などによる味わいの希薄化がなく、しっかりした深い味わいが残りますが、90℃で加熱する
 ことにより、加糖からキャラメルが生成され、その他の成分変化などにより、新鮮な感覚が失われます。しかしこれを補うために、
 オ・ドゥ・ヴィやリキュール、レモン汁などを加え、新鮮さを与えれば、冷凍のピューレ以上においしいババロアやムース、
 シャーベットが可能になります。フランスでは通常、一つのお菓子には一種類の酒しか使いません。それは卵、バター、粉、
 生クリームなどの味わいが素直に豊かなので、中心となる素材の特性を助けるように作用します。しかし日本のこれらの
 基本的な素材はおいしさが希薄で不自然な味わいをもつものが多く、中心となる素材の特性を消し去るように作用します。
 そこで酒なども一種類ではなく2、3種類加え、中心となる素材のイメージをよりはっきりさせる必要があります。これによって
 顔立ちのはっきりした印象的な味わいを作ることが出来ます。またこの冷蔵ピューレにはレモン汁を適量加えて新鮮なイメージ
 を与えます。

 輸入開始当初は、13℃冷蔵保存で品質は変化しないとのことでしたが、私どもの経験の結果、すべての輸入段階で
 4℃ほどの低温の方がおいしさが変化しないという確信をもち、4℃での輸送、当社倉庫での保管に切り替えています。
 これによりさらに新鮮さ溢れる味わいとなっています。皆様も4℃保存に努めて頂ければと思います。
 ※全商品10%加糖。冷蔵庫で保存し、開封後は3〜 5日で使いきって下さい。
 ※フルーツジュースには高温に対し味わいの変化が著しいものとあまりダメージを受けない物があります。特に弱いものは
   フレーズ(苺)、ペーシュ(白桃)などで、これらは特にリキュール、オ・ドゥ・ヴィなどのしっかりした助けが必要になります。


 5.【 香りは味わいの最も大事な要素】

 私なりの味わいの分析法です。
 味わいを三つの要素に分けます。香り、食感、味が一つの大きな全体の味わい、おいしさ、まずさを作りだします。
 「香り」は口に入る前の香りから続き、飲み下した後の残り香までもが含まれています。
 これは食べ物から昇化する気化成分によって鼻腔で感じる化学的反応です。
 「食感」は口に入れてからのパートゥの崩れ方、口溶け方、喉ごしまでの、様々な種類の圧力とその強弱の感覚です。
 これにバターやチョコレートのカカオバターなどの固体から液体に溶ける時の融解熱などが含まれる物理的な感覚です。
 融解熱は舌から多めの熱が摂られるので、シャープで涼し気な口溶けを感じさせます。
 三つ目が「味」です。これは唾液に溶けた成分が舌に与える化学的な反応です。
 この三つが口に入れる前の香りから飲み下した後の喉ごし、残り香まで含めた過程の間で、多重性と多様性をもって
 立体的に複雑に影響し合い、一つの味わいを作り上げます。味わいには絶対的な味わいはありません。
 他の様々な要素との相対的な関係なのです。本当においしい味わいが、何か異なる香り、食感、味わいの一つでも
 加わることによって、全くまずいものに変わってしまいます。勿論、この反対の場合もあります。

 この三つの要素の中で最も大事なのが香りなのです。
 人間のDNAの情報の中には無限の食べ物に関する良い情報、悪い情報が蓄積されています。
 まず香りは目の前にある食べ物が、これを食べても命をおびやかすものか、身体に良いものかを見極めようとします。
 もし毒を誤って口に入れてしまえば、それで命は停止してしまうので、あらん限りの情報を駆使して判断しようとします。
 口に入れて大丈夫と判断した場合も、実際に噛んでみた食感によって、さらに安全性を確かめようとします。
 そして舌に感じる味によっても、更なる最終的な確認をします。まだ飲みこまなければ大丈夫かもしれません。
 毒を飲み込んでしまえば、取り返しのつかないことになりかねません。そこで口に入れる前の香りから最大限の情報を
 得て的確に判断しようとします。本当においしくたくさん取り入れるべきものだと判断されたものには、安堵の感覚が
 生まれます。これがおいしさなのです。本当においしい、心を打つお菓子や料理には必ず印象的な香りがあります。
 私共イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのお菓子・料理は、もちろん食感、味も大事ですが、香りを特に大事なものと考えています。
 私共の食べる人の感覚に訴えるおいしさには必ず豊かな香りが感じられます。
 食感、味は変わっていないのに本当に良い香りを加えると、全体のお菓子の味わいが生まれ変わってしまうのです。
 特に日本の生クリーム、牛乳、卵その他の素材は味わいや香りが乏しいので、フランスでお菓子を作る以上に、
 バニラエッセンス等の香りの使い方が大切になります。

