このページはバックナンバーです。(2005年3月14日発行)

美空ひばりと日本のジャズ(第2回)

 ャズ・ブームの終焉以後、演奏物ではモダン・ジャズが主流となり、スタンダード・ジャズは時代の波に呑み込まれていった。ヴォーカルの世界でも、その後多くのジャズ・シンガーが世に出るものの、ひばりを超えるほどの逸材は輩出されていない。実は専門の分野よりも、歌謡曲系シンガーにその後継者が見られたりもするわけで、その顕著な例が弘田三枝子である。デビュー時から天才と呼ばれていた点も似ている。ポップス・シンガーとしての役目を一通りこなしたであろう彼女は、今実際にジャズやR&Bの世界に身を置きつつある。長らく日本のジャズは、海外のそれに比べると決して恵まれているとはいえない状況に置かれてきたと言わざるを得ない。ところが、今、多様化するメディアの中で、ジャズは改めて脚光を浴び、多くの人材が育っていることに刮目したい。そのことは、現在コロムビアのジャズ・レーベルに籍を置くアーティストの顔ぶれを見ても明らかである。

 70年代から、日本のフュージョン・シーンを牽引してきた、ベテラン・ギタリスト渡辺香津美を筆頭に、ピアノ・キーボード奏者だけでなく、作・編曲やプロデュースまでを幅広く手懸けるクリヤ・マコト、さらに日本人初の国際コンクールの優勝者である、サクソフォンの平野公崇、女性ではピアノのアキコ・グレースやアルト・サックスの矢野沙織ら、実力派の若手が後を絶たない。ヴォーカリストでも、ラテン系を得意とし、ポップスもこなすmayaなど、将来のジャズ界を担ってゆくであろう人材が群雄割拠状態。彼らは皆、美空ひばりの遺伝子を受け継いでいると言っても過言ではない。

 空ひばりがもし生きていたら、必ず才能溢れる彼らとの共演を望んだに違いないと思う。好きな音楽を好きなだけ聴いて歌える現在の幸福な環境を活かし、日本のジャズ・シーンにさらなる活況が促されることに期待したい。

鈴木 啓之(音楽評論家)
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