Pioneer(パイオニア) インタビュー

Pioneer CDJ-2000イメージ Pioneer インタビュー バナー Pioneer インタビュー バナー
インタビュー参加者の集合写真
左からPowerDJ's市原、Pioneer渥美氏、山田氏、梶ヶ谷氏、木村氏

【Pioneer CDJの誕生秘話】

市原 私がDJを始めるきっかけとなったのがPioneerさんのCDJでして、当時自分で作った曲をDJで使いたくてCDJ-30という機種を買いました。だからターンテーブルよりもCDJの方を先に触ってたんです。

Pioneer 山田氏
Pioneer 山田氏

山田 CDJ-30!懐かしいですね。

市原 PioneerさんのCDJが始めて発売されたのがCDJ-50だったと思うんですが、当時クラブ系の雑誌に大々的に取り上げられていて、「ついにCDでDJが出来るようになったのか~!」って驚いて。
しかしとても高価な機材だったんで、しばらく我慢してたんですけど、その後廉価版のCDJ-30が発売されてそれを期に購入しました。

山田 それはありがとうございます。15年前ぐらいですよね。

市原 そうですね。だから私はPioneerさんの機材のおかげでDJに興味を持ったので、こうして当時からの開発に携わっている方々とお話ができるのを大変光栄に思っております!
それでは初めにPioneerさんがDJ機材を扱うようになったきっかけからお伺いしてもよろしいでしょうか。

Pioneer 渥美氏
Pioneer 渥美氏

渥美 初代のCDJ-50を発売する2年前の1992年にさかのぼるのですが、もともと私が業務用カラオケ機材開発の部署におりまして、同じエンタテイメントビジネスで何か他にないか?といろいろ探しておりまして。当時国内はカラオケが流行っていたのですが、海外だとディスコ/クラブの文化が発達していまして、そういった踊る文化に合わせた機材が作れないかというところから始まりでした。

山田 一番最初、渥美が「DJの機材を作ってくれないか?」と会社中を探し回ってたんですよ(笑)
しかしどこも門前払いだったそうで(笑)
渥美とは全く面識がなかったんですが、彼がたまたま民生のCDプレイヤーを担当していた私のところにたどり着き、「DJのためにCDプレイヤーを作りたい」と言われまして、その当時は今ひとつ意味がわからず(笑)

渥美 当時Pioneerの社内で「DJ」という言葉すらない時代で、家庭用のCDプレイヤーは取り扱っていたのですが、そういった特殊なCDプレイヤーはありませんでしたのでね(笑)

市原 まあそれは無理もないですよね(笑)

山田 それで渥美から「是非DJの方々に会って欲しい」と言われてまして。

Pioneer CDJ-30 Pioneer CDJ-50 Pioneer CDJ-50Ⅱ
写真上より Pioneer CDJ-30、
Pioneer CDJ-50、
Pioneer CDJ-50Ⅱ
(クリックで別ウィンドウで拡大します)

渥美 アナログターンテーブルとレコードを使ったDJプレイに対してCDはどうなのか?ということについていろんなDJの方や業界の方を集めてブレインストーミング(アイディア会議)を行ったんです。
その時出たのは、とにかく民生用/業務用のCDプレイヤーはDJプレイでは使えないという意見。
じゃあどうしたらDJで使いやすいCDプレイヤーになるのかということから開発がスタートしました。

市原 当時ははアナログレコードでDJするのが当たり前だったと思うんですが、その頃から「CDを使いたい」というDJからのリクエストはありましたか?

渥美 当時のDJの皆さんはライブラリがすべてアナログレコードですので、特にCDJの必要性はなかったんですね。
しかしその後、自分で曲を録音できるCD-R、CD-RWというメディアが登場し一気にCDJの需要が高まったという背景があります。
その後CD-Rのおかげで簡単にオリジナル曲をCDにすることができるようになりましたので。

市原 僕もCDJを購入した一番の理由がそれでした。
丁度その頃、PioneerさんからCD-Rレコーダーが発売されましたよね。その辺りもCDJの需要が高まったきっかけになってますね。

山田 コンピューターでCD作成っていうのが一般的ではなかった時ですよね。

市原 はい、3Uのラックマウントサイズで、テープレコーダー感覚でリアルタイムに音声を録音していくCD-R/Wレコーダーがありましたよね。CD-Rに記録する面を上にしてトレイの上に置く方式で。当時、近所の音楽仲間のおじさんがが持ってまして、自分で曲を作ってDATに録音する度にそのおじさんの家に行ってCD-Rにダビングしてもらうっていうのを繰り返してました(笑)

