今からお話しさせて頂く事は、嘘のように思われるかもしれませんが、
[本当にあった怖いお話]です。
季節に関係なく、 通年起こりえる事だと思いますので、ご注意して頂きたくお話しさせて頂きます。

受付からの親御さんのお話しとしての記述を見ると、
数日前より嘔吐と水様の下痢が止まらず(上げ下し)
食欲廃絶(食べない)運動性が無く寝た状態(元気が無くぐたっとしている)との事。

急を要すると思い※、すぐ診察室に入って頂き、親御さんには問診(親御さんにお話しをお伺いする)をさせていただく前に検査の必要性や血液を採らせて頂く診断的意義をお話しさせて頂き、
同意を得た上、検査に供する血液を採り問診へと移らせて頂きました。
もちろん、血液を採らせて頂くと同時に血管を確保し、静脈点滴を即時出来るようにしてあるのは言うまでも無いと思っています。
(治療を行うかどうかも親御さんの同意を得たうえでの事です。)
※なぜ急を要すると思ったかや、静脈点滴の必要性があると思ったのかなど、疑問も多々あろうかと思いますが、
以下のお話しにおきましても今回は大まかなお話とさせて頂き、注意して頂きたいとの思いにとどめさせて頂きます。




そして問診における親御さんの内容としては、色々お話しをお聞きしましたが、
「暑くした覚えも無く、食事もいつも通り、散歩も気を付けているが何も問題は無かった。」
一言でいうと「上記に挙げた疾患になりえる状態は無かった。」というお話でした。
そうこうしているうちに血液検査結果が随時手元に届き始め、
脱水や電解質異常などはいうまでも無く、懸念していた結果が次々と出てきます。
例えば、劇症肝炎に近い結果や、腎障害に類似する結果などですが、時間も経っていることから、結果としては二次的な結果が多いものと推測されました。
その為、尿毒症性肝炎などの結果に対しての診断を付ける事が出来ず、(もちろん間違いではないと思います。)
私自身、中毒という二文字を頭から離す事が出来なかったことから、
時期的には、除草剤や駆除剤などの化学薬品が直接体内に入ることによる
しかもある程度の量がまとまって一時に入る為に起こった薬品中毒という事に対して
親御さんから何らかのヒントが得られないか(少しでも適切、的確な治療をする為)
しつこくしつこくお話を伺いました。(もちろん治療を行いながら。)
ご近所で除草剤をお撒きになられたような場所が無かったか(草が枯れているような場所がなかったか)、
溝にボウフラ(蚊)駆除剤の散布は、植木などに毛虫の駆除剤は、・・・など。
ただ、私自身その様な事でここまでの症状になるかは疑問ではあったのですが。





その時です。答えが出たのは。
診察室に入ってこられたご主人が、
「この子の様子がおかしくなる少し前に、百匹以上のハチが巣を作っていたので、
ハチの殺虫剤をべたべたになるまで、それこそ一缶二缶スプレーした。」

と、お話しが終わるや否や奥様が
「あ!ハチを食べたのを見ました。そういえばそのすぐ後に吐いてからおかしくなりました。」とおっしゃられました。
そう、これが答えだったのです。
お気付きだと思いますが、殺虫剤を吸引する事だけで(もちろん良くない事はご承知置き下さい)ここまでの劇症疾患に陥る事は少ない様に思われます。
ではどうしてでしょう?
それは、ハチを食べた事にあると思います。
食べたハチ自体が大量の駆虫剤を吸い込み命を落とし、
ましてや羽や体が殺虫剤でべとべとになった状態。
言い換えれば、殺虫剤(毒物)のカプセルを飲んだ状態になったと思われるからです。



よく耳にしますが、
飛んでいる虫や動いている虫、昆虫などを「パクッ!」そんな癖を持っているワンちゃんやネコちゃん。
殺虫剤がかかっていなくても良くない様に思います。
寄生虫が感染したり、それこそ中毒になったり、
そこまでならなくても気分が悪くなり吐いたり下痢をしたりする事も少なくない様に思います。

[虫と動物毒]という分野もあるぐらいですから。
吐いたり下痢をしたりして[胃腸炎]と思っていた中にはこの様な原因があったかもしれませんね。
何も原因にお心当たりが無い場合ちょっとこのお話を思い出してみて下さい。
本当の原因を知る事、それが最も適切な治療を行う為の第一歩かもしれません。
そして、二度と起きない様、今後の予防の為に。
しつこく、嫌になるほど、腹が立つほど、泣けてくるほど、情けなくなるほど、聞かれる事もあるかもしれません。
私自身伺う際には申し訳ないと思っています。
でも、少しだけ分かって下さい。そんな獣医の気持ちもある事を。



お家の獣医さん!
お子さんが調子を崩した時、調子を崩すその前に何か無かったか?
ほんの小さな事だと思っていた事が、その事が・・・・・・。
ご家族の方と考えながら、思い出しながら、早く主治医さんに御相談を。

小さな虫でも、大きな事態に。
たかが虫、されど虫。
小さな虫だからと言って無視しないようにして下さい。
特に夏場の虫、弱った虫などは!

お気にされておられると思いますが
先述したハチを食べたワンちゃん、重篤な状態でしたが、
[殺虫剤中毒]と、原因物質の特定が出来た事と、
なにより、親御さんの思い、その子の生きようとする力が
病気に勝ってくれた事を書き加えさせて頂きます。