前回お話しさせて頂いた様に、様子を見ていても良い時ってどういった時なんだろう?
当然、湧き上がってくる疑問でしょう。
ところがこれをお答えするほど難しい事はない様に思われます。
で有るが故に、親御さんの最も知りたい事の一つだと承知しています。
そこで、私が導き出した答えと、そこに至った経過を少し例を交えてお話し致します。
これからお話しさせて頂く事は、私自身、反省しなくてはならない大事な事だと思っています。


犬(女の子)の事です。


「先生、この頃食事を食べたり食べなかったり、むらが有るんです。なんか元気も無いみたいなんですが散歩は喜んで行くんです。」と来院されました。
その子の年齢も若く、どうしたんだろうと思いつつ、データを見てみると、
生理(排卵前)出血後、約2カ月前後で乳腺が腫脹(張って来る)し、乳汁(おっぱい)が出てくるという、ご存知の偽妊娠と称される疾患(疾患と言っていいのかどうか‥)を持っていたのです。
その子は、生理(排卵前)出血後、常にその様な状態になるので、親御さんはその都度御心配になられ、ご相談に来られている事が記載されていました。
当然私も記憶にしている処でした。
そして、今までは無投薬で様子を見て頂きながら数日間隔で来院して頂きつつ、検診をしていると偽妊娠が治まるにつれ症状も改善されいつもの元気さに戻ってくれていました。


もちろん、獣医師として当然頭に置かなければならない事項、偽妊娠はホルモン性疾患であり、偽妊娠がおこるお子さんにおいてリスクの高い併発疾患、【卵胞のう腫】、【子宮筋腫】、【子宮内膜症】、【子宮蓄膿症】、【乳房炎】、【乳腺炎】、【乳腺腫瘍】・・・・
を念頭に置いて今回も検診を行い、親御さんにもお話をさせて頂き、少し様子を見て頂く事にしました。
数日後、お電話をちょうだいし、「元気になりました。」と言うお言葉を頂き、親御さんも私も、いつもの事だけどこの子も辛いね。と言いつつ、安堵してしまいました。


いつもの事と言う気の緩みも手伝ったのでしょう、来院して頂かず放置したのと同じ状態だったのです。
ところが、数週間後、以前と同じような状態になったとお越しになられました。
今までは、その様なぶり返しはなく、病院内では緊張が走りました。
診断の結果、当たってほしくない予想が結果として出て来たのです。
【子宮内膜症】の続発疾患である【子宮蓄膿症(閉鎖性)】でした。
その後の内科療法で元気に走り回って頂けるようにはなりましたが、私としては、悔いの残る診察の一つです。
私の一言が無かった為だと思っているからです。

それは、親御さんがお尋ねになられた、
「どんな時、どんな風になったら連れて来たらいいんですか?」
というご質問に、細かく思い当たるすべてをクドクドとお話したことです。
私は、それがいけなかったと思っています。
言い忘れも出てくるでしょうし、一つ一つ長々とクドクド言ってもすべてを覚えられる訳が無いのです。
私が聞く立場に立ったら、一つ二つしか覚えられないくせに、反対の立場になったら偉そうに知っている事を列挙する。
とんでもない獣医師?それとも評論家?だったのです。


その子その子の癖や、その子その子の表現の仕方が有る事を、これっぽっちも考えていなかったのです。
親御さんは[お家の獣医さん]だという事を軽視していたのかもしれません。
そこで、ふと気付いたのが、「どんな時、どんな風」こんなのは必要無いんだと。
それぞれ、その子その子を最もよくお知りに成られているのは、親御さんなんだと。
「どんな時、どんな風になったら病院に連れて行けばいいの?」
最も単純で最も難しいのかも知れませんが、「いつもと違う事、いつもと違う行動、いつもと違う何か」
これこそが真の、そして唯一の答えだったのです。
“あれ!いつもと何かが違う。”
そんな様子が見受けられたら、連れて来られることをお勧めします。
「それが分からないから聞いているんじゃないか。」
お叱りのお声が聞こえてきます。が・・・・
どんな小さな事でも、そしてお電話一本でも。
もちろん、その子独自の出うる症状も大変大事な事であり、お話しさせて頂いたうえで。


病院でふんぞり返っている我々獣医師だけでは、”病気になる前”を見つけることは難しいでしょう。
(ふんぞり返っていない獣医師には、申し訳ございません。)
そして、それが病気の前兆であるのか、そうでないのか。御様子を見てもらっていてよいのか、そうでないのか。を判断し、 そこから病気にならない様にする。それこそが主治医の存在価値でもあるのです。
以前にもお話しさせて頂いた様に、症状が出てからでは何とでも言えるんです。
出ない様にしてあげれてこそではないでしょうか。
親御さんも、“何もしなくても病気になって無かったんじゃないか。”と思う事無く、
“病気にならなくて良かった。”と思って頂けるようになってあげてください。
もちろん、獣医師はその様に思って頂けるよう努力を積み重ね、親御さんとの信頼関係を築き上げる必要があると思っています
獣医師一人で”病気になる前”を見つけることは出来ないのです。
親御さんとの二人三脚で本当のお医者さんになれるのです。

様子を見る前に、一人で悩まず、二人三脚。と思って下さい。


日頃の元気な時ほど、何も無い時ほど、見てあげて下さい。
その子の癖や仕草そして行動。
触ってあげて下さい。 顔や手や足や身体。
[お家の獣医さん]が病気になる前のサインをきっと見つける事が出来るはずです。