前回において、ステロイド(抗炎症薬・免疫調整薬)を使用しないアトピー性皮膚炎の治療方法をお話しさせていただきました。
薬に頼らないとお話させて頂いていますが、これらの治療方法においてももちろん薬を使用しています。
しかし、それ以外の治療方法と受け止めて頂いても差し支えがないと思っています。
親御さんがステロイドを使用するにおいて躊躇(ちゅうちょ)されたり使用を差し控えたいご意思がある場合、 あるいは、ステロイドの使用量を極力少なくしていきたい場合などに有効ではないかと思われる治療法であるとご理解いただきたく思っています。


これからお話しさせていただく治療方法は、ワンちゃんネコちゃん一人一人、様々な結果が出るように思います。
非常に良い効果が出る場合から、これといって効果が表れない場合など様々な結果があることをご理解いただきたく思います。
それぞれの効果の有無には、親御さんと獣医師が密に話し合い、どの治療方法を選択するのか、またどの組み合わせを用いるのかなど、あるいは希望された治療方法の効果がどの程度であるのか、それを見極めるのに必要な期間はどれ位であるのか。
もちろん、有効性だけではなく有害事象においても(ステロイドではなくとも薬である以上)獣医師は細やかなインフォームドコンセント※における話し合いがなされるべきだと思っています。
私自身これらの治療方法は、行うにあたって十分な有用性があるものと思っているところからお話しさせていただきたいと思います。

※インフォームドコンセントとは・・・
獣医師(医療者)から病状や症状などを十分に説明を受け、治療方法や治療における起こりうる副反応(副作用)、 治療後の行わなければならない生活、医療行為などについてワンちゃんやネコさんの親御さんが十分に、あるいはそれ以上の説明を受けた上で理解し、親御さんが自らの意思に基づいて今後の治療などを同意していただく、獣医師の義務的行為で、最も大切なのは親御さんは、わからないことや確認したいことがあった場合聞きにくいこともあろうかと思いますが、納得のいくまで質問する。どんなことでも質問することだと思っています。親御さんにはそれらの権利があるのですから。 また、獣医師は親御さんに対し、治療などの選択肢がより多く持てるよう知識を深め、親御さんから質問されやすいような状況を作るべきだと思っています。




�／�事療法
食物アレルギーにおいて、アトピー性皮膚炎を併発合併していることも少なくないとされています。
アトピー性皮膚炎における症例の中には、単独ではなく食物アレルギーを合併している場合が少なくないという報告があります。
季節や時期に関係なく一年を通して痒みを生じるのが食物アレルギーで、食べている食事の中の蛋白質がアレルゲン(アレルギーの元)となり痒みを生じるため、アトピー性皮膚炎との類症鑑別(見極め)が必要とされているぐらいです。
通年に見られるアトピー性皮膚炎においては特に重要となってくるものと思われます。
そのため、除去食試験(食物除去試験)を行うことにより、アトピー性皮膚炎の症状が緩和されることもしばしばみられるのもうなずけることかと思っています。
アトピー性皮膚炎は食餌療法で完治するものではありませんが、投薬の軽減や痒みや発症の軽度化に役立つものと確信しています。
では家庭でどのように除去食試験を行うのでしょう。
除去食試験(食物除去試験)とは、
これまで食べていた食事やおやつなど、口にしていたものを取り除くというものですが、単純にこのフードを食していたので他のフードに変えるものではありません。
なぜならば、蛋白質がアレルゲンとなるため、他のフードに同種の蛋白質が含まれていれば除去食試験にはならないからです。
いわゆるここでいう除去食試験とは、これまで食べていた食事やおやつ、口にしている物(スポーツドリンクやエナジードリンクも含め)に含まれる蛋白質ををすべて取り除いた物のみを与えることになります。
ここからは、獣医師と細かく細かく話し合いを持たれ、細かく細かく分析する事から始まり、親御さんにとっては本当に大変な事と思います。
少しでも良くなって欲しいとの事から、心を鬼にならなければならない場面も少なくないと思いますが頑張っていただきたく思っています。
いつも食べていた物が欲しくて、変えた食事をしばらく食べない。何日も何日も。
おやつを欲しがって仕方がない。それで根負けしてしまう。少しならいいだろうという気持ちが湧いてくる。
おじいちゃんおばあちゃんやお子さんなど、周りの方が知らない所で色々あげてしまう。
わが子の為と思い、心を鬼にする場面かもしれません。
そしてあるいは、獣医師から自宅食(手作り食)の提案がある場面もあるかと思います。
この場合も本当に親御さんのお手数になるのも重々理解した上での事だとご理解いただきたく思っています。
しかし近年、蛋白質の特定や自宅食(手作り食)のレシピが難しいことから、楽な方法へ移ってきているようです。
その方法とは、アレルゲンフリーフードの存在にあります。
このフードはアレルゲンとなる蛋白質を加水分解することでアレルゲンとならないように加工したもので 栄養的にも問題のないように作られています。
このフードとお水だけを与えておけば除去食試験ができる。ということになると思います。
裏を返せば、食物アレルギー単独の疾患においてはアレルゲンフリーフードとお水のみを与えれば・・・
ということになるように思います。
が、それだけでよい症例は少ないようにも思っています。
その辺が獣医師とのコミュニケーションではないでしょうか。

いずれにせよ、除去食試験は少なくとも3ヶ月前後、あるいはそれ以上の月日を費やさなければならなく、その間に定期的に獣医師との面会が必要になるように思います。
症状(痒みなど)が軽減し、功を奏した場合には、その後様々な方法をもって行わなければならないことが続くと思っていただいても良いかもしれません。

ここでお話しさせて頂いたのは、ご自宅で行える方法としてお話しさせて頂いています。
血液検査におけるアレルギー試験などは記載していないことをご了承ください。



��内臓脂肪の軽減(肥満における減量)
肥満における皮膚抵抗力(皮膚バリア機能)の低下が人において報告されています。
また、内臓脂肪の蓄積(メタボリックシンドローム)がアトピー性皮膚炎に悪影響を及ぼすとの報告もあります。
最初にお話しさせていただきますが、
犬におけるアトピー性皮膚炎と肥満(内臓脂肪の蓄積)との因果関係においては明らかにされておらず、それらの報告も耳にはしていないことをご承知ください。
ただ、私が診察させて頂いた子たちで、減量された子に痒みの軽減やアトピー性皮膚炎の発症頻度の低下が認められたお子さんが少なからずともいることも事実だと理解していただければ幸いに思っています。

当初お話しさせて頂いたように
アトピー性皮膚炎は可能性にかけて苦慮しなければならない疾患であることに尽きると思っています。
その中で、人における研究や報告においてアトピー性皮膚炎の誘発悪化要因と肥満との因果関係が指摘されている中、減量された犬のアトピー性皮膚炎の症状軽減を目にしている以上、考慮すべき一つではないかと思っています。


次回も引き続きお話しさせていただきたく思っています。