山田 わ~それも懐かしいですね(笑)

市原 その後、パソコン用のCD-R/Wライターが発売されて誰でも手軽にCDを作成できるようになり、ほとんどのクラブにもCDJが常設されるようになってからCDJがDJシーンにおいて一気に必要不可欠な機材になっていった状況を目の当たりにして、正直驚きました。まさにデジタルDJの先駆けで。
CDJの特徴でもある頭出しのポイントを記憶できる「CUEポイント」やジョグダイヤルでピッチを微調整できるベンド機能や、その他の仕様、デザインなどはどのようにして決めていったのですか?
あれはDJの経験がないと、わからないと思うんですが。

山田 当時、私はDJのことが全くわかりませんでしたので、一生懸命DJプレイしている映像を見て勉強しました。しかも渥美はDJスクールに通って修了証書までもらってきたんですよ。

渥美 ちょっとしたDJセミナーみたいなのがありましてそこでDJを勉強してきまして(笑)。

山田 そして交流のあったDJの方から、「レコードにシールを貼って毎回同じところからスタートさせるようにしたい」「レコードの縁を触ってテンポを微調整したい」、「テンポをかえてもオリジナルの音程はキープできるようなことも出来れば」いった意見を伺いました。それでそれらの理想を現実にするにCUEボタンを付けて、ジョグダイヤルで曲のサーチやピッチベンドが出来るようにといったことをプログラムエンジニアの木村と一緒に試行錯誤してフォーマットができました。

市原 それは凄いですね!そういった熱意があったからこそ、歴史に残る画期的なプレイヤーができたんですね!!
テンポを変えてもオリジナルの音程が変わらないマスターテンポ機能はPioneerさんが初めてだったんですか?

山田 はいそうですね。
初めての仕様だったのでどんな名前にしたらいいのかと不安になりながらも付けた覚えがあります(笑)

インタビュー風景 1

市原 今では当たり前になってるんですが、あれは当時としてはかなりショッキングでした。なんでそんなことがリアルタイムでできるんだ~!って(笑)
サンプラーでフレーズサンプリングする時、タイムストレッチが非常に大変だったんですがキーを変えずにテンポをそろえてからサンプリングする際にもCDJがとても便利でよく使ってました。テーブルトップ型のDJ用CDプレイヤーもPioneerさんが初なんですよね。

渥美 はい。アナログプレイヤーでのDJはテーブルトップでのスタイルなので、CDJなっても同じスタイルで行いたいという意見を多くのDJから伺いました。
さらにディスクの入れ替えもレコードと同じようにお客さんに見せたいとリクエストもあり、天面からCDを入れ、大型ジョグダイヤルで操作するという仕様になったんです。

市原 なるほど、DJとしてもパフォーマンスのまで考えていらっしゃったんですね。
CDでDJできることがあたりまえになった昨今、DJしている方って実際にCDJでCDがどのように再生されているかご存知ない方も多いと思うんですね。例えばスクラッチするとレコードと同じようにCDが前後するんじゃないのか?など(笑)
ですので少しCDJの技術的なお話についてもお伺いしたいのですが。

【DJ用CDプレイヤーの仕組み】

Pioneer CDJ-1000 初代モデル
Pioneer CDJ-1000 初代モデル
(クリックで別ウィンドウで拡大します)

木村 CDって、記録されているのはデジタルなんですが、読み方に関しては結構レコードと似てるんですね。
CDのデータは溝ではなく、スパイラル状にデータが切ってあってレーザーで読み取っているんですが、基本的には一般的なCDプレイヤーは等倍速でリアルタイムに読んで音にしているんです。それがCDJ-50の頃の時代です。あの時代ですと±10%~20%っていうのが可変できる範囲だったんですが、スクラッチが可能となったCDJ-1000の頃になりますと、CDを高速に回してデータを一回メモリに蓄えて、その中から可変速の再生をジョグダイヤルの動きにあわせて処理しています。
例えばDJの方が、いっぱいジョグダイヤルを逆方向にぐるぐる回した場合、機械が「あ、これはすごく後ろのほうに回しているな」と察知してピックアップが後ろの方に動いて、後ろの中のデータを一気に読み込んでメモリに蓄えるという仕組みになっています。これはCDが等倍速で動いている時代だとなかなかできなかったんですけどね。

市原 なるほど、テンポを変えたり、スクラッチができるのは、先読みしてデータをメモリに蓄えておくからなんですね。

木村 そうですね。スクラッチって通常の再生よりも何倍ものスピードになるので、プロのDJの方がどのくらいのスピードでスクラッチするかというところから勉強しまして、スクラッチ負けないスピードでCDを回転させてメモリの中に再生ポイントの前後のデータを書き溜めているんですね。
表側はターンテーブルのような感じですが、内部ではピックアップがあっちいったりこっちいったりと一生懸命データを読んでメモリに書き込んでいます。

