このページはバックナンバーです。(2005年5月10日発行)

ポピュラー・ミュージックの女王・美空ひばり その2

 「お祭りマンボ」が好評を得たことで、翌28年に「チューチューマンボ」、29年には「江戸っ子マンボ」と、原六朗作詩・作曲によるマンボのオリジナル・ナンバーが生まれている。そして氏の作品でもう一曲、後世に残るヒット曲となったのが、30年の「素適なランデブー」だ。ひばり・チエミ・いづみの三人娘が初共演した、東宝映画『ジャンケン娘』の主題歌。これも聴く者を楽しくさせる、明るく軽快なナンバーだった。ちなみにランデブーとは、今で言うデートのことである。なんとも夢のある時代であったと思う。

 し戻るが、初の洋楽カヴァー・レコーディング曲となったのが、28年の「上海/エルチョクロ」と、同時発売の「アゲイン」で、予想以上に素晴らしいそのフィーリングにはファンはもちろん、周りのスタッフも驚かされたことだろう。やはりジャズ・ソングを歌ってデビューした同年代の江利チエミと雪村いづみの登場が少なからず影響をもたらしたであろうことは想像に難くないが、本来ポピュラー音楽好きだったこともあり、この新路線開拓は歌手・美空ひばりにとって非常に幸福な出来事であった。

 じ年、非常に興味深い洋楽のカヴァーがある。「ゆうべはどうしたの」とのカップリングだった「チャルメラそば屋」がそれ。ひばりのレコードの中でも指折りのユニークなナンバーで、颯爽と歌われる原語の英詞部分とのギャップが妙に格好いい。ここまで異訳するとほとんどオリジナルといってもいい位で、同じ頃「ユー・ビロング・トゥ・ミー」を「レディス&ヂェントルメン&おとっさん、おっかさん」にしてしまったトニー谷に匹敵する。かと思えば真摯に取り組んだ名唱「スターダスト」もありと、実にヴァラエティに富んでいた。

 29年で特筆すべきナンバーは、米山正夫の傑作「日和下駄」。和風の題材ながら、曲はかなりアップテンポのリズム歌謡で、相変わらず隙のない完璧な歌唱を聴かせてくれる。(第3回(5月16日発行予定)に続きます。お楽しみに。)

鈴木 啓之(音楽評論家)
 

「美空ひばりとジャズの世界」ほか、バックナンバーリストはこちら>>>
昭和ひばりパノラマ館バックナンバーリストへ



COPYRIGHT (C) Columbia Music Entertainment, Inc. All rights reserved.