 【バニラ】
 バニラにはバニラ棒、バニラエッセンス、バニラシュガーがありますが、特に日本のお菓子作りには、バニラの役割が重要
 になります。タヒチ産のバニラを良いと言われる方がおられますが、タヒチ産の薬臭い香りはお菓子には決して向いていません。
 やはりお菓子作りには昔から使われているマダガスカル産のブルボン種のバニラが一番ふさわしい、自然で甘い香りなのです。
 フランスでは加えない場合でも、日本の香りや味わいの希薄な素材では、より多くの工程でバニラを上手に使う必要があります。
 日本の素材でのお菓子作りでは、バニラの香りの善し悪しが大きくお菓子の味わいを大きく左右することを知ってください。

 【コーヒー・エッセンス】
 コーヒーのお菓子には、入れたばかりのエスプレッソの香り、味わいが必要です。勿論、全く同じと言う訳にはいきませんが、
 深さと厚みと力のある香りのコーヒーエッセンスがあれば、これにバニラエッセンス、時によってはブランデー等を加えること
 によって、淹れたてのエスプレッソの印象を作り上げることが出来ます。伝統的なコーヒーとチョコレートのお菓子のオペラ、
 日本では私の作るオペラ以上においしいものに出会ったことはありません。それは作り手にフランスで飲む本当に旨い
 エスプレッソへの確固としたイメージがないからです。何となくコーヒーの香りをつけるといった考えでは印象的なオペラなどの
 コーヒー味のお菓子を作ることは出来ません。正にこのコーヒーエッセンスは、私のコーヒーへのイメージをしっかりと高めて
 くれます。その他いくつものコーヒー風味の本当においしいお菓子を作り上げる手助けをしてくれました。

 【生クリームと安定剤】
 生クリームは水と脂肪球が結びあったものです。フランスのものはこの結びつきがとても強く、冷凍後に解凍したり、
 様々なフルーツの果汁などと混ぜ合わせても、この結びつきは壊れません。しかし日本の生クリームは、この結びつきが
 特に弱いのです。冷凍後に解凍すれば必ず生クリームから離水し、お菓子の味わいを損ねます。また杏、グレープフルーツ、
 パッションフルーツ、マンゴーなどの果汁の酸にはとても弱く、やはりかなりの離水が起こります。しかしこの安定剤を加えると、
 脂肪球と水の結びつきはとても強くなり、いずれの場合もかなり離水は抑えられます。通常冷凍庫で解凍した生菓子は、
 朝と夜ではかなりの劣化が認められます。この安定剤を生クリームに1%ほど加えれば、味わいの劣化がゆるやかになり、
 より長く良い状態に保つことができます。


6.【肥沃なヨーロッパの大地の恵みが育んだドライフルーツで
  日本の素材に欠けているものを補う】

 フランス菓子ではフレッシュのフルーツと共にドライフルーツも様々のお菓子に使います。しかし日本で手に入るナッツ
 その他の素材はとても味わいが希薄で、多様性・多重性に溢れるフランスの味わいを再現することはとても難しい。
 そこで多くの部分を外国産の素材に頼らざるを得ません。しかしその中にもなかなか私の舌が満足するものはありません。
 材料に豊かな味わいがなければ、お菓子を作り上げるための技術も過度に複雑になってしまいます。
 私共が扱うドライフルーツは一つずつ、私の感覚が満足するものを長い時間をかけて選び、集めてきたものです。
 私の舌が選んだものはお菓子の素材としてのみならず、子どもたちのおやつや、デザートにしても本当においしく、
 食べる人の細胞に元気を与える幅の広い栄養素を含んでいます。

 【ドライ・レーズン、ドライいちじく】
 トルコ産のドライ・レーズンは噛めば噛むほど味わい深く、お菓子はもちろんのことサラダや料理に加えれば味わいは
 より一層豊かなものになります。同じくトルコ産のイチジクも舌全体に豊かな味わいが広がる、身体が安心する旨さが
 ぎっしりと詰まっています。

