「アリスのプラムケーキ」のイギリス風クリスマスの楽しみ方

イギリスではクリスマスが近づくと1ヶ月以上前から家族が集まってドライフルーツのたっぷり入ったクリスマスプディング(注)を作ります。
出来上がったケーキは冷暗所に寝かせて熟成させクリスマスがくるのを待ちます。クリスマスにはもう一度蒸してからブランデーをかけ火をともして食卓へ運び、クリームやカスタードクリームを添えていただくのが伝統となっています。

(注)クリスマスプディングといっても日本で言うプリンとは全く異なり、プラムケーキと同じような材料で作るフルーツケーキのことですが、型に詰めてから蒸し焼きして作るところが違います。材料をかき混ぜる際に願い事をして、銀のコインを入れることもあります。クリスマス当日、自分に切り分けられたプディングにコインが入っていれば幸運になるという楽しみ方もあるようです。

クリスマスプディングに習って、切り分けたアリスのプラムケーキにブランデーをたっぷりとかけ火をともしてみました。

【コツ】アルコール度数40℃のブランデーを使いましたが、ケーキが冷えたままでは中々火がつかず、ケーキをレンジで温めてから火をつけてみたところ、つかの間ですが写真のような美しい青い炎のゆらめきを楽しむことができました。

プラムケーキの由来
「プラムケーキ」と呼んでいますが、実はプラム(すもも)は入っておらず、「プラム」という呼び名は製菓用の干しぶどうを意味するplumからとったという説と、
ドライフルーツをブランデーなどの洋酒につけこむ(plump up)作業をさしたplummingからきているという説があるようです。

日本でクリスマスケーキというと、カステラの上をクリームとイチゴで飾ったデコレーションケーキがお馴染みですが、これは伝統的なクリスマスケーキではないそうです。

ヨーロッパでは、どちらかというとイギリスのプラムケーキやドイツのシュトーレンといったドライフルーツがたっぷり入った日持ちのするケーキが主流になっています。
欧米のクリスマスが、日本のお正月と同じように、遠くで暮らしていた家族が帰ってきて、近況を報告しながらゆっくりと過ごすというものだからなのです。

日本の結婚披露宴でもおなじみのウェディングケーキも、元をたどればプラムケーキを砂糖衣などで飾ったものが振舞われてきたということです。昔のヨーロッパでは結婚式でこのケーキを作り、1年後にまた二人で食べるという習慣があったようです。このようにプラムケーキはヨーロッパ各地で古くからお祝い用の特別なケーキとして大切に作られてきました。

※ドライフルーツと洋酒をたっぷり使い、型に入れてオーブンで蒸し焼きにしたプラム・プディング(クリスマス・プディングとも呼ばれる)も「鏡の国のアリス」に登場していますが、こちらもヨーロッパでは広く作られているようです。


物語に登場するプラムケーキ
プラムケーキがイギリスはじめヨーロッパの人々の生活にいかに密着しているかを西欧の古い物語からうかがい知ることができます。


「鏡の国のアリス」(ルイス・キャロス作/1865年)
「鏡の国のアリス」(「不思議の国のアリス」の続編/1871年)は、鏡を通り抜けて迷い込んだチェスの国で、アリスはおしゃべりする花やハンプティ・ダンプティ、ユニコーンたちに出会いながら女王をめざすという物語です。この中でライオンとユニコーンが王様の王冠をどちらが手にするかをめぐって争っている場面で、アリスからプラムケーキを切り分けてもらおうとするシーンがあります。
ライオンはイングランドの象徴、ユニコーンはスコットランドの象徴。17世紀に両国が統一され、以来王家の紋章はライオンとユニコ ーンが中央楯を支えている図柄となっています。

ハリーポッターがクリスマスに食べたケーキも実は「プラムケーキ」でした!!

「ハリーポッターと秘密の部屋(2)」(J.K.ローリング著)/静山社刊
「プラムケーキ」は、世界中で圧倒的な人気を誇るハリーポッターシリーズの第2巻「ハリーポッターと秘密の部屋」にも登場しています。ロン、ハーマイオニーと共にホグワーツに残って冬の休暇を過ごそうとして迎えたクリスマスの朝、ハリーのもとにロンのおかあさんウィーズリーから届けられたのが「プラムケーキ」でした。なんとハリーポッターもクリスマスにはプラムケーキを食べていたということです。

---松岡祐子訳の日本語版(315~316ページ)より抜粋---
・・・・ハーマイオニーはデラックスな鷲羽のペンをくれた。最後の包みを開くと、ウィ-ズリーおばさんからの新しい手編みのセーターと、大きなプラムケーキが出てきた。・・・・(残念ながら映画ではこの部分は省略されています)

「大どろぼうホッツェンプロッツ」(プロイスラー作)訳 中村 浩三 発行所 偕成社
ドイツの童話「大どろぼうホッツェンプロッツ」は、悪名高い大泥棒ホッツェンプロッツがカスパールのおばあさんから盗んだ素敵なコーヒー挽きを、カスパールとゼッペルというふたりの少年が取り返すという物語で、ホッツェンプロッツを捕まえた少年たちに、おばあさんが生クリームをたっぷり載せたプラムケーキをごちそうするというシーンがあります。

「クリスマスの思い出」(トルーマン・カポーティー著)
7歳の少年バディーとおばあちゃんいとこのスックがクリスマスを迎えるために、30個ものフルーツケーキやクリスマスツリーそしてお互いへのプレゼントを用意する様子が生き生きと描かれた心温まるイノセントストーリー。「あるクリスマス」「おじいさんの思い出」とともにカポーティーの短編3部作のひとつ。
※トルーマン・カポーティーはニューオリンズ生まれの作家で代表作に「冷血」「ティファニーで朝食を」などがある。
村上春樹:訳 / 山本容子:版画(文芸春秋社刊)より抜粋
・・・11月のある朝がやってくる。するとわが友は高らかにこう告げる。「フルーツケーキの季節がきたよ!私たちの荷車を持ってきておくれよ。私の帽子も捜しておくれ」と・・・
※この物語では、フルーツケーキを作るために「ピーカンナッツ、サクランボ、レモン、ジンジャー、バニラ、パイナップル、果物の皮、レーズン、クルミ、そしてウイスキーなどを用意しています。

マザーグースより
The lion and the unicorn
Were fighting for the crown;
The lion beat the unicorn
All around the town.
Some gave them white bread,
And some gave them brown;
Some gave them plum cake
And drummed them out of town
ライオンと一角獣
王の位のために戦った
ライオンが一角獣を叩いた
町のいたるところで
白パンを彼らにやる人達
黒パンを彼らにやる人達
プラムケーキを彼らにやる人達
そして太鼓を鳴らして、彼らを町から追い出した

この他、モンゴメリ作の「赤毛のアン」にも、とっておきのプラムケーキが登場しています。(「レーズンケーキ」と訳されていることもあります。)