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イラスト・マリオン編集部 |
オーストリアのウィーン近郊の村々には、「ホイリゲ」と呼ばれる農家経営のワイン居酒屋がある。毎年収穫後に、その年の新酒ワイン(ホイリガー)が解禁になると、家庭料理を楽しむ地元の人々でにぎわう。コップやジョッキなどで、ビールのようにワインが飲まれている光景を見れば、「ワインの楽しみ方にルールはない」と誰もが思うはずだ。
岩手県大迫町(おおはさままち)に、東北を代表する「ワインの里」がある。もともとはタバコ栽培をしていたが、早池峰山麓(はやちねさんろく)の水はけのよい傾斜地を生かしブドウ栽培を始め、1962年に、町、農協の出資によってワイナリーが設立された。
この町で初夏に咲くハヤチネウスユキソウの白い花が、アルプスのエーデルワイスに似ていることから、大迫町はウィーン近郊のベルンドルフ市と友好都市の関係にある。「エーデルワイン」という愛らしい名前は、エーデルワイスに由来するという。
エーデルワインの中でも、地元農家のブドウだけで造る「五月長根葡萄園(さつきながねぶどうえん)」は私のお気に入りの一つ。欧州系のワイン用品種「リースリング」と日本固有のブドウである「甲州三尺」の交配品種「リースリングリオン」を、高橋喜和さん(32)が心を込めて仕込んだワインである。「はっきりとしたフルーツの香り」、そして「レモンのようにさわやかな酸味」、後味に「すっきりした清涼感」が残る。
じめじめと暑い日本の夏に氷水で冷たくして飲めば、早池峰山の高原にいるような涼しげな気分にもなれるかもしれない。冷ややっこ、枝豆、トウモロコシ。そしてグラスに注いだリースリングリオン。
ウィーンのホイリゲのように、家庭料理とワインを気軽に楽しんだっていいじゃないか。なんだか夏が来るのが楽しみに思えてきた。
2003年5月26日朝日新聞東京本社朝刊のマリオン紙面
「ソムリエ渋谷康弘の乾杯・日本ワイン」vol.5よりの記事抜粋 |