 【ドライ・プルーン(種なし)】
 スーパーなどで見かけるアメリカ産のものでは、あまりにまずすぎてお菓子の味わいが成り立ちません。
 このプルーンはフランスのプルーンの本場、フランス南西部に位置するアキテーヌ地方アジャン産のものです。
 豊かなこの地で育ったプルーンは、口の中で途切れることのない力強さを持った豊かな素晴らしい味わいです。
 私はこのプルーンでジャムを作ったり、パウンドケーキを作ったり、ムースも作ります。味わいが切れ目がなくとても濃密
 なので、私が期待するお菓子の中の役割を確実に担ってくれ、味わいの組み立てもそれほど苦労することなく作り上げる
 ことが出来ます。お菓子にはもちろん、そのまま食べても料理にもプルーン本来の力に満ちた味わいを得ることが出来ます。
 本当に旨くて頼りになるプルーンです。

 【ドライ・ポワール】
 私共イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのクリスマスの定番のお菓子であり、アルザス地方のクリスマス菓子の
 ベラベッカ(「洋梨のパン」の意)には、旨いドライ・ポワールが欠かせません。これも何か所から取り寄せ、ようやく探し当てた
 ものです。果肉の中に豊かすぎるほどの成分が含まれていて、オ・ドゥ・ヴィに漬け込むと得も言われぬ五感を包みこむ
 深い味わいを発揮します。見た目はとても悪いのですが、口に一度入ると、初めての人には想像も出来なかった正に五感に
 覆いかぶさる力に満ちた味わいです。拙著「Les Desserts(レ・デセール)」にはこの洋梨などのドライフルーツを煮込んだ、
 とびっきりのデセールが載っています。じっくりと煮込んでやると、全く異なる表情のおいしさが鮮明に現れてきます。

 【サルタナ・レーズン】
 アメリカ産のドライ・レーズンは単純な甘さがあるだけで味わいが成り立ちません。しかし、このサルタナ・レーズンは
 2、3粒口に入れてじっくり噛んでみると、表現できない尽きることのない味わいが小さなブドウの中からわき出てきます。
 既に私の身体の細胞が待っている安心感に満ちた味わいなんです。こんな味わいを持ったドライ・レーズンならお菓子も
 おいしくなるに決まっています。何と言っても一番使うのはラム酒漬けのレーズンです。
 パウンドケーキ、タルト、アイスクリーム…。様々なものに使います。
 勿論、どれをとっても私共イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのおいしさを抜くものは他の店にはありません。
 このドライ・レーズンもどこにもないおいしさの大事な支柱の一つなのです。

 【ドライ・アプリコット】
 優しい春の香りを漂わせる干し杏です。日本の生の杏は、味も香りも何もありません。食べる意味も見つかりません。
 フランスの春はアフリカのモロッコから来る杏で色づき始めます。そして季節と共にフランス国内の、南から北へと産地が
 北上します。本当に春の香りなんです。このうえない春の香りなんです。生の杏をかじると厚みと力のある香り、味わいに、
 あーあ、いよいよいい季節が来るんだなぁという思いが一度に膨れ上がります。家ではお母さんが杏のクラフティを作り、
 お菓子屋さんでも杏のクラフティ、タルトゥ、ムースが並びます。心が浮き立ちます。でも日本産の少しの味も香りもない
 生の杏ではムースにもタルトゥにも使えません。本当に淋しい。そこで形を変え、干し杏をジョアネさんの杏のリキュールに
 漬け込み、カタルーニャ地方レリダのアーモンドでクレーム・ダマンドゥを作り、タルトゥを作ります。生の杏のおいしさとは違う、
 とても心を打つおいしさが生まれます。あるいは干し杏を一晩水に浸けて戻し、砂糖、バニラ棒を加えて弱火でことこと
 柔らかく煮ます。清々しい杏の味わいがかなり再現されます。これをアプチュニオン社の杏のピューレ、ジョアネさんの
 杏のリキュールを加えてムースを作り、その中に杏のシロップ煮を挟みます。


