ホワイトハート「魅了し続ける赤」

17世紀頃からベネツィアで作られるようになったこのビーズは、幾多のビーズの中でも特に求められ、愛されました。

アンティークビーズのホワイトハート

ホワイトハートと呼ばれるビーズ

ホワイトハート/White Heartと呼ばれるビーズがあります。17世紀頃からベネツィアで作られるようになったこのビーズは、同じく交易品として世界中に運ばれた幾多のビーズの中でも特に求められ、愛されました。その強い人気は今でも変わることはありません。

ベネツィアは当時、ガラスの製造の中心地でありました。ベネツィアの美しく色鮮やかなガラスビーズは世界中で象牙、毛皮、香辛料などと交換され、ベネツィアに莫大な富をもたらしました。

しかし、新航路の発見は、東方貿易で栄えたベネツィアの地理的優位性を薄れさせ、オランダやチェコなどのガラス新興国の発展は、ベネツィアのガラス産業に大きな打撃を与えました。

ベネツィアンガラスがかつての栄光を失った現在でもなお、ボヘミアングラスの名で有名なチェコでホワイトハートは生産され続けています。

ベネツィア、サン・マルコ広場

名前の由来

ホワイトハートの名の由来はその特色ある色の使い方にあります。
このビーズは色の異なるガラスが重ねられた2層構造になっています。内側に不透明の白のガラスが使われ中央部分が白くなっていることがホワイトハートと呼ばれる由縁です。
白のガラスを中央に入れる理由は、赤のガラス単独よりも、赤を白の上に重ねた方が色が際立ち、鮮やかさが増すからです。
ホワイトハート以前には、緑の芯のグリーンハートと呼ばれる光沢のない赤のビーズが作られていましたが、次第に緑は白に取って代わりました。
外側に使われるガラスの色は赤、オレンジ、黄色と各種ありますが、圧倒的に赤に人気が集中しています。
赤は特に「レッドアンダーホワイト」とか「ローズホワイトインサイド」という名で呼ばれることもあります。

修道院のステンドグラス – Wikipedia

魅了し続ける赤

赤は陽の色、火の色です。赤の呼び名に「緋」という言葉もあります。
暗闇の中にゆらめく焔の赤や、夜明けの地平線を染める日の出の赤は、神秘や畏怖を感じさせます。
体に流れる血は赤色であり、生命力を表し躍動的な色です。
ホワイトハートの美しい赤は見る者を虜にし、全世界で熱狂的に求められました。その人気の高まりから、生産地はベネツィアの他に、同じく交易ビーズでベネツィアと競い合ったオランダ、チェコが加わりました。

北岳から間ノ岳の稜線から望む日の出

世界中へ

これらの地で作られたホワイトハートは海を越え、古代からの交易路を伝って世界各地へ運ばれました。
ポルトガル商人の手により、喜望峰航路を回ってアフリカの各地の原住民の褐色の肌に彩りを加え、オランダ商人によって大西洋を渡り北アメリカのインディアンたちの胸を飾り、イスラム商人の手でシルクロードを伝いインド、東南アジアの各諸島へ運ばれ、儀礼や婚礼時の装飾品になりました。
ホワイトハートは産地や時代によって同じ赤でも微妙に色や形が異なっています。
インドとビルマの国境付近に居住するナーガ族、かつて首狩り族として恐れられた彼らの装飾品に使われていたホワイトハートは、やや角ばった円筒形で、芯の白のガラスが厚く、外側の赤のガラスが薄いための鈍い赤色をしています。
ニューギニアのイリアンジャヤ原住民族のホワイトハートは、丸っこく肉厚で、赤黒い血のような色をしています。

ベネツィア、海に通ずる水路を行きかう船

時代を超え魅了し続ける

こうしたホワイトハートの装飾品は父母、祖父母から代々伝えられ、子々孫々に受け継がれています。
経年変化によって、色は深みを増し、100~200年という長い歳月で生じたシミやヒビなどが時の流れを教えてくれます。
持ち主が代わってもホワイトハートは愛され、大切にされてきました。いつの時代もホワイトハートの美しい赤は人を引きつけて止みません。
きっとあなたも。

色とりどりのビーズで首元を装うカレン族の老女