CDからは前進あるのみなので、CDに曲を逆再生するということは基本的にはできないんですよ。
ではどうしているかといいますと、マイケルジャクソンのムーンウォークみないな感じで、ピックアップを小区間ずつ戻ってデータを読み取るという方法を繰り返しているんです。後ろに下がって前に行くっていうのを一生懸命繰り返すというイメージですね。

市原 なるほど、かなり難しい技術だったんですね。

木村 そうですね。今では当たり前になってますが、当時はなかなか難しかったと思います。

【CDJもファイルミュージック対応の時代へ】

Pioneer CDJの歴代モデル CDJ-50 CDJ-50MK2 CDJ-30 CDJ-700S CDJ-100S CMX-5000 CDJ-1000 CDJ-800 CMX-3000 CDJ-1000MK2 CDJ-200 CDJ-1000MK3 CDJ-800MK2 CDJ-400 MEP-7000 DVJ-X1 DVJ-1000
Pioneer CDJの歴代モデル
(各プロダクトをクリックで別ウィンドウで拡大します)

市原 CDJ-50が誕生して以来いろんなシリーズがリリースされました。
CDJ-50、CDJ-50MK2、CDJ-30、CDJ-700S、CDJ-100S、CMX-5000、CDJ-1000、CDJ-800、CMX-3000、CDJ-1000MK2、CDJ-200、CDJ-1000MK3、CDJ-800MK2CDJ-400MEP-7000、あと音声と画像をコントロールできるDVDJも忘れてはいけませんね!

そして、この度新しく発売されるのがCDJ-2000CDJ-900ですが、この発表を聞いて、遂にCDJも本格的に音楽データの時代に突入するんだなと、わくわくした気持ちになりました!
USBストレージ内の音楽データの再生についてはCDJ-400から実装されていますが、こういったファイルミュージックをプレイするというスタイルについてはどのぐらいから意識し始めましたか?

渥美 実はCDJ-1000の発売のあたりに、SDカードに入れたMP3を再生できるDMP-555という商品を海外では発売してたんです。DJSというアプリケーションもバンドルしていました。これがファイルミュージックを意識したきっかけになった製品です。

Pioneer DMP-555(国内未発売) Pioneer DMP-555(国内未発売)
Pioneer DMP-555(国内未発売)
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山田 ですからCDJ-1000の開発とタイミングと同じ時期にファイルミュージックのプレイヤーも同時に開発をしていました。

市原 えっ!?そんな前から!?その頃から将来的にDJもMP3などのデータが主流になるだろうと予測されていたということでしょうか。

山田 そうですね。かならず音楽データを使う時代になる、そしてメディアもSDカードが残っていくだろうということを考えていました。

市原 それはすごい!おそらくAPPLEのiPodが発売された頃ですよね。インターネットもまだADSLが普及していなかった頃だと思うのですが。iPodのサイズがすごく大きく、インターネットもダイヤル回線で56Kモデムのテレホーダイ時代(笑)

山田 レコード中心のDJ業界にCDJという新しいスタイルを提案できたのですが、CDが未来永劫ではないと思っていて、メカレスの時代も必ずやってくると。そこの中の選択としてSDカードでしたね。海外向けの製品DMP-555にはCDスロットの上にSDカードスロットが搭載した商品だったんです。

渥美 そしてDMP-555はパソコンとつなげてDJSをコントロールするということもできました。

市原 DMP-555っていう海外用のプレイヤーが発売されていたということはなんとなく知ってましたが、そこまでの機能が搭載されているとは知りませんでした。

山田 CDJ-1000MK2の開発時にDMP-555の機能も入れちゃったら?っていう案もあったんですが、コストや当時のメモリの容量などの問題などもあってなかなか実現には至りませんでした。
当時はCDJ-1000シリーズとMP3対応プレイヤーとDVDJの3つを同時に開発していましたね。

市原 なるほど。MEP-7000CDJ-2000CDJ-900のマルチメディアプレイヤーというアイデアは、最近のDJシーンの流れから生まれたものだと思っていたんですが、そんな昔から開発されていたんですね。すごいです!

一方、DJシーンではRane Serato Scratch LiveやNative Instruments TRAKTOR SCRATCH PROなど、タイムコードが刻まれた専用レコードを使い、時間の情報をPCに送ることで音楽ファイルをコントロールできるシステムが誕生しました。これらタイムコードコントロール技術を取り入れたDJソフトが発表されたときは、どんな感想をお持ちでしたか?