 7.【本当においしい栗を探して辿りついた圧倒される味わい〜
   スペイン・ガリシア地方の栗】

 日本にはフランスから2社のパートゥ・ドゥ・マロンが輸入されています。あれを旨いと思っている人は多いと思いますが、
 フランス国内で供給されているものから比べれば、日本向けの手抜きの、まったく栗の味わいの希薄すぎる、
 バニラの香りでごまかした代物です。でも名の売れたパティスィエであっても日本人はそれも見抜けない。まぁ情けない。
 私は何とか本当に旨い栗の商品はないかと、何度となくスペインのガリシア地方を訪れました。あるメーカーで商談をしていた
 ところ、そこの社長に電話がありました。電話が終わって彼は嬉しそうに言いました。フランスのA社からくず栗の注文が
 入ったと言うのです。栗には3段階あり、一番下の虫食いのものが混ざったものです。それを安く仕入れ、虫食い栗の
 不快な匂い、味を消すために長い時間煮ます。虫食いの不快な味わいと共に肝心の栗の味わいも消えてしまいます。
 それをごまかすために強めにバニラの香りづけをして作りあげるのです。少なくないフランス人は、日本人にはこんなもんで
 十分だと、無知極まりない日本人パティスィエの足元を見て、やりたい放題のことをしています。

 【マロン・シロップ漬け】
 このスペインの栗はやっと探し当てた、私の舌が満足する本当に温かい、深い味わいを持っています。栗のババロアに
 加えても、生クリームの中に散らしても、またパイの中にクレーム・ダマンドゥと一緒に焼き上げても、食べる人を嬉しく
 幸せにするマロンのお菓子が出来上がります。お菓子を作る作り手にも幸せ感を与えてくれます。

 【パートゥ・ドゥ・マロンとクレーム・ドゥ・マロン】
 通常パートゥ・ドゥ・マロンはボーメ32°まで砂糖を浸透させた栗をすりつぶしてパートゥ状にしたものです。この工程で
 栗そのものの味わいはかなり変わります。このパートゥ・ドゥ・マロンは糖度は55度と低く、スペインの豊かな土地の恵みを
 十分に含んだ栗の味わいが十分に残っています。ババロアに加えても、生クリームに加えても、またアイスクリームに
 混ぜても、あるいはパイなどに詰めて焼きあげても、心に浸みこむ温かいおいしさが得られます。


 8.【南仏プロヴァンスの恵み オージェさんの蜂蜜のおいしさ】

 蜂蜜のおいしさはもちろん、それぞれの花を付ける植物が育つ土地の豊かさ、つまりミネラルの幅の豊かさによって
 決まります。日本の土は雨が多く、地中のミネラルが常に流され続けて希薄になっています。そのためにそれぞれの植物に
 とって必要なミネラルが量としても幅の広さや種類としても不足しています。それぞれの植物の特性が十分に形成されません。
 そのために総じてそれぞれの蜂蜜の味わいも薄く、レンゲであれ他の花であれ、色や味わいに大きな違いは感じられません。
 でも日本の蜂蜜も私の子どもの頃は今よりも野菜や畑の土はもっとミネラル豊かでしたから、ずっとおいしかったのではと
 思います。以前は、蜂蜜はとても高価なもので、普通の家では口に出来ませんでした。でも余裕のある家では誰かが病気に
 なったりすると滋養をつけるために蜂蜜を摂ることもあったようです。蜂蜜の食品標準成分表を見ると、限られた項目の中では
 それほど栄養がないように見えても、分析されていないその他の膨大数の栄養素はとてつもなく豊かであることはすぐに
 察しがつきます。蜂の生命の全てを司り、女王蜂の壮絶な生命の繁殖力を支えるのですから、本来は基本的な栄養素の
 集合体なのです。土のミネラルが日本とは比べ物にならないほど豊かなフランスのプロヴァンスやスペインの花々には、
 それぞれの花の色、香りも日本のものから比べれば強烈に濃く、鮮やかです。それぞれの植物が必要としているミネラルを
 ほぼ完全に含んでいるので、それぞれの植物の本来の個性が完璧に近く実現されているからです。そして、これらの花の蜜
 から作られる蜂蜜はその色から味わいまで、植物の種類によって大きく異なります。それぞれの味わいにはっきりした個性が
 あり、とにかく身体中のすべての視線がいっせいに集中する浸み渡る旨さなんです。とても濃く、印象的です。

