【蔵主のこだわり 木桶仕込み醤油】
■木桶に思う ■木桶と職人 ■木桶の歴史と
蔵に住み着く微生物

【職人の技と自然が造る、天然醸造へのこだわり】
■ビンテージの魅力 ■"醸"という字に
込められた職人魂!
■吉野杉の木桶で仕込む








 うちの蔵の自慢でもある、吉野杉の木桶は120年以上使い込まれてきた伝統あるものです。
創業以来、代々受け継がれ、今もなお美味しい醤油を醸してくれています。
木桶は、長時間、仕込みをせずに空のまま放置すると、タガ(桶の周りを固定している竹の輪)が緩み、抜けてしまい、使い物にならなくなります。先代、そのまた先代たちが、止むことなく、毎年毎年、仕込みをしてきたからこそ、今もなお、ここに木桶があるのです。今よりもっと設備もなく、大変な時代を経て、120有余年、一度も休まず仕込みを続けることは、並大抵のことではないと思います。

 私にこの木桶を繋いでくれた、先代たちに、いつも感謝しています。もろみ蔵に入ると、先代たち、木桶たちが私に語りかけます。「この先もずっと、先代たちがしてくれたように、あんたもずっと私を使ってね。そして、次の代にちゃんと繋いでおくれよ。」

 この木桶を、次の代に繋いではじめて、一人前の蔵主になれるのかもしれません。


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 昔ながらの古式伝統技法で仕込みます。木桶に入れた諸味(もろみ)は、1年半以上寝かします。温度管理などはしていません。あとは春夏秋冬"自然"に任せます。諸味たちは、蔵で、絞られるその時を待ちます。初夏から夏にかけては気温が上がり、活発に発酵するので、耳を澄ませば「プチップチッ」と諸味の声が聞こえます。冬は、静かに、暖かくなるのを待ちます。私たちが過ごす、同じ温度で、諸味も1年半の時を刻みます。「さぁ、いよいよお醤油になろうか」

 入れかえ(諸味を布につつんで絞る作業)の時期は、蔵主が決めます。人間と同じで、桶も一つ一つに癖があるので、熟成度も様々。また、その年の気候や雨量によっても出来が変わってきます。入れかえの合図は長年、醤油造りをし、木桶の癖を熟知している職人にしかできない仕事なのです。

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 現在の醤油業界では、FRP(プラスチックの桶)や、コンクリート槽、円柱型タンクで醸造するのが主流ですが、醤油の歴史をたどると、当たり前ですが木桶で仕込んだ時代の方が圧倒的に長いのです。
木桶の歴史に比べると、FRPやタンクで醸造するようになったのはごくごく最近です。

 木桶と、FRP・タンクの違いを言うと、一つは、木桶は爪を少し当てると食い込むくらいの柔らかい多孔質(たこうしつ)であること。顕微鏡で見ると木肌には毛穴のようなものがびっしり見えます。そこに、有用な働きをする酵母菌や乳酸菌などの微生物が住み着き、それが、その蔵の絶妙な味わいとなるのです。FRPやタンクにも、諸味が入っている時は酵母菌、乳酸菌がいますが、洗浄すると、あっという間に、みんないなくなってしまいます。木桶は洗ってもとれません。それらが足立蔵の味となって後世にずっと残っていくのです。
醤油は古来より木桶で造られてきました。高度成長期、大量生産時代の1960年〜1980年代には木桶は円形のため、角型の容器に比べて設置面積に無駄があり非効率だというだけで、蔵から木桶が追い出されました。また洗浄し難いため衛生上問題があると保険所にFRP(プラスチック)タンク等に切り替えを薦めたりで、木桶の苦難時代が続きました。気がつけば、木桶で醸造している醤油屋はわずかになってしまいました。コンクリート、FRP等のタンクを使用されるようになってからわずか40年余り。醤油醸造の歴史からすれば薄皮一枚程度です。木桶に勝る発酵容器は存在しない!!と確信しています。これからも先代たちが残してくれた木桶を大切に守って、次の代に繋げたいと思います。

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『天然醸造』とは、その土地固有の気候風土の中で、自然に任せてじっくりと熟成させる製法をいいます。"人間が感じる温度と時間をかけて造る"のです。高温になる夏が一年の内最も熟成の進む時期です。しかし、夏ほどは気温の上がらぬ春や秋でも、それを適温とする酵母等によっておだやかに発酵は進み、夏期だけでは得られない特有の深い風味を醸し出します。温度管理などは一切しません。自然に任せます。ですから、やはりその年によって醤油、味噌の味、風味、色合いなど多少違ってきます。ワインと同様、天然醸造の醤油、味噌は"ビンテージ"なのです。私は、醸造物の一番の魅力はそこにあると思っています。

それに対して、大手メーカーなどは機械で温度や湿度を管理し醸造期間を短縮する方法(即醸)がほとんどです。

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製麹(せいきく)は醤油の元になる麹を造る作業のことを言います。職人の五感と経験をフルに使って作業する、繊細かつ重労働な仕事です。醤油の"いのち"といっても過言ではないでしょう。

蒸した大豆と、炒った小麦を混ぜ合わせ、そこへ種麹を加え、室(むろ)と呼ばれる高温多湿の部屋で麹菌を培養させます。
室の棚床に麹を敷き詰め、室にある数箇所の空気穴から入る"通風のみ"で湿度を管理します。また職人は、30度以上の室に何度も入って、手作業で麹を混ぜ合わせ、培養を促します。もちろん、その日の天候や湿度でも変わってくるので、職人の五感と経験だけが頼りです。麹が暑がっているのか、寒がっているのか、湿度が欲しいのかを絶えず、麹と会話しながら麹を造っていくのです。

現在では、室が無い醤油屋。すなわち製麹をしていない醤油屋がたくさんあります。※1
たしかに、製麹はとても重労働で、私も好きではありません・・・。でも"醸(かもす)"という字を看板に掲げている以上、製麹は捨てたらあかん!と思うのです。醤油屋である以上、一から麹を育てて、醸して、木桶で熟成させ、搾って醤油をお客様の元へお送りする。これは私のプライドです!私が私であるための"証"なのです。


※1 全国の醤油メーカーは約1500社、その内自社で原材料から最終商品の醤油まで製造しているメーカーは約450社です。
    他のメーカーは圧搾後の醤油の原液を購入して加工する加工業の醤油メーカー。木桶仕込みとなると、約50社というところか。
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日本古来の脈々と続く伝統調味料である醤油の発酵には最も適したものが木桶だといわれています。木桶は繰り返し仕込みをするため、木肌には有用な働きをする微生物が住み着き、その蔵の微妙な味わいとなります。
詳しくは【木桶仕込みへのこだわり】へ

木桶で加温等はしないで熟成させ圧搾するまでには最低一年と数ヶ月は必要です。木桶で仕込むと、丸みが生まれ、味わいは深く、透明感のある色調になります。

大手メーカーは、出来上がったこうじを巨大円柱型タンク(100kl程)に入れて塩水と混ぜ合わせます。タンクは二重構造になっていて外側はいつも発酵に最適な温水が回っています。タンクの高さは40m近くになり、下から強制的に空気送り込み、発酵を促します。約10ヶ月で完成します。圧搾され「醤油」となります。

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