Pioneer CDJ-2000 Pioneer CDJ-900
Pioneer CDJ-2000、CDJ-900
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山田 やっぱり音楽ファイルでDJプレイするという来るべき時代は来たなと思いました。しかし私が一番感動したのは、今までどおりターンテーブルを使うということでしたね。アナログレコードに時間信号を刻んで、それをデジタルに変換してコンピューターを動かすという発想には本当に恐れ入りました (笑)

市原 Pioneer CDJ-1000が発売された頃、海外では今のタイムコードコントロールシステムの元祖ともいえるFinal Scratchが話題になってましたよね。その時はまだ製品化されていなかったんですが。

山田 あの頃ってそういう実験的に試みる方達がいらっしゃいましたが、なかなか時間がかかるものだと思っていたんですが、案外早く商品化されましたよね。

市原 当時の私も、このような技術が一般的に広がるとは考えもしなかったです (笑)。
そして満を持してハードウエアという観点からのファイルミュージックプレイの新しい提案となるCDJ-2000CDJ-900が発売となりました!

【CDJ-2000/CDJ-900のコンセプト】

RecordBox スクリーンショット RecordBox 使用フロー
RecordBox スクリーンショット、使用フロー
(クリックで別ウィンドウで拡大します)

渥美 もともと将来的にCDだけでなくファイルミュージックでDJする時代が来るだろう、いや、すでに来ていると。
レコードやCDなどのディスクからファイルに時代が変わるという中で、我々は何をしなくてはいけなかということを2つ考えたんです。
一つは、「DJにはDJの音楽ライフスタイルというのがある。それではファイルミュージック時代のDJのスタイルにあったものは何か?」
これに関しては、まず楽曲はインターネットでダウンロードしたり、CDからインポートしてパソコンに保存した段階で何かしら管理ソフトが必要になるだろうと考え、Rekordboxという管理ソフトをDJソフトメーカーのmixvibes社と共同開発しました。
そして楽曲がたくさん入っているパソコンをクラブに持っていかない方法はないのか?というところで、Rekordboxを使ってUSBデバイスストレージに楽曲を入れてクラブに持っていくということを実現しました。
さらにクラブで再生した楽曲やリストや、この曲は何回プレイで使用したかなどをデータ化します。そのデータをUSBデバイスに戻して自宅に持って帰り、そのデータを次のプレイに生かすというひとつのサイクルですね。
このサイクルというのはファイルミュージック時代の前のレコードでもCDでも、レコード棚からボックスに整理しながら入れて、人によってはシールを貼ったりとか、プレイリストを作ったりしてたわけで、戻すときは、あの時これかけたよな、と記憶をたどって行っていたところをこのRekordboxではデータで管理することで、今の時代にあったサイクルを今回のCDJ-2000/900で実現しました。
もう一つは「大量の音楽ライブラリを扱い、その中からDJは一曲を選ぶためにあるポイントまで絞り込んでいく必要がある。それをどのように行ったらよいか?」
これは、CDJ-2000のレイアウトと機能で実現しています。
まず大量の楽曲がUSBで供給されます。それにたいしてまずはロータリーエンコーダーで大まかに絞り込んできます。ジャンルでもアーティストでも、それが大型ディスプレイで見えるようになっています。そして一曲を選んだ後、レコードにランダムに針を置くのと同じように、ニードルサーチパッドでどんな曲かを試し聴き出来る。
そしてジョグを使ってCUEポイントを設定するという流れるようなレイアウトと操作を意識し、今回のCDJ-2000/CDJ-900ではDJの音楽ライフスタイルと大量の音楽ファイル、マクロの情報をミクロに絞り込んでいくことを実現しました。

市原 CDJ-2000/CDJ-900を見たときに、音楽ファイルを再生することに関しては、この時代当然の流れだとは思っていたのですが、DJの音楽ライフサイクルをサポートするという仕組みが素晴らしく、本当に感動しました。すごい企画力ですね!