 私はパンにそのままつけて食べるのが一番多く、クレープなどにつけてもとてもおいしい。また朝食後にスペイン産の
 レモンジュースを少しの水で割り、蜂蜜を溶かして飲んでいます。本当においしい。身体がすっきりと落ち着き、
 力が湧いてくるのを感じます。これらの蜂蜜を使い、パン・デピス、蜂蜜のパウンドケーキ、チョコレートや栗の
 クレーム・シャンティイなど様々のお菓子を作りました。どれもが本当においしい。それはこの命を揺り動かす
 豊かな味わいをもったハチミツが与えてくれた、神様からの贈り物にしか私には思えません。


 9.【スペインの大地の豊かな栄養素が日本の乏しい食材をさらに豊かにする】

 【栄養素が乏しくなっている日本の食卓に
  スペイン産の滋味豊かなオリーブオイル】

 私達は油脂に関して完全に間違った考え方をしています。
 油が入らなければなんでもヘルシー?皆さんは油の摂り過ぎは良くないと思っていませんか?
 確かに、乏しい栄養素しかないアメリカ産のトウモロコシをさらに日本のメーカーがくせのないように過度に精製した
 油脂は、身体にたまりやすく危険です。しかし滋味豊かなスペインの地で採れたオーガニックのオリーブオイルは
 身体にとてもよいのです。

 こんなエピソードがありました。
 仕事先のスペイン、カタルーニャ地方で取引先のスペイン人と一緒に食事をしました。彼らは自分の会社に備蓄してある
 オリーブオイルを、700ml のビンに詰めてレストランに持ち込み、すべての料理に驚くほどたっぷりかけます。
 思わず「そんなにいっぱいオリーブオイルを摂って太らないのか、身体に悪くないのか」と聞いてしまいました。
 彼らはムッとした顔をして「オリーブオイルは太らない。これは若さの源だ。本当に元気になるんだ」と言いました。
 確かに彼らは少しも太っていません。そしてとにかく肌の艶がよく、しっとりとし、精悍に見えます。私も思いきって
 たっぷりのオリーブオイルをすべての材料にかけてみました。本当においしい。
 オリーブオイルと素材が手を取り合い、力と豊かさをもって、身体に語りかけてくる。すべての料理に次々とオリーブオイルを
 かけて食べました。でも食事の終わりになると後悔の念が少しずつわいてきました。「ああ、調子に乗っちまったなぁ。
 胃はもたれて体重増えるんだろうなぁ」最後のコーヒーも終わり、ちょっと重い心で立ちあがりました。
 「あれ、腹がすっきりだ」そしてスペイン旅行中、あれほど食べ、あれほど多くのオリーブオイルを摂ったにも関わらず、
 11年続けている毎朝1時間の早歩きだけで帰国時体重はむしろ500g減っていました。ビックリしました。
 以来、私はヴェア社のオリーブオイルの信奉者です。

 【データでも証明されたヴェア社のオリーブオイルがもつ栄養素】
 私は炊き込みご飯でも煮物でも、ドレッシングにももちろんオリーブオイルです。冷奴にも胡麻油とともにたっぷり
 かけます。豆腐の味わいが本当に優しく温かくなります。ヴェア社のオリーブオイルの栄養素の豊かさはとにかく凄い。
 身体によいリノレン酸などの不飽和脂肪酸が豊かに含まれています。あるNPO法人が行ったオリーブオイルのミネラル分析の
 結果、他社製品からは検出されなかった鉄、亜鉛、銅などのミネラルが、ヴェア社のオリーブオイルから検出されました。
 これで「おいしいものが身体にいい」と唱えていた私の持論がデータで裏付けられた形となりました。油がなければヘルシー
 などというあまりにも子どもじみた捉え方はいけません。油脂はエネルギー源になると共に、細胞の膜やホルモン、消化に
 必要な胆汁酸の原料となり、細胞の機能を向上させる働きがあります。また油脂に溶ける脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、K など)
 の吸収に役立ち、不足すると発育障害や皮膚炎の原因にもなります。特に不飽和脂肪酸は心臓、循環器、脳、皮膚などの
 重要な器官や組織に必要であり、「必須脂肪酸」と呼ばれます。オリーブオイルは多少摂っても太りません。1〜2 ヵ月ほど
 摂り続けると、身体の新陳代謝が活発になり、余分な脂肪が抜けて身体がしまってきます。また、地中海周辺など日常的に
 摂る人たちは長寿が多いとも聞きます。もちろん成長期の子供に必要なものも、豊かに含まれています。このオリーブオイルを
 口にすれば、一度でオリーブオイルのイメージが変わってしまいます。すべての料理の味わいを豊かに、おいしくしてくれるのです。

