history
どんな技術にもその誕生には理由があるものです。物理的な移動をしなくても会話を行えるように電話は誕生し、その電話を移動しより利便性を高めたものが携帯電話です。無線での高速インターネット通信を可能にしたWiMAXも歴史的な事実に漏れずに誕生には意味があり、同時に歴史的な背景が密接に絡んでいます。ここではいまや一般的になっているWiMAXの歴史を説明していきたいと思います。そもそも現在、一般的にいわれているWiMAXとは「モバイルWiMAX」であり、開発当時のWiMAXとは大きく目的が異なります。ここでは初期に作製されたWiMAXを「固定WiMAX」、現在一般的に広く普及しているタイプを「モバイルWiMAX」と定義して説明を行っていきたいと思います。はじめに「固定WiMAX」がなぜ生まれたのからいきたいと思います。固定WiMAXですが簡単に機能を説明してしまうと「中長距離エリアをカバーする無線通信」ということができます。開発された時期には有線でインターネット網を拡大することが一般的であり、不安定な無線よりも確実な有線が都市部や発展した国では行われていました。しかし、人口が少なく有線網を巡らせるにはコスト高になる地域や内戦などで有線網を設置するのが困難な地域などにインターネット網を設置することができる手段として開発が行われました。従来、短距離でしか使用ができなかったものを、中長距離エリアをカバーできるものとしてカスタマイズされたのが固定WiMAXなのです。しかし現在では「モバイルWiMAX」として都市部でも使われるようになったWiMAX。これから、このWiMAXがどのように自分のポジションを変化していまに至るのかを説明していきます。次は、先ほど簡単に触れたWiMAX開発当時について詳しく説明していきたいと思います。
WiMAX開発当時 サービス開始  エリア拡大の軌跡
        
WiMAX開発当時
WiMAXが開発された目的ですが、有線でのインターネット網構築が難しい地域に対するアプローチの方法というのはすでに説明させて頂きました。そのように開発をされた初期型の「固定WiMAX」ですが、大きな問題がありました。初期に開発された「IEEE 802.16」という規格は見通しが利かない場所での使用ができないという欠点がありました。平坦な地域での使用であれば問題ありませんが、すべての地域がそういうわけではありません。そのために、見通しの悪い地域でも使用ができる規格の開発が行われました。それが「IEEE 802.16a」です。従来の問題点を、使用周波数帯を変化させることによって解決した規格です。この段階にきて実用化の目処が立ったといっても過言ではありません。当初の目的を遂行できる規格が誕生したのです。しかしIEEE 802.16aにも問題がなかったわけではありません。使用可能な変調方式がOFDMしかなかったことが問題とされたのです。そのために、変調方式を増やす流れが生まれいくつかの実験を経て開発されたのが「IEEE 802.16-2004」です。このIEEE 802.16-2004こそが現在いわれている「固定WiMAX」と呼ばれるものなのです。ここで触れた初期型IEEE 802.16、改善型IEEE 802.16a、固定WiMAXであるIEEE 802.16-2004を図にしておきます。違いについては先ほど説明をした通りです。次から固定WiMAXの商業利用とモバイルWiMAXの台等について説明をしていきたいと思います。
IEEE 802.16
最長伝送距離 50km(見通しのきく範囲)
最大伝送速度70Mbps
使用周波数帯10〜66GHz
IEEE 802.16a
最長伝送距離50km(見通しのきかない範囲もある程度可)
最大伝送速度70Mbps
変調方式OFDM
使用周波数帯2〜11GHz
IEEE 802.16-2004
最長伝送距離2〜10km(出力によっては最大50km)
帯域幅スケーラブル1.5〜20MHz
最大伝送速度最大74.81Mbps(20MHz帯時) ベストエフォート方式(QoS実装可)
変調方式OFDM/OFDMA/QPSK/16QAM/64QAM
使用周波数帯2〜11GHz
全二重通信実装方式TDD/FDD(半二重も可)
2.5GHz帯2.3〜2.4/2.5〜2.7GHz
3.5GHz帯3.3〜3.8GHz
5.8GHz帯5.25〜5.85GHz
サービス開始