渥美 普通商品企画というと、ある機能や技術があるからこういう商品を作ってみようとなりがちじゃないですか。
それよりもDJの方が何がやりたいのか、なにが欲しいのかというのが上段にあるはずだと思うんですね。
まずはそこを実現しなくてはいけないなと思ったんです。

市原 いや、ホントですね。音楽ファイルを扱うときにDJが一番苦労しているところだと思うんです。大量に音楽を持ち歩けるんだけど曲がありすぎて、自分がかけたい曲が見つけにくかったり、いままではレコードで扱えたのでジャケットやラベルで視覚的に曲を選べたのが、急に曲名やアーティスト名で選ぶようになるとこれがストレスになったりするんですよね。それは本末転倒じゃないか、だったらアナログレコードでいいじゃんていうDJも多くて、それがデジタルDJの導入を躊躇する要因でもあると思うんですね。今でPioneerさんから発売していたCDJ-1000MK3、CDJ-800MK2CDJ-200CDJ-400といったMP3対応プレイヤーは、あくまでもCDでのプレイがメインだったと思うんですが、このCDJ-2000/900ではデータもCD同様に重点を置かれた商品であると感じました。
DJに音楽ファイルを使わせるんだったら、機材側がここまで準備してあげなきゃダメだ!っていう意気込みがひしひしと伝わってきますよ。
こういった製品の仕様は出来上がる前にすべて決めてしまうものなんでしょうか?

Pioneer 木村氏 Pioneer 梶ヶ谷氏
上からPioneer 木村氏、梶ヶ谷氏

木村 はい、仕様を決めた後に何回も変更することはあります。
やはり想像の世界に近いものを作るので、作って動かしてみるとダメじゃんっていうことが結構あって、途中でひっくり返ったりとか。CDJ-50の開発の頃は全部で10人ぐらいだったんで、自分で作りながら仕様を決めていたんですけど、今回のプロジェクトにかかわっているのはものすごい人数になっているんで、分担してやっています。

渥美 一回ソフトウエアでも全体の形でも出来上がった時点ですぐに業界やDJの方に、見せてコメントをいただくんです。一番最初はボロクソに言われたりするんですが(笑)、それを何回かやるんです。そしてまた直して試していただいて意見をいただくというのを量産するまで何回もやると。そして完成度を高める。だからエンジニアは大変ですね。その都度もう一回やり直しっていうこともあって(笑)

梶ヶ谷 良い意味で手戻りというのを技術に説得しながらやっていきますから、それなりにモチベーション高めてもらいながらやるというのが大変ですね。

市原 CDJ-2000を開発するあたって、当然いろいろな苦労をされたとは思いますが、どのあたりが一番難しかったですか?

梶ヶ谷 特にブラウジングする部分は難しかったですね。今までMPE-7000の経験もありましたが、画面の構成はどう動いたらいいのかとか。あとは一つのメモリだけでなくネットワークを通した隣のプレイヤーからどう見えたらいいのか、コンピューターと繋いだらどんなことができたらいいのかなどですね。

市原 LAN ケーブルで繋いで一つのUSBメモリを2つのデッキで共有するという規格はすごく便利ですね。
今までのプレイヤーでは、音源がデータなのに2つのデッキで使用するためには2つのUSBメモリが必要なのはデータプレイヤーとしての便利性を活かしきってないと感じてましたので。

山田 そうですね。これはずっとやらなくてはいけないなあという使命がありましたのでね。

渥美 DJのみなさんはレコードでもCDでも一つのライブラリから2つのプレイヤーで演奏するわけなので、これがファイルミュージックに変わったからといって、変わらないと思うんですよ。
そこはなんとか一つのライブラリでできるというのが、今回のLANケーブルを使ったリンク機能なんです。

市原 その他にここがポイントだということがあればお伺いしたいのですが。

渥美 CDJ-2000に関してはクラブの現場に設置していただくということを想定しています。
ですからある意味オールマイティに対応できなくてはならない。そのためにseratoやTRAKTORなどのコントローラとしても対応しなくてはならない。そして我々独自のRekordboxを使ったファイルミュージックのDJプレイというようにいろんなDJのスタイルに対応していったというところもポイントです。

山田 名前はCDJっていう型番なんですが、CDだけじゃないのになぜCDJなのっていうところもありますが、マルチプレイヤーという意味でいろんなスタイルの方の要望をクラブのブースに置かれた機材としてマルチに応えたいというのが一番のポイントですね。

市原 そういった意味でとCDJ-1000MK4、CDJ-800MK3という名前にならなかった理由でしょうか?