 【このビネガーに出会うまで、私は酢のおいしさを少しも分かって
  いませんでした---身体が求める深く力のある味わい】

 私はこのヴェア社の赤ワインビネガーを口にするまで、酢のおいしさを少しも分かっていませんでした。いわんや身体
 への効能など考えたこともありませんでした。しまりのない、ふにゃーっとした甘い香りだけの日本の酢。それよりは少し
 ましでもひきつける味わいのない、薄い味わいの輸入赤ワインビネガーにしても、どうして人は摂るのか、考えたことも
 ありませんでした。酢に関する資料を読むと、驚くほど美容、健康に関するさまざまの効能が書かれています。肌をすべすべに
 する、肥満防止、心臓病の予防、ストレス解消、風邪予防、血圧の上昇を抑える、カルシウムの吸収を助ける、疲労回復
 などなど。さらにたくさんの主だった効能が書かれ、まるで酢を摂るとほとんどの病気が回復するかのようです。しかしはっきり
 言えることは、不自然な味わいの日本の酢や薄いワインビネガーに、これほど明確な効能などあるはずがないということです。
 私の子どもの頃の米酢は感覚を包みこむような厚い、厚い、香りと味わいがありました。運動会のいなり寿司、夏のキュウリと
 ワカメの酢の物、身体がホッとする力を持ったおいしさでした。でも今のものは上品ぶった、か細く鼻先をかすめるだけの、
 わびしい限りの香りだけです。身体が待っている栄養素が豊かな訳がありません。でもこのヴェア社のビネガーなら、
 これらの効能も可能なのかな、と期待を持たせる深く力のある味わいがあります。初めてヴェア社の赤ワインビネガーを
 なめた時、私達日本人にはまったく経験のない、接着剤のような匂いが鼻をつきました。しかし同じヴェア社のオリーブオイルと
 モンゴルの岩塩、こしょうでドレッシングを作り、野菜と一緒に食べると、その接着剤の匂いは深く安心に満ちた食欲を刺激し、
 呼び起こしたのです。厚みのある味わいと温かい酸味が優しく舌を包み、本当に旨いのです。理屈などいりません。深く静かに
 ため息をつきながら、一心に食べている自分に気づきます。この酢を知ってしまうと、もう他の酢では物足りなくなります。
 ずっとこの深いおいしさが心と身体に残ります。そしてまた、次の日も食べることが当たり前に思えてきます。私の感覚が
 力強くこの酢のイメージを取り込んでいるのです。
 
 一年ほどして、ヴェア社から今度はシェリー酒ビネガーが届きました。私はこの酢にも大きな驚きを覚えました。
 香りは赤ワインビネガーよりも穏やかで、鼻をツンと刺激しません。でも舌に感じる味わいはあまりに芳醇でした。
 力強く、まるで身体が待っているすべての栄養素をたたえているかのような、舌の感覚すべてを引き込むような味わいでした。
 もうここまでの凄い酢なら、薄く切ったトマトの上にモンゴルの岩塩、オリーブオイルと一緒にたっぷりかければ、
 極上のサラダがいとも簡単に出来てしまいます。シェリー酒ビネガーはツンとしていないので初めての人にはよいでしょう。
 2 種類のビネガーをブレンドして自分好みのドレッシングを作るのも楽しい。和の料理でもとんでもない力を発揮します。
 酢味噌を作っても、おせち料理のなますを作っても、五感に暖かく浸み渡る味わいを作りだします。
 鍋料理のたれ、私にはこれしかありません。醤油50g、赤ワインビネガー40g、ナンプラー10g、これを混ぜるだけ。
 器に野菜、肉などと汁を取り、これにスプーンでたっぷりその都度かけます。本当に旨い、バランスがよい。
 冬の間、何度 鍋料理を食べてもまったく飽きはしない。素材の味わいを爽やかに嬉しく、豊かに盛り上げてくれます。
 大した優れものです。これだけ旨ければ、確かに様々な効能が期待できます。毎日、コップの水に大さじ1 杯強(20cc)ほど
 ビネガーを加えて飲むと、胃、身体がすっきりします。身体がすっきりと目覚めない時、お酒を飲み過ぎた翌日などに、
 ぜひ試してみてください。日本の酢とスペインのワインビネガーの栄養素を比べると、日本の酢が含む栄養素は、
 スペイン産の3分の1です。あきれるほどの違いがあります。