まずは「固定WiMAX」ですが、日本国内のみでのお話をさせて頂きます。株式会社YOZANは商業として固定WiMAXのサービスを2005年12月に開始しました。しかし2008年までにWiMAX事業から正式に撤退をしてしまいました。その理由はなんだったのでしょうか。インフラ整備が出来ていなかった点、技術的な問題点など多くの問題点が指摘されています。一番の問題はWiMAXが浸透するような環境に当時はなかったと思われます。2008年の撤退時に明らかにされたデータでは2007年の時点で契約件数が500を切っており、売り上げが300万円程度に対して、損失が9億円ほどあったそうです。契約数の異常なまでの少なさはWiMAXがまともに使える環境にあまりなかったことはもちろんそうですが、多くの家庭や企業で有線でのインターネット利用が不自由なく行えたためだったといえます。もともと固定WiMAXが掲げた理想や利便性と日本国内の環境にはミスマッチがあったといえるのです。しかし「モバイルWiMAX」を提供するUQコミュニケーションズは圧倒的な支持を受けており、契約件数は2011年6月の時点で100万人を越えています。この理由はなんなのでしょうか。それには固定WiMAXとモバイルWiMAXの違いがポイントになります。両者の決定的な違いは、その目的になります。固定WiMAXが家庭や企業が利用する有線の代用品だったのに対して、モバイルWiMAXは移動をすることを前提としてどこでも電波が届く範囲ならインターネット利用ができるとことを目的として作られているからです。技術的な違いとしては単純な電波飛距離や効率性では固定WiMAXの方が高いのですが、モバイルWiMAXは「ハンドオーバー」に対応している点が異なります。このハンドオーバーは簡単にいってしまえば自分に一番近い基地局に自動的にスイッチをしていくものです。そのために、使用者が移動をしていても自動的にスイッチが行われインターネットの接続が切れないのです。固定WiMAXとモバイルWiMAXの技術的な違いについては図にしておりますので、下記をご覧ください。次は拡大しているモバイルWiMAXのエリアについて説明をしていきたいと思います。
固定WiMAXのモバイルWiMAX比較
固定WiMAX モバイルWiMAX
規格名 IEEE 802.16-2004 IEEE 802.16e
利用周波数帯 11GHz帯以下 6GHz帯以下
伝送速度 最大約75Mbps(20MHz帯域使用時) 最大約75Mbps(20MHz帯域使用時)
変調方式 OFDM、BPSK/QPSK、16QAM & 64QAM OFDM、OFDMA、SOFDMA 、QPSK、16QAM & 64QAM
マルチアンテナ技術 MIMO(オプション) MIMO, AAS, STC(すべてオプション)
移動性 固定・可搬 固定・可搬・移動体(120km/h)
チャンネル帯域 1.75MHz-10MHz可変 1.25MHz-20MHz可変
ハンドオーバー機能 なし あり
エリア拡大の軌跡
UQコミュニケーションズは先ほど説明を行った固定WiMAXを利用したサービスを行った株式会社YOZANとは異なり、高い収益を上げ続けています。この2つの企業の命運をわけたのは一体何だったのでしょうか。先ほど、その理由を固定WiMAXは「有線の代替技術であり、有線が一般的に使用できる日本では浸透しなかった」と説明しました。確かにそれは最大の理由だと思いますが、それ以外にも数多くの理由があげられます。その中でもエリアの問題は大きかったと思います。ここでいうエリアとはサービスを使用できる環境を指しています。株式会社YOZANのエリアはかなり狭かったことも問題です。これは基地局の数からも説明ができます。UQコミュニケーションズの基地局が2011年5月31日の時点で15,000局を全国に設置しています。一方、株式会社YOZANでは基地局数が138個と大きな差があります。確かに範囲としては固定WiMAXの方が広く網羅できるとはいえこの差は圧倒的でありエリアはかなり限定されていたといわざるを得ません。UQコミュニケーションズでは2020年までに基地局数を20,000局設置するという目標を掲げています。さらに使用できる範囲を拡大するので顧客数も拡大していくことでしょう。また、このエリアとは広い範囲の話だけではありません。例えば、地下鉄や都心のビル郡などは電波がつながりにくいと思います。こういった空間でのインターネット利用もエリア拡大の中に含まれています。UQコミュニケーションズでは電波がつながり難い都市部などでは基地局を密に配置することによって電波障害を防ぐ試みを行っています。新たなサービスである「UQ Wi-Fi」との組み合わせによってより使用できる範囲は広がっているといえます。UQコミュニケーションズでは使用エリアの検索が公式WEBページでできる仕組みになっています。自宅が使用範囲なのか、出先が使用範囲なのかなどを簡単に検索できるようになっています。