山田 そうですね。CDJという型番も違うものにしようかという議論もあったんですけど(笑)。

【MEP-7000/DJM-5000のコンセプト】

Pioneer MEP-7000 Pioneer CDJ-900
Pioneer MEP-7000、DJM-5000
(クリックで別ウィンドウで拡大します)

市原 やっぱりCDJ-2000/CDJ-900 はその前に発売となったMEP-7000の技術も反映されているんですよね。

梶ヶ谷 そのままそっくり実装されているというわけではありませんが、あれを開発した時のノウハウは反映されていますね。

市原 MEP-7000DJM-5000あわせるとすごく使い勝手がよいプレイヤーになりますね。単体だけだとオーディオインターフェイスは別で用意しなくてはいけなくなるのですが、オーディオインターフェイスが搭載されたDJM-5000を組み合わせることでDJソフト「DJS」、CD、USBストレージの音源を縦横無尽にプレイできるところが素晴らしいです。

梶ヶ谷 オーディオインターフェイス機能をプレイヤーに入れるべきか、DJミキサーに入れるべきか、または両方に入れるのか議論はずっとあって、いろんな答えがあるのかもしれないんですけど、やっぱりシステムで答えを出したいというのがあってそう意味ではMEP-7000DJM-5000を同時にリリースしたかったんですけどね。

市原 DJM-5000はPHONO端子が搭載していないという潔い仕様です。

山田 ドキドキのジャッジではあったんですけどね(笑)。
こちらの商品は日本とは市場が違い、アメリカのモバイルDJ層の要望に応えるためのラックマウント式DJミキサーで、モバイルDJという、いろんなパーティ会場に出かけてDJをする職業の中ではターンテーブルはほとんど必要としないのが現状のため、このような仕様になりました。

市原 最近の海外の他入力DJミキサーにもPHONO端子がすべてのチャンネルに搭載されていないことが多いですね。4チャンネルのうち3チャンネルにしかPHONO端子が搭載されていなかったり。

山田 PHONO端子の有無に関しては非常に議論しまして、もともとCDJを開発した時、我々はアナログレコードを否定しているわけではなく、むしろアナログレコードのDJのあのスタイルに対してリスペクトを持っているんです。それをあえてモバイルDJ層にあわせるためにPHONO端子を外すというのは非常に重い決断でした。なかなか日本のお客様から見た場合、そのあたりをどのようにみられるかが不安ではあったんですが。我々としては決してアナログなんてなくたっていいじゃないという気持ちではなく、アナログレコードは大切な存在であると考えているのです。

市原 そういった意味でもDJM-5000はモバイルDJやPA用のミキサーとしても使えるような仕様になっているからマルチエンターテイメントミキサーという名称になっているというわけですね。

山田 はい、そうですね。

市原 エフェクターはマイク用、各チャンネルには外部のエフェクターが使用できるようにSEND/RETRUNが搭載されているというユニークな設計です。

山田 DJM-500の時代からDJミキサーをやってますので、そこのコンセプトを明確に変えていくというのは社内でもいろいろ議論しました。

市原 その他にもUSB経由でステレオ3系統の入力ができたり、曲の音量を下げずにマイクの声をよく聞こえさせるトークオーバー(ADVANCE)機能というのも新しい発想ですね。

山田 日本の場合はDJミキサーに対するマイクチャンネルの需要性は感じにくいかもしれませんが、海外ではMCであろうが司会であろうがやっぱりマイクをつかったエンタテイメントとして食っていくというのは日本人以上に大切に思ってますから。

【DJMシリーズ/EFXシリーズの歴史】

Pioneer DJM-500 Pioneer DJM-600
Pioneer DJM-500、DJM-600
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市原 DJM-5000も遡ればDJM-500が原点ということになりますが、DJM-500が誕生した時のサイズは縦型ですよね。

渥美 はい。当時の多入力のDJミキサーはラックマウントが主流だったんですね。DJのパフォーマンス上どうしても幅をコンパクトにしたい、自宅においても場所がとれない状況で、プレイヤー2台とミキサー一台でなるべくコンパクトにしたいということで縦型にするようにしたところが始まりです。

市原 このDJMシリーズもハウスやテクノにおいては定番になりましたね。最近ではオールジャンルのクラブにもDJM-800が置かれるようになってますし。

渥美 DJM-600でどんどん市場に支持されていき、DJM-800でようやくスタンダードになったという感じはします。手前味噌ですが(笑)

市原 DJMシリーズは本当に使いやすいです。
今では僕もDJM-600からDJM-700と自宅のDJミキサーを買い換えていますが、特にエフェクターの操作がとても気に入ってます。BPMを検出して、そのビートにあわせたエフェクトをかけられるというのが発売当初から画期的でした。そのエフェクト機能を単体機にしたのがEFX-500EFX-1000なんですが、これも現場でうまくエフェクトを施すためにユーザーインターフェイスが工夫されていて当店でも人気があります。

Pioneer EFX-500 Pioneer EFX-1000
Pioneer EFX-500、EFX-1000
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山田 EFX-500はもう発売されてもう10年になりますね。CDJ-100Sと同時に開発していました。