 10.【力が溢れ、身体が目覚めるおいしさ スペイン産オーガニック・ガスパチョ】

 どうしてこんなにおいしいんでしょうね。一口、口に含むたびに涼しげな優しさに満ちた安心感が、身体の中に、心の中に、
 溢れてくるのが分かります。確かに身体に力が湧いてきます。心と身体から疲れた力が抜けていくのです。
 ガスパチョは、スペインのとてもポピュラーな食べ物です。それぞれの家庭で日常的によく食べます。でも同じように
 日本の野菜で作っても、心と身体が安心感に満たされるようなおいしさは決して出来ません。使う一つ一つの野菜が
 バラバラのまとまりのない淋しい味わいにしかなりません。私の考えでは、私の子ども時代から比べれば、今の日本の野菜の
 栄養素はかつての10分の1ほどまでに激減してしまいました。国産の新鮮な野菜を毎日多めに摂ったとしても私たちの身体や
 細胞が必要としている栄養素は決して十分には補給されません。悲しく情けないけれど、これが日本の食材の真実なのです。
 一方、スペインの土地は豊饒の極みです。作られる野菜には今もギッシリと幅の広い豊かな栄養素が詰まっています。

 ガスパチョの素材と作り方はとてもシンプルです。一番大事なことは、使う野菜とオリーブオイルにどれだけ幅の広い
 豊かな栄養素が含まれているかです。スペイン・アンダルシアの土地には、日本の土地とは比べ物にならないほどの
 ミネラルが含まれています。そして、野菜作りに必要な適度の雨が、トマトや玉ねぎに豊かな生命の息吹を与えてくれるのです。
 1週間に2〜3回、朝・昼の食事に取り入れてください。不足しているものがしっかりと補給されます。特に、何となく身体に
 力が入らない、けだるいような朝には最適です。身体に芯を与えてくれます。
 とある食を大切にしているエネルギッシュそのもののお客様にガスパチョを贈りました。やっぱり彼ははまってしまいました。
 店に来られるたびに「弓田さーん、やっぱりありゃ、うめえ。すげーよー。口にすると1本まるまる飲んじゃうよー」と、
 いつも声を大にして叫ばれます。んー、有難い。お客様は神様です!!暑い時期には、ガスパチョにみょうがと青じそ
 を散らした冷製のスパゲッティやそうめんも、絶品と言えるほど本当においしい。身体がぱっちりと目を醒まします。
 またこのガスパチョで日本の素材では作ることのできない本当においしいトマトソースも出来ます。


 11.【味わいの乏しい日本の乳製品に豊かな味わいを添える】

 ミルクパウダー(全脂粉乳)を使うお菓子は限られてい ます。洋梨やフランボワーズのババロア、パン類に使う程度です。
 ババロアはもともと牛乳と卵黄で作られ、間に洋梨をサンドしたりしていました。それが進化して、洋梨を煮て旨味を濃く
 含んだ煮汁を牛乳の代わりに使い、卵黄と共に加熱してクレーム・アングレーズを作るようになりました。 しかし牛乳で
 作った味わいも捨てたくないということで、全脂粉乳を加えるようになったと私は理解しています。 もちろんここで味わいの
 希薄な日本産の全脂粉乳やスキムミルクを使えば、最終的なババロアの味わいは大きく損ねられてしまいます。
 フランスと日本の乳製品の間にはどうしようもない大きな違いがあります。日本産は無味乾燥の淋しい味わい、フランスの
 ものはたちどころに心と身体がふっくらと温まるとても嬉しい味わいなのです。これはパン作りでもまったく同じです。
 もちろん値段にも大きな差はありますが、可能な限りの旨さを目指してクロワッサンやサンドイッチのためのパン、
 パン・ドゥ・ミなどに加えています。本当に嬉しいおいしさが詰まったパンが焼き上がります。