このページはバックナンバーです。(2005年5月31日発行)

松竹東映映画編 第3回

 和30年代、東映映画のスクリーンを中心に活躍した美空ひばり。その魅力は、卓抜した演技力と絶妙の呼吸。そして、やはり歌につきるだろう。時代劇でも現代劇でも、その歌唱シーンは映画のハイライト。最新のロックンロールもひばりにかかれば、立派な時代劇の挿入歌となる。その一見ミスマッチ、実はベストマッチを狙っていたのが、ひばりサウンドの牽引役となった作曲家の米山正夫。自在のオクターブを持つひばりに、最新のリズムや音楽的冒険の楽曲を仕掛けていった米山サウンドは、ジャパニーズポップスの源流でもある。

 えば、ひばりの芸能生活十周年を記念して作られた『花笠若衆』(58年)。大川橋蔵競演の「お嬢吉三」ものであるが、男伊達の吉三、実は美貌の雪姫という男装の女剣士というキャラクターに扮したひばりが唄う挿入歌が素晴らしい。この映画が作られた昭和33( 1958)年というのは、空前のロカビリーブーム。というわけで、最新のロカビリーをフィーチャーした「ロカビリー剣法」を実に気持ち良さそうに唄う。このシーンは何度観てもホレボレする。時代劇というアナクロな世界に、ロカビリーという最新をフレーバーする。なんでもありのようでいて、実に周到な計算が伺える。

 とほどさように米山正夫による映画主題歌、挿入歌は楽しく、音楽的な実験精神に満ちている。それに応えてスタンダードにしてしまうひばりの歌唱力と表現力! 東映東京撮影所製作の現代劇『希望の乙女』は、やはり昭和33年の芸能生活十周年記念作品だが、こちらはハリウッドミュージカルもかくやの音楽劇。相手役は若き日の高倉健。なんと健さんがサックスを吹く! その主題歌として劇中唄われる「歌声は虹の彼方へ」の素晴らしさ! ジュディ・ガーランドの『オズの魔法使』の「虹の彼方」を意識したことはイントロでもわかるが、その伸びやかな歌声は、実際の映画のスケールを越えて、さらに観客にゴージャスな印象をもたらす。これぞニッポン・ミュージカルが生んだ最高のスタンダードナンバーの一つのような気がする。

佐藤 利明(娯楽映画研究)
 

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