渥美 初めにエフェクトを搭載したDJM-500を発売し、DJM-600でさらに進化し、エフェクターに関して好評をいただいたので、なんとか単体化できないかという発想で生まれたのがEFX-500です。ちゃんと単体化するためにはパフォーマンスできるようにしようということでBEATエリアとJOGエリアを分けています。

市原 他のメーカーからもいろんなエフェクターが発売されているのですが、DJM-500EFXシリーズはエフェクターを使うときに現場で失敗しにくいと思うんですね。
ダイヤルを回せば音が変わる、ビートのボタンを押して設定すればディレイタイムがちゃんと計算されるとかやっぱり使い勝手がいいですよ。現場にあると安心します。
DJMシリーズは一通りDJM-800で完成されたように感じるんですが、今後どのようになっていくのでしょうか?もちろんいろいろ考えていらっしゃるとは思いますが(笑)

山田 我々はDJの方にとってのミキサーの存在というのが、当初理解できなかったんです。
楽器を弾いたり、歌を歌ったりというパフォーマンスに対して、完パケの曲を使って演奏するという概念を最初は理解できなかったんですよ。言い方悪いかもしれませんが人の作った曲をかけているだけじゃないって(笑)
そういった単純な見方があったんですが、そのうちにだんだん考え方が変わってきました。
たとえばクラシックの曲は同じ楽譜でも指揮者一つで音楽が変わってくる、そういった当たり前の世界に対して、DJって楽曲をその場でリアルタイムに演奏しているんだなと理解した時に演奏の楽器としてのミキサーの役割が非常に大きいと。音量のバランスを取るという概念はあったんですが、ツマミをただ回したり、フェーダーを上げ下げしているだけでっていうわけでなく演奏だという概念を勉強させてもらってからじゃ楽器としてみた場合DJのミキサーっていうのはまだまだ進化できるんじゃなかっていうのはずっと思います。今発売されているDJミキサーは実は15年前にフォーマットなんですよ。DJM-500の時に最適にどういうレイアウトをしたらよいかを渥美が企画をしてきた部分なんで、そのフォーマットの良さを守っていくべきところは守っていくんですが。やっぱり新しい演奏、今の時代、これから数年後にどういう演奏をDJの方ができるかっていうところにミキサーが何ができるかっていうのが重要だと思うんですね。なのでかならずチャレンジをしていこうと考えています。

市原 そういった意味でもDJM-909は今までのDJMシリーズとはまったく違ったアプローチですよね。

Pioneer DJM-909
Pioneer DJM-909
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渥美 そうですね。オールジャンルで使っていただくことを目指していたんですが、やはりDJM-700800を使っているDJの方はハウス/テクノ系のDJの方に偏りがちなので、ヒップホップ系、スクラッチ系のDJの方にも使っていただけるようなDJミキサーを目指したのがDJM-707、DJM-909です。

山田 バトルDJの方がアナログのターンテーブルとシンプルなDJミキサーで演奏されているところを見た時にターンテーブルも叩きゃ、針まで触っちゃうし、針をレコードのレーベル面の上に乗せてノイズを出すなんていうのは私は大感動しまして(笑)、実際に擦って音を出しているというのはバイオリンと同じじゃないかって思ったんですが、その中にエフェクターを持ち込むのは抵抗があったんですよ。
とってもシンプルな機材の中にスキルで演奏されているところに、まるでバイオリンの中にエフェクターを入れて良いのだろうかぐらいな気持ちがあったんですが、一つ違うなと思うのが、DJの方って時代によって音楽でいろんなことにチャレンジしているんですよね。だからそれはもう思い切ってやっちゃおう!と。2チャンネルミキサーで我々らしいエフェクターをつけてみようということになったんです。

市原 各チャンネルにエフェクターが搭載して、フェーダーでパラメータをコントロールするというのはものすごく画期的でした。DJ CO-MAさんのDJM-909とCDJを使ったパフォーマンス動画はご覧いただけました?

山田 はい、あれを拝見したときに本当に感動しました(笑)。

渥美 我々が触ると単なる機械なのが、ああいうDJの方が触ると生き物のように動いていくのが驚きました。
本当うれしい限りですよね。

市原 48~50番のフェーダーシンセサイザーの音色でタッチパネルでキーを変えながらフェーダーでも音程を変えて新しいメロディーを作るという発想は僕も驚きました。ああいう使い方は想定されてました?

