皆さまが「お家の獣医さん」になって頂く為には、今までお話しさせて頂いた様に、主治医さんが必要不可欠なのは分かって頂いた事と思います。
では、どの様に主治医さんを使ったらよいのでしょうか?或いは、どの様な事を聞き出せたらよいのでしょうか。

実は我々獣医師にとっても良い使われ方をされるのを待っている面もあるのです。
そこで少しお話させて頂きたいのが、診断名には気を付けて頂きたいと言う事です。
例えばお子さん(ワンちゃん、ネコちゃん)がお腹を壊し、便が柔らかく下痢になったとして病院に行かれる場合、
検査をされるにせよ、されないにせよ、
「これは腸炎ですね。お注射をしておきますので後はお薬を数日飲ませて下さい。」といった獣医師の診断で満足されていないでしょうか?診断名を言われた事で私も満足することでしょう。



しかし少し考えて頂きたいのです。
満足している要因のひとつは、[腸炎]と言う言葉です。
一般的に知られており、親御さんも良くご存じな言葉(診断名)だからでしょう。獣医師から親御さんがご存知の言葉が出る事で、理解した様な錯覚を起こしているのではないでしょうか?
私は、それが大きな落とし穴であり、間違いの様な気がするのです。


腸炎とは、腸に炎症を起こしていると言う総称名です。
腸炎と言う診断は、誰にでもできる事であり、下痢をしていればどなたでも腸炎と言っていればよいのです。
実は必要なのはそこからであり、腸炎は診断の始発点だからです。
以下の様な、原因の明らかな特異性腸炎なのか、
感染性腸炎(細菌性・ウイルス性・寄生虫性...)
薬剤性腸炎(抗生物質...)
腸管虚血(虚血性大腸炎・腸間膜動脈閉塞)
潰瘍性大腸炎・中毒性腸炎・吸収不良性症候群 
過敏性腸症候群(ストレスによる発症・増悪する心身症としての側面もある。)
好酸球性腸炎・アレルギー性腸炎...等
或いは原因が明らかでない非特異性腸炎なのかが大事だと思います。
そして又、全身性疾患の一症状なのか、単独のものなのかも大変大事な事ではないでしょうか。
なぜなら、
お注射を打ってお薬を飲んで便が良くなった。治った?それで良いのだろうかと言う事です。
なぜ腸炎になったのか、それこそが最も重要で今後のお子さんに必要不可欠なことではないかと思うからです。
[腸炎]で満足される親御さんは、又同じ原因で頻繁に病院に行かれる事でしょう。
それに対して、[なぜ]が分かるまで獣医さんとお話に成られる親御さんは、余り病院を必要とされない健康なお子さんと楽しく過ごす事が出来ると私は思っています。
(病院にとっては収入が・・・・まさかその様な獣医師はいらっしゃらないでしょう。)

例えば、アレルギー性腸炎が疑われた場合、アレルギーに対しての家庭環境や生活環境を変える事で、腸炎の再発を防げるとともに、腸炎だけではなく皮膚疾患・眼疾患・関節疾患・・・・など、様々なアレルギー関連疾患を抑える事も出来るでしょうし、
今まで気になっていた事が良い方向に向かって行く事も有りうるからです。
一つの症状や状態から全体を把握していく事。
これこそが今後のお子さんの健康管理に大きな意義が出てくるという事
だと思います。
この様に原因を把握した上での診断名を求められる事をお勧め致します。 


当然診断名だけではなく、原因の排除方法、そしてそれが他疾患とどの様な関連性があるのか、
数年後にどの様な影響を及ぼすかなど、再発の防止や予防方法をお聞きになられる事で診察が終わったと思って下さい。
もし、これらのお答が出来ない獣医師においては、お注射やお薬の選択が出来ないはずだからです。
何に対するお注射なのか、何に対するお薬なのか。下痢止めのお注射?下痢止めの飲み薬?
それでも良いのでしょうが・・・・・。
(すべてがすべて非特異性腸炎ではないと思いますから。)
何かの根拠があっての治療薬だと思います。
お家の獣医さんに成って頂く為には、診断名も大事でしょうが、診断名は獣医師(専門家)に任せれば良いのでは無いでしょうか。
もちろん診断名(原因の分かった)も知っておく事は大切な事ですが、お子さんのこれからの事を考えるのであれば、
「なぜ?」「原因は?」
そして一番大切なのは、それらが他の疾患にどの様な関連性が有り、今後のお子さんにどの様な影響を及ぼすか。と言う事でしょう。
それが分かれば、未来に起こりうる病気の予防策が見つかる可能性を秘めて入るからです。
当然、今を治すのも大変重要で大切な事です。
しかし、今後病気に成らない様にするのはもっと大切なことではないでしょうか。

知っている診断名で納得していませんか?
その場しのぎで良いのですか?
原因に対する的確なお薬を調合してもらいたくはないですか?
数年先を考えてあげて下さい。明るい未来に向かって。

お子さんの健康はお家の獣医さんにゆだねられています。
もちろん我々獣医師にも。