渥美 いいえ、アイデアレベルでこういう音が出せればいいなあというのはあったのですが、まさかあのように我々想定外の演奏方法をされるというのはうれしいです。

市原 私もあの動画を見て改めてDJM-909の凄さを再認識しました。DJミキサーはやっぱり楽器なんだなぁと。

山田 DJの方がツマミ一つ回すのに、いろんなスタイルがあるじゃないですか。何気なく回している方もいれば、ものすごくオーバーに回る方もいらっしゃいますし。最初はやっぱり理解できなかったんですよ(笑)。でもギタリストがチョーキングを一つするときにいろんなスタイルがあるじゃないですか。あれと同じでなんだなと。

市原 そうですね。腕をぐるぐる回しながらギターのカッティングしたりするのと同じようにDJミキサーを操作するのもパフォーマンスの一部なんですよね。

渥美 DJM-600のツマミはプラスチックだったんですが、そういったことも考えてDJM-800ではゴム素材にして摘みやすくしたりと、マーケットから教えられて商品に反映することも多いですね。

【Pioneer DJの今後】

インタビュー風景 2

市原 今後もPioneerさんがDJ機材メーカーとしてリードされていくと思うんですが、DJ文化はどうなっていくと思われますか?

山田 レコードの時代にレコードに直接手を触れて演奏するということを発見してそうやって作ってきたDJの文化というのは、これはすごく奥が深いと思うんです。そして演奏すると共にダンスする「ダンスミュージック」という文化。
この2つの事柄というのは止まらないと思うんです。ダンスというのはやっぱり古代から人間のDNAにプログラムされているものだと思うし、音楽に対して何か表現をしたいという気持ち必ずあるじゃないですか。
だから進化は止まらないと思ってて、例えばギターはやっぱりずっとあの形だと思うんですが、DJの場合は、ターンテーブルで回したり、CDJで回したり、PC使ったり、ポータブルデバイスを使ったり、その時に応じて演奏するインターフェイスが変わる。これは他の楽器と大きな違いだと思うんですよ。
ということは、我々はずっとCDJじゃないと思うし、ずっとDJMじゃないと思うんですよ。

だからダンスミュージックというジャンル、そしてDJのパフォーマンスというのは、必ず進化していくことがこのカルチャーの素晴らしいところですので、それをなんとかサポートしていきたいっていうのが我々のコンセプトですね。
何か人を真似をすることではなく、パイオニアという社名どおり必ず一歩先をお客様に提供して、やがてそれで新しい演奏方法が生まれたらいいなと思ってます。なかなか具体的にこんな機材を作ってますって言えないんですけど(笑)。ゴールがないところがDJ文化が素晴らしいところかなと思います。

市原 そうですね。私もそういう点がクラブミュージックにハマったきっかけでもあります。クラブミュージックは楽器を演奏できなくても、こういう作品が作りたいという思いがあれば、アイディアしだいで形にできるところが魅力的に思いますね。だからミュージシャンというよりはプロデューサー的な発想でしょうか。

山田 現実今の音楽業界もDJ出身の方がプロデュースされているケースって多いですからね。

市原 逆にバンドの場合は、まずそれぞれの演奏技術を高めることがまず前提で、一緒に音を合わせてさらに協調性を高めていくっていう感じでしょうか。
とは言ってもDJまたはバンドでカテゴライズするのはもう時代遅れかもしれませんが(笑)

山田 我々もよく議論するのですが、ファイルミュージックという時代に楽曲の数って一生かかっても聴けないぐらい膨大にありますよね。それはDJにとっても個人にとっても。その中からどういうものが素晴らしいのかを選び出して、そして今どうやってかけるかという重要性はもっともっと高まると思うんですよね。

市原 リクエストに応えて皆が知っている曲をプレイして楽しむというのも一つのDJとしてのあり方だと思いますが、みんなが知らない素晴らしい曲を自分の感性で見つけ出してプレイするということがDJの醍醐味だと思ってるんでいかに見つけやすくするかというがポイントになってくると思いますね。
渥美さんはいかがでしょうか?

渥美 そうですね。やっぱり皆さん何かの魅力を求めてDJを始めるんだと思うんです。
ひょっとしたらそれは自分がヒーローになれるかも?とか異性にモテるかもしれないしとか(笑)
彼らがどんなことをやりたいかというところを実現できるようなハードを作ってサポートしていきたいと思います。
あと、ダンスミュージックは進化がものすごく速いですよね。そういったところでどんどん新しい音楽やスタイルが出来てくる。新しいスタイルを作るのは我々が提案するところかもしれないですね

市原 今日は、とても勉強になるお話をうかがうことが出来ました。あと皆さんのものづくりに対する情熱と発想力というも感じましたし、おそらく私を含め、Pioneer DJシリーズを愛用されているユーザーの皆さんは、益々愛着が湧くのではないかと思います。ありがとうございました!(了)

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